当惑する少女が部長です!!
生きることは食べること。食べることは殺すこと。
これがうちの学校の教訓なのだ。なんでも今の校長がもともと農食関係の大学で家畜について研究していたらしい。そこから今の若い子に食の大切さを知らせるべく校長となったんだって。例としてあげると、食堂が2階建てだったり、購買ではポップコーンが買えたりなど。つまり、うちの海艶高校は食に力を入れているのだが。
「多すぎるよ」
この狭い廊下に自販機が10台も並んでる。しかも怪しすぎる飲み物も数多くあり、「コーヒー炭酸」「ドリアンジュース〔果実1%〕」「鍋スープ〔石狩鍋風味〕」「ハイパーデラックス林檎ジュース」などの数多くの市販されていない飲み物があってしまう。企業が若い子のサンプルデータを欲していて、その実験場になっている。まぁけど、このおかしな飲み物は意外と学生からの評判は悪くないのです。理由としては、安いの一点につきるけど。とりあえず私は市販されてるウーロン茶を買うために130円を入れた。
「七海先輩」
声の主は道端で500円玉を拾った時くらい上機嫌だった。
「みこちゃん」
彼女は私の部活の後輩の竹中神子。背はだいたい170cmぐらいで、サイドテールが目印の女の子。外見は背が高いせいか高3を超えて卒業生にすら見える。性格ははっきりしていて、クラスの学級委員長にも選ばれたとか。
「お茶を買いに来たんですか?」
「うん。みこちゃんも?」
「はい。私はスポーツドリンクを買いに来ました」
私はみこちゃんと会話しながら130円を再び自販機に投入した。今度は六花のぶんだ。
「それ、六花先輩のぶんですか」
声が急に暗くなった。みこちゃんは感情がはっきりしていて、見た目の割に内面は子供っぽいところもある。そういう所もかわいいのだ。
「そうだよ」
「あんな先輩のために飲み物なんて買う必要ないですよ。さっき図書室で演劇部の勧誘断ってたんですから。最低な人です。七海先輩さっさと別れるべきですよ、あんな先輩となんか」
ネタが切れたのかそれとも、息が切れたのからからないけどとりあえず六花に対する悪口は一時休止した。ここまで六花のことを悪く言うからにはなにか理由があるんだろうけど、私は全く知らない。
「六花、図書室に行ってたんだ」
「はい。顧問の横山先生に呼ばれて来てました」
「そして勧誘を断ったと」
「そうです。横山先生がまた不登校になったらどうするつもりなんでしょうかね。もっと先まで見据えるべきです」
横山先生のメンタルは豆腐のようにもろく、先週は鬱で2日学校を休んでしまうという箱入り娘。それを証明する伝説として、「上野学校来て!!伝説」というのがある。去年六花のクラスで上野君という生徒が3日間無断で学校を休んだ。原因は毎日出される宿題に嫌になったとのこと。それだけならそんなに珍らしくはない。内の海艶高校は1年間で1クラスに1人の不登校が大抵でるからなのだ。だが横山先生の場合、それを自分のせいだと思い込んで先生まで不登校になってしまった。その後上野君は先生の不登校を聞き、友達に説得されて最初に休んだ日から一週間後に学校に来た。ただ、先生が学校に来たのは上野君が学校に来てから3日後だった。
「でもそれは六花のせいじゃないよね?先生が不登校になっても」
「そうですけど…でも、部活に入ってくれてもいいと思います。だっていつも図書室で本を眺めてるだけなんですよ。そんなに暇なら部活にでも入れって思いませんか?咲先輩のためにも」
この子は六花に対してデレることのないツンデレなんだろうな。そして演劇をだれよも好きだからやつあたりしてるんだろう、きっと。だって六花と接点がないのだから、こんなに嫌う理由なんてない。
「しょうがないよ。部活に入るなんてその人が決めることだしね」
さっきまで六花に押し付けがましく勧誘していたのはゴミ箱にでも捨てて相槌を打った。だって私の場合部活に入ってほしくない気持ちもあったから。1週間しか思い出を残せない少年がグループに入ることができると思う?特別な記憶の闇を持った少年が。
「咲先輩はあの先輩に入ってほしくないんですか?」
私の存在はすべて六花のために。だから、
「私は六花にまかせるよ」
「そうですか」
私の心はみこちゃんに観察されている。
なんか怖い
「じゃあ私行くから、また明日」
「はい」
私はいそいそと六花のいる教室に戻った。下級生にひとかけらの不安を感情の隅に残して。
この学校は約7年前に合併して海艶高校となった。
その時から今の校長になって大きな、大きな増改築が行われたんだって。その1番の例が食堂。もともとの食堂の食べる所はテニスコート二面分ぐらいの大きさなのだ。けど、海艶高校となってからは前の食堂の1.5倍ぐらいになった。しかも2階建てに増築されたのだから、収容人数はだいたい3倍ぐらいになった。しかも食堂の中には鉄板のある席や、一人メシスペースなどもある。さてさてここからが本題だけど、前の食堂はどうなったのか?
答えは演劇部の部室になったのです。合併した当時はその広さのせいで様々な部活が我先にと立候補して、この場所をかけて戦が行われたらしい。そして、当時「演劇局」であったうちらの先代が勝ちとったのだ。
ちなみにうちの海艶高校の放課後活動はランク分けされていて、サークル・部活・局の三つに分けられてる。一番重要度が低いのはサークルで、これには部費も顧問の先生も部室もない。だから大会にでたい時はそのつど先生に直談判しなきゃいけないし、活動も裏庭や公園、空き教室などでしなければならない。まぁ長所としてはものすっっごく自由度が高い。条件は二人以上いればいいという低ハードル。ぼっちにはきついけど。そして部活の中身は「マホラム教信仰サークル」「ペン回しサークル」「折り紙サークル」「アルバイトサークル」「サークル作り手伝いサークル」などがある。他の長所として、部活の掛け持ちの制限がない。だから、受験の時の自己推薦用紙で部活欄に10個のサークルを書いた強者も過去にはいたらしい。しかも全てのサークルで部長だった。すごすぎて馬鹿みたいに感じる人もいたもんだ。次に重要度が低いのは部活なのだ。定義として「5年以上活動していて、部員の総数が7名以上のサークルとする。また一定以上の成果を収めたものとする」と生徒手帳に書かれている。ちなみに今は過去の栄光むなしく「演劇部」なのである。そして一番重要度が高いのは局。これは「学園生活をおくるうえで一般生徒が支障をきたさない部活。または学園の発展のためにいちじるじく貢献した部活」と定義されてる。局になると、お金がたくさんもらえたり、テスト1週間前の活動も許されるようになる。
なにを言いたいかというと、このままだとサークルにランクダウンしてこの部室が使えなくなってしまう。つまり活躍しなくてはいけない。
「こんにちは」
放課後の元食堂が一瞬だけきらびやか森の中に変わった。たった一人の挨拶で。その声は一直線に私の耳に届いた。山のなかにあるか細い小川のような声。
「ともちゃん、先生こんにちは~」
声を出したのは一年の鳴宮智演劇部員だ。背が小さく私から見た右側にリボンがついてるため、実際より幼く見える。そして赤い縁の眼鏡や胸ポケットに入れてる手帳が利発的な雰囲気のあるかわいい少女。髪の毛は少し変わっていて全体的にはショートなのだが、サイドだけ長く胸元まで髪が伸びている。
「先生今日はどうしたんですか?」
「え~とね。実は神子さんに呼びだされて」
「そうなんですか。ともちゃん今日なにかあったけ?」
一応私がこの部活の部長だけど、予定を把握してなかった。日程やお金の管理はともちゃんに、部活の内容はみこちゃんにまかせてる。
つまり私は置物部長なのだ。
「今日は神子さんが図書局で部活にでれないので、ストレッチとランニングと物づくりだけです」
先生が呼ばれた理由がわからない。そもそも今日はみこちゃんが図書局なので部活に参加できない。それ以前にこの先生は今年海艶高校に初新任して、人生で今回初めて演劇に係わった。だからアドバイスとかはあまり期待できない。一番演劇に詳しいのはみこちゃんだろう。
「先生はなにか聞いてますか?」
「神子さんに4時半に部活に来てって言われただけだから」
時間まであと20分程度だった。
「もしかしたら新入部員の勧誘に苦戦してるのかもしれませんね」
言葉を発したともちゃんのほうに意識を向けると、台本で顔が隠れていた。私も急いで台本をバックから探し出す。一応部長らしくしとかないとね。
「咲先輩は勧誘どうでしたか?」
「私は全然ダメだったよ」
実は六花以外にも数人の仲の良い友達を誘ったが、部活が忙しかったり面倒と言われて玉砕した。まぁそんなもんだろうとは思ってたけど。このままだと本当に演劇サークルとなって部活存続の危機だ。どうにかできないもんかな?
「ともちゃんはどうだった?」
私は自分にきた質問をそのまま返した。答えはダメだとわかってても一縷の望みに託したい。
「わたしも断られました」
「だよねー」
ともちゃんの顔が台本の影で暗くなる。一番悪いのは部長である私なのだから、そんな暗い顔はしないでほしい。
この部活は6年前から衰退の坂道を転がり落ちてる。6年前には部員が30人以上いて、演劇部で初めて全国大会に出場したらしい。そして全国大会で出場したことにより演劇局となり、今の部室が使えるようになった。ただその時からこの部活は壊れ始めた。噂では自殺者がでたとか、その年の部長がスーパーエリートだったとか、部員の一人が犯罪を起こしたとか、幽霊がこの部屋にいたとか、顧問の先生が世界で活躍してた役者だったとか色々ある。だけど真実は6年前の演劇部員しか知らない。もしかしたら、全て真実なのかもしれないし、全て嘘なのかもしれない。
今の私たちにはあまり関係ない話しだけどね。
「このままだったら廃部になってしまうよ」
先生の発言に少しいらだちを覚えた。だったら先生もなにかこの部活のために頑張ってほしいと。
その発言のせいで空気に灰色の霧がかかる。
「こんにちは」
数分たったときに一人の声で灰色の霧は一瞬で蒸発した
聞こえてきた声はともちゃんと同じように遠くまでよく聞こえる声だった。ただともちゃんの声とは逆で、全ての空気を振動さして私の耳の鼓膜を揺らす力強い声。
「みこちゃん?」
私の?マークは声の主のみこちゃんに対してではない。いつもなら図書当番で来れないことに、疑問を持ってもおかしくはないのかもしれない。ただ今はそれ以上の異常がある。鹿の群れの中にライオンが寝てるような、発生確率が0に等しいことが目の前にある。
「六花どうしてここにいるの?」
私にとって1番大切な存在で、1番ここにいるはずのない人が目の前に。
「先輩が部活に入ってくれるらしいですよ」
みこちゃんはあたり前のように目の前の異常の理由を説明してる。
「入ってくれるの」
だれよりも素早く反応したのは先生だった。小さい子供がクリスマスにサンタからのプレゼントをもらったかのように喜んでる。私はそれを見てやっと思考ができるレベルまで落ち着きを取り戻した。
まずすぎる。
先生は去年60日ぐらい学校を休んでる。それは極端に精神が弱いからであり、そんな先生に今「入らない」と答えたら、確実に1週間は学校に来ない。
「やっぱり七海とずっといっしょにいたいとか、思ったりしたので部活に入ろうかなと…」
そして六花もそのことを十分に知ってるので入部するしかなかった。
「よかったね、咲さん」
「はい」
先生だけが飛び跳ねるくらい喜んでるのが印象的だった。
読んでくれた皆さんありがとうございました。誤字・脱字が多かったと思います。ごめんなさい。
次の主人公はあなたです。




