冷たい少年と演劇部
「演劇部に入部してよ。六花」
毎日が新鮮な学園生活。けど他人から見たら普通なんだろうな。そんなことを考えてると形容的には幼馴染が一番しっくりくる少女からの無駄な提案。
「部活になんて入るわけないだろ。七海」
ぼくは弁当を食べながら少女の提案を一蹴した。
「本番当日まででいいからさ」
「だから入らないって」
「少しくらい考えてくれてもいいじゃん」
七海とはマンションの部屋が隣同士なため、家に帰ってもいつもいっしょにいる。内の母親は小6の時に列車との交通事故で死んだらしい。そのため七海の家にはお世話になることが多く、夕食はいつも七海家で食べている。
「他の人に頼めばいいだろ?」
「こんな時期に部活に入ってくれる人なんていないよ」
七海が口を尖らせながら反論してきた。
今は6月の中旬。梅雨のないこの地方では気持ちいい季候だ。そして部活の勧誘から2ヶ月もたつので、新入生の入部も期待できないだろう。だからって高校2年生であるぼくに頼むなよ。
「もう六花しか頼める人がいないの。お願い!」
七海は両手を合わせ、頭を下げて頼んでる。
「断るよ」
ぼくの答えはもちろん変わらない。ぼくは人と関わるべきではない人間なのだから。
「なんでさ」
「じゃあ聞くけど、どうして今まで演劇部に誘わなかったのさ。一年生の時に勧誘された記録なんてないよ」
これは当たり前の質問だった。1日の10時間以上ぼくの世話をやくこいつだが、部活に誘われた経歴は一切ない。それはなぜか?答えは簡単で七海が心配してくれたからだ。人付き合いが超苦手なぼくのことを。
「それは昨日部活を辞めた人がいるからだよ」
七海の顔を見ると不安に影を落としてる。それでも首を振って笑顔になっていた。こいつは絶対にぼくの前では悲しんだり、泣いたりはしない。いつも七海は無理をしているのかもしれない。そのことはいつも気がかりなのだろう。などと、第三者的視線で考えてみたりする。
「というわけで演劇部に入部してよ。六花」
けどぼくは絶対に部活になんて入らない
「他の人を誘ってください」
「けち。いじわる。白髪。鳥頭。いくじなし。コミュ不足。低体温。貧弱。うそ…」
「うるさい」
おもにあることしか言ってないので腹が立って、利き手の左手でチョップをした。付き合いが長いと弱点や短所が多く発見されてしまう。面倒なことだ。
「短気」
恨めしそうに苺饅頭を頬張りながらじと目で見てる。
この学校、海艶高校では食べ物に力を入れている。購買の近くでは焼きたてのクレープやたこ焼きが売られてたりする。購買でも饅頭やゼリー、黄粉餅なども購入可能。
「白髪で、鳥頭で、いくじなしで、コミュ不足で、低体温で、貧弱なやつが部活をやれるわけないだろ」
「そんなことないよ。いいとこもたくさんあるよ」
「たとえば?」
「かわいいとか?」
少しでも期待した僕が馬鹿だった。
「いった~い。今のデコピン本気だったでしょ」
毎日ぼく達は弁当をいちゃつきながら食べている。クラスのみんなもいつもの風景として見ている。男子からの視線は突き刺さるほど痛いけど。担任からも、お叱りを何度か受けたことがあるらしい。
「かわいいは褒め言葉でしょ‼」
「それは女子限定な」
あと1個しか言ってないからな、いい所。悪い所は8個以上言ってるのに。
「そんなことないよ。最近のアニメやゲームでは男の娘というジャンルだってあるんだから」
「それって小学生の男子しか当てはまらないだろ。僕らは小学校を卒業してから5年もたってるんだよ?」
七海とは同じ小学校、中学校だったらしい。けど今までクラスがいっしょになったことはないんだとさ。小学校と中学校では2クラスしかなっかたから、普通に考えたら一回ぐらいいっしょになってもいいとは思うけど。
「違うよ六花。私がいってるのは男の娘だよ」
そう言うと七海は、4時間目に僕が勉強していた、英語のノートに字を書き始めた。10秒もかからないうちに僕の目には「男の娘」の文字が見えた。
「男子なのに背が低くて女子みたいにかわいいキャラのことを言うんだよ。おもにラノべや恋愛ゲームに出てきて、女の子より女の子らしいの。物語的には最初にネタバレさせるか、伏線を敷いて後からネタバレさして読者を驚かせるパターンのどっちかが多いキャラだね。私的には…」
「つまりぼくのことを男の娘と言いたいと」
「うん」
話の内容は二割程度しか理解できなっかたけど、やるべき行動は十二分にわっかた。
「暴力反対~」
「うるさい」
今回もまたデコピンをした。しかし、今回は前回の指ではなくシャープペンシルで。あんなテレビに出ているオネェといっしょにしないでほしい。
「だって六花って髪白いじゃん」
これは母親がロシア人だからである。この白髪のせいで、高校に入学してからの一週間で補導を6回くらってしまったらしい。目立つのが嫌いな僕なのに、目立ってしまう。遺伝だからしかたないけど。
「肌だってかなり白いし」
これもさっきと同じ理由だ。前に1時間ぐらい太陽光を浴びたら耳の皮膚が溶けたらしい。それ以来1年を通して日焼け止めクリームと帽子が必需品となった。今の時期が一番気にしないといけないのだ。
「背だって160cmないじゃん」
正確には158㎝で前から2番目である。背が低いというのは本当に不便で、一昨日は中学生に間違われた。他にもスポーツは全般的に不利だし、なにより、背が僕より高い女子と話したりする時は虚しい。一応七海よりかは約3㎝背は高いので、七海を見上げることはないのはよっかたけど。
「男の娘じゃん。もぐもぐ」
「なんでだよ」
こいつはどうして男の娘にこだわるんだ?馬鹿なのか?
あとかってにぼくの卵焼きを食べるな。それはぼくが作ったやつだぞ。
「あとは、声と目の曇りを直せば完璧だよ」
ぼくの目は小さくて、なんか常に困ってるような印象を受ける。鏡で毎朝自分の顔を見るけど、いつも情けない気持ちになる。だけど、目の曇りを直したら男の娘になると考えると複雑だ。
「というわけで六花、部活に入ろうよ」
数学の授業が体育になるようなびっくりな変更。今までの話で、ぼくが部活に入るメリットがあるとは思えなかった。
ぼくは人と関わるのが嫌いだ。
人と関わった大切な思い出を忘れてしまうから。笑ったり、泣いたり、怒ったり、喜んだりした大切な原因を無くしてしまうから。普通なら緩やかに、忘れたことすら思い出せなくなって消えてゆく。
だけどぼくは違う。
一週間たてば強制的に記憶がリセットされてしまう。この繰り返される学園の風景も。七海のお母さんが作ってくれたカレーの匂いも。そして七海の存在も、全て消えてなくなってしまう。これは過去に事故にあった後遺症。医者の診断でも異質な記憶障害と判断された。僕の障害は記憶の忘却の速度が急激に上がること。これは決まって寝てる時だけにおきて、七日前の出来事だけを正確に忘れる。といってもこれも日記に書かれてる記録だけど。
だから昔のことは覚えてない。
「七海だってわかってるだろ?ぼくが部活に入りたくない理由」
過去の後遺症は七海と家族しか知らない秘密だ。他の人に言ってもしかたないし。
「彼女にそんな態度をとってると嫌われるよ?」
「彼女」という単語をだして勧誘してきたせいで、周りから視線が余計に白くなった。七海はこういう単語を平然と使うことが多い。しかも悪気なく。だから注意のしようもない。
客観的な意見として七海が彼女なら誇らしいと思う。スタイルは全般的に平均だが、顔は整っている。クラスでも上位の部類だろう。髪の毛は頭の後ろ側でくくってたらしてる。そして性格が太陽みたいなやつなのだ。みんなに優しく、ほがらかで暖かい。そのせいでぼくのクラスでも人気が高く、いつも弁当を食べるときは注目の的になっている。目立ちたくないのに。
とりあえずクラスの視線が痛いため、席を立った。
「なんか飲み物でも買ってくる」
「じゃあ、いっしょに行こ」
「こなくていいよ。ついでに買ってくるから」
むしろついてこないでほしい。
「女心がわかってないな~。飲み物なんて二の次で六花といっしょにいたいんだよ。」
こういうセリフを言う時は、周りを確認してからにしよう。周りの視線が針のように刺さるので、精神的に痛くなります。
「いくよ」
「うん」
七海が頷いてついて来た。ここで来るなと言ったら、七海がさらにごねて目立ってしまうから。モンスターペアレントもびっくりの過保護ぐあいである。
「六花君いますか?」
出ようと思っていた扉が開いて、その先には女の人がいた。教育実習生ぐらいの若さで、茶色の天然パーマが大学生特有の空気を出している。しかも顔が小さく二重まぶたのせいで大学生よりもさらに幼く見える。だがまぁ担任なんだよな、この人。学生の中にいてもおかしくないくらい若いのに。
「今暇かな?よかったら図書室に来てほしいんだけど」
上下関係がわからなくなる頼み方だな。もっとびしっとしたほうがいいですよ、先生。
「咲さんと用事があるなら放課後でもいいけど…」
目線を合わせずに下でもじもじしている。この担任はびっくりするぐらい気弱だ。記録では、去年もぼくの担任だったそうだが、60日学校を欠席してるらしい。クラスでもトップの欠席数。ちなみに今年は6月中旬の段階で12回らしい。多分進歩したんだと思う。
「なんにもないですよ」
おまえが言うなよおまえが。
「じゃあ行きましょうか」
「レッツゴー」
別に異議はないけど、かってに行くと七海に決められたのが腹が立つ。あと、おまえも来るのかよ。
「できれば咲さんは来ないでほしいかも」
先生ナイスです。あと強気に。
ぼくは毎日暇をつぶすために図書室に来ている。本当はさっさと家に帰ってのんびりしたいのだけど、過保護の幼馴染のせいでいつも待ってる。前に一人で帰ったこともあったらしいけど、1時間以上怒られて本当に困ったらしい。なので待つようにしている。
「六花君、座っていいよ」
新刊本のところで本を眺めてると、先生から声をかけられた。今日は本の入荷日だったらしい。星の写真集があったので、放課後にでもじっくり観察してみよう。
先生に勧められたので、図書室のイスに座った。図書室のイスは全部ふかふかして気持ちいいのだ。
「実はお願いごとがあるんだけど、いいかな?」
先生からはよく相談されるらしい。理由は書いてなかったが、多分クラスで浮いてるぼくなら相談内容が漏れないとか思ってるのかもしれない。推測だから断定はできないけど。
「その……演劇部に入ってくれないかな?」
今日はぼくにとって厄日なのだろう。同じ日に、同じ部活に誘われたのだから。
「先生は演劇部の顧問なんですか?」
しかし七海のようにすぐに断ることができない。年上ということもあるが、なにより不登校先生なのだから。
「うん」
「それで部員が少ないからぼくに入ってほしいと」
さっきからぼくと先生の会話を凝視している女性がいた。本の貸し出しの受付に座っている。顔半分パソコンで隠れているが、両目でぼくらのことを見てるようだ。座高が高く、大人びているため、多分高校3年生だと思う。
「うん」
記憶障害のことを言えば入部しなくてすむだろうけど、こお先生が不登校になる可能性があるので却下だ。そもそも障害についてはあまり話したくないことだから。
「なんでぼくなんですか?」
「六花君てその、優しいし、頼みやすいからかな?」
この人は本当に先生なのでしょうか?一週間以上前から変わっていたら、ぼくは気づかないし。
「七月の公演まででいいからさ、お願いとか…できないかな?」
この先生はずるいのだ。こんな弱弱しく頼んできたら酷く断りにくい。更に不登校になる可能性だってあるのだから。だけど、ぼくの意思は変えられない。
「ごめんなさい。人と深く係わりたくないんです」
他人との思い出を作りたくないというつまらない理由。
「それに七海に迷惑をかけたくないですし」
これは言い分けだった。だって演劇部は人数が足りてない状況。ならば人が多いにこしたことはない。それに、ぼく自身七海といっしょにいたいのならば、七海の迷惑にならないように努力をすればいいだけなのだから。
だけど七海を大切にしてるのも真実。朝食を食べる時や、登下校中、休み時間など、授業と部活の時以外はずっとだ。ぼくの障害によって七海を鎖で束縛してしまった。だから部活の時ぐらい枷を外して自由になってほしい。
「咲さんは迷惑とか、思ってないよ」
先生は弱弱しかったけど言い切った。気がする。
「だって嫌いな人に、あんなにべったりするはずがないと思うよ?」
七海はぼくのこと嫌ってはいないはず。だけどあんなにべったりしてるのは異常だ。クラスに来てお弁当を仲良く食べるほどなのだから。そして近くにいすぎたからこそ、ぼくらは共通したなにかを。どこかに閉じ込めてしまった。
「ずっといっしょにいるからこそ、たまには離れたいんです」
「そっか…」
小さな溜息とともに納得してくれたらしい。先生ごめんなさい。
「こんなおかしな頼み事してごめんね」
「かまいませんよ」
ぼくは笑みを浮かべながら図書室の扉に手をかけた。
「死ねばいいのに」
そんな言葉を聞きながら、本の世界から急いで抜けだした。
読んでくれた皆さんありがとうございました。初投稿で誤字・脱字が多かったと思います。ごめんなさい。これからも、定期的に投稿しますので次もまた読んでくれたらうれしいです。
次の主人公はあなたです。




