カメラで切り取る日常
「ねえお兄ちゃん、そんなにカメラいじるの好き?」
己の雪ダルマを撮って貰えるのは嬉しいが、遊んで貰えたらもっと嬉しいな、と言う思考が透けて見える退屈がお。
まあ、修理したてで調整がてらの撮影、というあしらいが不満なのかも知れない。
「最近のデジカメはレンズに水晶使ってるらしい」
「水晶?」
「アメジストや、シトリントパーズの仲間」
女と言うのは子供ですら宝石に目を輝かせる。
「え? でも、何で?」
食い付いてきたな。会話で妹を釣りながら雪ダルマにピントを合わせる。
「水晶は偏光って特徴がある。光を二重にするんだ。要らない光を弾いて、綺麗に写す為に人工の水晶を入れてる」
へー、と目を丸くして、妹はカメラを注視する。
「お兄ちゃんのは水晶は入ってないよ」
年季だけはあるが。
「おじいちゃんの形見でしょ?」
綺麗に磨かれて、大事に手入れされて来たものだ。祖父はこのカメラを愛していた。
「電池を使ったカメラの先駆者。今じゃ水銀電池なんてないから、電池はちょっと改造してるんだけどな。他にも、あちこち部品をいじってある……内臓を移植手術した様なものだよ」
まだ動く、と呟けば、妹も殊勝なかおで頷く。
「大事にしたら、お兄ちゃんの孫も使えるかも知れないね?」
「……そうだな」
このカメラで生まれたての妹を写真に残したし、入学式や運動会なんかのイベント、旅行写真、季節柄の風景写真……たくさんのアルバムを遺してくれた。
サラサラと零れ落ちた砂時計の砂を、この手に幾許か掴み取ったのだ。
「じゃ、キチンと修理出来たか確かめるから、雪ダルマの隣に立ってみて」
寒いと膨れながら、髪やらマフラーやらを整えて妹はいそいそと雪ダルマに寄り添った。
「キレイに撮ってくれなきゃ、ダメなんだからね?」
などと言って見せつつ、口角はキュッと上がる。ノリノリだ。
「ハイハイ。じゃ、最高にキレイなかおしてみろよ。ほら、笑って?」
苦笑混じりにカメラを構えると、一頻り目を泳がせてから、ややはにかんだ微笑みを浮かべてみせる。
……意外にあざといなお前。
予告無くシャッターを切ったら、あ、というかおをして、妹は、今のはダメー! やり直し! と膨れた。
ちゃんと撮るなら撮るって言って、とプリプリ怒る。
OKが出るまで何度も取り直してくたびれたが、フィルムを現像して写真を見る頃にはいい思い出になっているかも知れない。
こんな風に、自分も思い出を残していこう。祖父が遺してくれた様に、他愛ない日常を分かち合える誰かに。