22蠢く影
”声”も興味を持った魔法陣。
魔力の少ない魔術師を補助するため、あるいは人智を越える魔術を扱うためのブーストとして魔法陣は用いられる。
あくまで脇役であるそれらについてナタリアはあまり詳しくない。
大賢者に教わったこともなく、専門書をかじった程度の知識しかない。なにしろ”声”を呼び出す儀式に魔法陣を描いたのが、二度目の経験だったくらいだ。
ナタリアが個人の知識で教えるだけでは、”声”の期待には到底応えられそうにはない。
幾つか考えつくことはある。
帝国で魔術の権威といえば第二魔術師団だが、あそこは排他的・選民思想過ぎて軽々しく相談に行ける場所ではない。軍の傘下にある魔導研究所も排他的なはずだが、そこに所属するナタリアならばまだ取っ付き易い。
以前魔法陣を売却し、縁のできた魔術ギルドに行ってみるのも悪くはない。
王国色だということを除けば、研究成果を世間に広めようという志は、まっとうな魔術師と正反対の社交的なもので、こういう時は頼りになる。
色々とやらなければならないことが、増えてきた気がする。
それを分かっていたからこそ区切り、けじめとして世話になったダリウスの所に挨拶に行ったのだ。これからは忙しくなる。その波はもう目の前にまで迫っているということだろうか。
悩んだ挙句、魔法陣についての考察は一旦保留することにした。思いついたアイディアを何もかも実現出来るわけではない。そういう意味で優先順位というものがある。
既に着手している”声”の知識を実現させるほうが優先順位が高い。
いつものように魔導研究所のコンラの研究室へ入ると、郵便がきていた。不在の家主に代わり中身を読ませてもらう。
「あぁ、”翁”からじゃ。依頼していた物が完成したようじゃ」
『即座に活用できるものでもないが、十分未来性のあるアイテムだ、楽しみにしている』
”翁”への依頼は意外に早く受理されたらしい。こうも対応が早いとは想像していなかった。
送られてきた手紙――報告書には簡潔に依頼品が完成したことのみが記されていた。
受け取りに来い、ということだろうか。今は先輩であるコンラがいないから誰かに聞くことも出来ない。ナタリアは”翁”の工房へ自分から出向くのが礼儀だと、単身工房へ向かった。
暗く長い地下道を通り抜けて、前に来た工房に到着する。
巨大な炉が今日は赤赤と燃えている。そのせいか、室内の気温は高い。地下から身体にまとわり付かせている冷気が残っているうちに用事を済ませたいものだ。
”翁”は前来た時とまったく同じように作業に没頭していた。声をかけるのも憚られる。横に視線を動かせば、壁際のラックにいくつかの完成品が並べられている。その中にはもちろんナタリアの注文した金属の板も含まれている。
近づいて、手に取る前に一応職人の伺いを立てようと振り返る。”翁”は何も語らないが、その背中で肯定を返しているように思える。
ナタリアは無言の肯定に背中を押されて、出来上がった金属板を手にとった。
「これが、電気回路……」
金属板には絶縁体の薄いラバーが貼られ、ところどころに指の先ほどの小穴が空いている。板の上で導線が何本も交差し、四方八方に伸びている様は、まさしく精密機械だった。
張り巡らされた導線は、魔法陣の血の紋様に似ていて何処か違う。
共通点は環であることくらいか。
<循環盾>の開発でも、環への気付きは、極めて重要だった。この回路というものもきっと役に立つに違いないと思われる。
『ふむ。こんなものか。上出来じゃないか。電力は魔術で確保出来るんだろ?早速試用してみようぜ』
「あ、以前に言っておった<発雷>術式じゃな。よしやってみるか」
”翁”に断って作業場の一角にある試験場を使わせてもらう。
<黒霞>を売却した金で購入しておいた日属性の初歩魔術<発雷>。二本の指の間に静電気を発生させる術式は、負極と正極を作り出す。その魔術は”電気”という科学の階梯に一歩足を踏み入れかけている。
”声”は可変性の高いエネルギーとして真っ先に電気エネルギーを探した。魔術が全てを代替する世界であっても、物理法則そのものに大きな変化はない。それはつまり、やりようによってはこの魔術の世界に科学文明を築きあげることも不可能ではないということだ。
そのための一歩として”声”は電気エネルギーについて、この世界の理解度を調査した。
そして<転写>の知識から探り当てた<発雷>という初歩魔術。これは魔術エネルギーを電気エネルギーに変換するコンバータになりうる。将来的に魔術と独立した技術を目指すならば、発電方法も別のものを考えなければならないだろうが、今は取り敢えずこれで十分。
”翁”に製作依頼した集積回路はオーバーテクノロジー過ぎたようだが、簡単な導線ならばこの世界の技術でも作ることが出来るらしい。現に発電機の欠けた電気回路ならここに現物がある。
『<発雷>で変換されるエネルギーは少量だから、危険は無いと思うが注意はしておけよ』
ナタリアは”声”に指示された通り、電線の一方を右手に、一方を左手に添える。
<発雷>術式を起動。ギルドで見た基本術式そのままではなく、随所にアレンジも加えてある。
肉体に宿る自由電子が魔力の後押しを受けて、動き出す。ナタリアの肉体は電気回路の一部品と化し、電圧差を作り出す――
――そう、なるはずだった。
何も起こらなかった。<発雷>は起動している。正極と負極、ナタリアの身体には電子の偏りが発生している。目で見ることが出来なくとも、夜の属性の認識力強化によってなんとなくの感性でナタリアは理解に至る。
「流れぬ、な。お主の言う通りならばこの金属の糸を伝って電流とやらが流れるはずなのじゃろう?」
『失敗、か?出力が足りない?導線が悪かったのか、粗悪な金属で断線していたとか……』
導線をよく見ると太さがてんでバラバラだった。”声”の常識からすると未完成としかいいようがない出来なのだ。
ナタリアは何度か試してみたが、尽く上手くいかない。失敗と言う”声”は、しかしそれほど落胆しているようにも思えない。
『あー、まあ気にするな。実験なんて殆どが失敗と試行錯誤の繰り返しだ。それに電気にそれほど拘ってたわけでもねー。郷に入っては郷に従え、魔法の使える世界で魔法を使わない方がおかしいんだからよ』
「いや、魔術はばっちり使っておったが……」
ギルドで手に入れた<発雷>の値段は安かったが、ただではない。あっさりと<発雷>の使用を諦めた”声”に少しムッとする。
『本当にやりたかったのは、この回路を魔力で実現出来るかどうか、ということだ。各部の部品の役割は説明しただろ?それぞれを魔法的に代用できる物を組み込めばいいと思うんだが』
”声”はナタリアの抗議を意識的に無視したようだ。溜息をつきながら滔々と語る”声”の言葉に耳を傾ける。本当に、悪魔は自分勝手だ。勝手に居なくなって心配させて。ひょっこり戻ってきて呆れさせる。
『<レーザー>の開発は難航しているが、その分はこっちで挽回する。魔法陣という回路の原型があるんだ。効果そのものは違ってもそのノウハウを流用できるはず』
”翁”が作ってくれた電気回路は直接的には役に立たなかった。けれど役に立たないということがわかったのは無駄ではない。
依頼を完遂した翁に丁寧に礼をして、ナタリアは再び自室に戻った。
一週間後には式典の予定がある。それまでに出来れば魔力回路とやらには、一定の目処を付けておきたい。
そうやって回路については早い段階で見切りをつけ、本命である<電探>の開発に着手したい。こちらの方は小規模な実験では何度か成功を納めている。ナタリア個人が使用する分にはギリギリ実用に耐えるレベルだ。反響波の逆計算で数時間かかるのが難点だが、野外でも使えるようになった。
最大の問題として残っているのは、夜と日の二つの属性を同時に使用するために、一般化することが不可能だということ。
多くの人々の役に立つ術式をつくろうという高尚な目的があるわけではない。ナタリアはただ大賢者の弟子として相応しい実績を手に入れ、居場所が欲しいだけなのだ。そういう意味では、誰もが使える術式を作り出す必要は何処にもない。しかし、二重属性を必要とする術式では発表することさえも覚束ない。ナタリアが四重属性に適性を持つということは秘密である。絶対に隠し通さなければならないとまでは考えていないが、公言しない方がいいのは確かだ。
今のままでは人には教えられない。けれど、あと少し。
<電探>はあと少しの調整で世に出すことが出来る。
ナタリアの気が急くのも仕方のない事だった。
「……一週間後?待て。あやつと約束していたのも丁度一週間後ではなかったか?」
唐突に一つ思い出した。
ミック・ジャガー・タスケのことだ。
彼は大賢者が大賢者になる前のただのファーレーンであった頃からの知り合いだ。居なくなった大賢者を引き継ぐ形で、ナタリアも彼と取材の約束をしている。何度か取材は行われ、ナタリアの手元にはその時のお土産である王国産の紙がある。
一週間後の式典の日と取材の日が重なってしまっているのだ。これはまずい。
何がまずいかといえば、彼に連絡する手段がないのがまずい。
ミックは帝都に滞在しているらしいがその拠点をナタリアたちに教えていない。警戒しているともとれたし、単に長期に一処に留まるつもりがないだけかもしれなかった。
とにかく、彼の連絡先がわからない。わからないことには、欠席の連絡もできない。お互いに利益のある間だけの面会で、どちらかの都合によってはいつでもやめていい、そういう約束だから休むことは問題ではない。
もし偶然街で会うことがあれば……。
その時に正直に詫びるしかないだろう。
記憶の隅でも留めて置かなければ。
翌日ナタリアは”声”の勧めに従って、数学者デュアルソロスの数学塾に赴くことにした。
なんでも回路完成のためには彼の協力が不可欠らしい。以前、彼に依頼をしていたのだが、それはこの時の為だったという。正直、どのように関連しているのか見当もつかない。デュアルソロスに依頼したのは、記号論についてだったと記憶している。
たった二つの記号のみを使ってあらゆる数字を記述する、という訳のわからない”声”の妄言をそのまま伝えたのだ。
聞いたデュアルソロスは目を輝かせていたが、何が彼の琴線に触れたものやら。
”声”の目指す回路はその理論の先にあるというのだ。
疑念半分だが、期待もあった。当然である。これまで”声”は思いもよらない方法でナタリアの手助けをしてくれた。時には超常の力も使って、何度も彼に救われたのだ。
今回の”声”の提案がどのような未来を見せてくれるのか。期待は確かに胸にあった。
気もそぞろにナタリアは帝都を歩む。以前ダリウス少年たちと遊んだおかげで土地勘もついてきた。鉄塔のようなランドマークを利用して現在地を特定する方法も覚えたから、迷う心配はない。
デュアルソロスの住む集合住宅の近くに来た時だった。
すえた臭いの漂う路地で、いつも通り警戒をしていたナタリアは<超感覚>によって遠方から人影を見つけていた。
街中の住人の一人ならば気に留めることもなかった。彼女の感知の網に引っかかったのには理由があった。その人影が立っていたのはナタリアの目指す家。すなわちデュアルソロスの家の前にその人影は居たのだ。
人目を気にするように建物の影で、巨大な影と何事か言葉を交わしているようだった。
会話している相手は遠目でもすぐに分かった。あれほどの巨人がそうそう居るはずもない。デュアルソロス。豚人間の数学者である。
立ち話で何を話しているのだろう。
少し悪い気がしたが、<超感覚>は聴覚も強化する。意識してしまうと自然と彼らの会話も聞こえてしまうのだ。
「ふむ、報告書の通りだな。引き続き任務に精勤するように」
「へぇ。わかりましただ、よろしくお願いします」
聞き覚えのある声だった。目を凝らせば何処かで見たことのある顔。
いや、顔よりもむしろ彼の来ている服が目立っていた。
折り目正しく、汚れ一つ無い清潔な制服。色彩こそ地味目だが帝国内部では恐れられる服、すなわち軍服である。
その軍人の声も聞いたことがあるものだ。何処でだったか。
印象は薄かったが”声”が覚えていてくれた。
『見たことあるな。以前魔導研究所に派遣された武官だ。あの時は胡散臭い道化師に追い払われたっきりで諦めたものと思っていたが……何をしてやがる?』
言われてみればナタリアを呼びだそうと、軍からの任務と言って研究室に入ってきた来客である。その武官はデュアルソロスと知り合いのようで幾つか言葉をかわしている。
軍服を着ているということは、またも何らかの任務中なのだろうが、一体何の用事があったのか。会話を聞く限りでは、偶然出会ったという印象は受けない。
「順調ならばよい。くれぐれも変な気は起こすなよ、”同族喰らい”」
「滅相もねぇことです。ええ、はい」
こちらも気付かれないように物陰に隠れる。ナタリアの身体は小さいから意外な場所に隠れることが出来る。腰を落として、ポーチの段差にもたれて様子を窺う。
彼らに気づかれた様子はない。武官はデュアルソロスと別れると、何処かへと歩き去ってしまった。行き先を知りたいならば、尾行するしかない。けれどそんなことに思いを馳せる余裕は今のナタリアには無かった。
『どうする?俺が追いかけてやろうか?』
「いや……行かずとも、よい。今はそれより……」
ナタリアの瞳は不安に揺れていた。
デュアルソロス、優しき亜人。彼とは浅からぬ縁がある。しかし彼の私生活や昔のこと、どうして亜人が帝都で暮らしているのか、そういったことを何一つ知らないことに今更ながら気づいたのだ。
信頼できる人だと思っていた。味方の一人だと、そう思っていた。
けれどあの武官はナタリアにとっての敵の一人。
心の準備ができていなかった分、衝撃は強かった。
最悪の場合、デュアルソロスは敵と通じているということになる。
嫌な想像が頭をめぐるのは圧倒的に速いものだ。いつもの頭脳の回転の数倍の速さ、自分でも信じられないような速さで思考が回転する。
デュアルソロスに裏切られたと、感じたわけではない。
レヴィに対する誤解を思い出すもなく、これは早合点だ。
きっと。きっと事情があるに違いない。
武官の彼と昔の友人だったとか。あるいは、あるいは――
『おい……。話さなくても、いいのか?』
「タイミングが悪かったようじゃ。今日のところは出直そう」
唇を引き結び、踵を返した。
頭が混乱していた。信じたい気持ち、疑念。入り混じり、ごちゃごちゃの頭のなか。
”声”が助言してくれたら、もしかすると勇気が出たのかもしれない。けれど”声”は亜人の彼については判断をナタリアにゆだねてしまう。何も教えてくれはしない。
まだ希望はある。だから、今日のところは出直そう。ただ、それだけ。
幸い亜人のデュアルソロスは距離のあるナタリアを見つけてはいないようだ。
豚の巨人は武官を別れた後、どう見ても入り口には見えない集合住宅の壁に開いた巨大な穴から家に入っていく。
回路のことなど既にナタリアの頭にない。
暗躍する軍部の影。
そこそこうまくやっていると思っていたのに。
結局、まだまだ師父様の跡を継ぐには足りていないということらしい。
冷静ではないとわかっていた。
だから、今日はもう休もう。
用事と言ってもそう急ぐものではない。また来ればいい。
日は沈み、漆黒のトバリが街を覆う。
夜鷹が羽を休め、猫が家々の屋根から屋根へと飛び移る。
そういう夜を都合六度迎えた。
機会がなかったし、時間の都合も付かなかった。デュアルソロスとは結局あれから話せていない。依頼の件があるから何時までも先延ばしには出来ないというのに。
「式典、が終わってから、じゃな。明日、遅くても明後日には行かねばなるまい」
今晩は式典の前日。
デュアルソロスと軍人の密会の光景を思い出し、溜息一つ。
日が完全に暮れる前のことだ。ナタリアの部屋にはいつもの通り、レヴィがやってきて明日の段取りを説明していた。
ついでに従士に相応しい服も用意してくれた。
式典向けのもので、少々華美だがポケットが多く使いやすそうな服だ。女性向けなんて気の利いたものはないから、当然男物だ。救いは少年の為にナタリアでも着られるくらい小さなサイズがあったことぐらいだ。最小のサイズをレヴィが探してきてくれたのだ。
「早朝迎えに来ます。その時はこちらの服を予め着ておいてください。会場で控室などはありませんので。私の部下たちは警備の任務がありますが、私自身は叙勲式の会場に居なければなりません。従士であるあなたも同様です。端の方で立っているだけですが、よろしくお願いします」
広げられた従士の服を指さしながらレヴィが言う。
ナタリアが浮かべた<発光>の明かりに照らされて、深くなった影が揺れ動く。
「ああ、わかった。ところで明日は記者殿と会う約束をしておったのだ。断りの知らせを送りたいが、居場所を知らぬ。レヴィはなにか知らぬか?」
ナタリアは何気なく尋ねた。ミックの宿をレヴィが知る道理はないが、彼女はミックの顔を知っている。期待はしていなかったが、聞くだけならただ。ダメ元だった。
けれど――
「……ミック・ジャガー・タスケですか。彼も明日は都合が悪いそうです。来れないと思いますよ」
「む、街かどこかで会ったのか?」
「そんなところです。彼のことはしばらく忘れたほうが良いですよ、ナタリア」
レヴィが小首を傾げて微笑む。
けれど、どうしてだろう。忘れたほうが良いなどと、彼女にしては少し酷薄な言葉。
――もしやミックがレヴィに言い寄ったのだろうか。軽薄な彼のことをレヴィは嫌っているようだった。街かどこかで出会った時、トラブルでもあったのかもしれない。
「わ、わかった。そういうことならば明日は気兼ねなくお勤めに集中できるわ」
下手に逆鱗に触れても面白く無い。ミックのことは一先ず置いておくことにする。
「そういえば、街では放火魔の噂で持ちきりじゃが、何か進展はあったのか?」
この一週間。”声”の言葉もあり、連続爆破事件には極力関わらないようにしてきた。 主に被害が出ている地区は商業地区の外れであり、オデオンの店とは程遠い場所だったから、対岸の火事で眺めていられたのだ。
短期間の内に二件も爆破事件が起こっている。噂にならないほうがおかしい。
街を歩いていても、衛兵たちはピリピリしているし、出歩く人も減ってきている。
このままの悪い状態が続けば、帝都を留守にする皇帝に批難の目が向けられることさえあるかもしれない。
早く事件を解決して欲しいと願うのはナタリアも同じだ。
「……犯人一味の名前は”太陽の使徒”。日属性を他の属性よりも上に見て、その思想を拡げようと目論んでいるようです。末端の構成員は何人か捕らえ現在尋問中なので、いずれ事件は収束に向かうでしょう」
きっとそれは機密なのだろう。明らかに明かすべきではない情報をレヴィは教えてくれた。慎重に言葉は選んでいるようだ。考えなしに話したのではないと思う。
「上の方では、そういう見方がされています。けれど個人的にはもうひと波乱起きる気がしてならないのです。……とにかく注意しておいてください。あなたが巻き込まれてはどうなることやら……」
「具体的に何を注意すべきなのじゃ?わざわざそこまでのことを話してくれたからには、それなりの理由があるのじゃろ?」
「……彼らの犯行にはある共通点が有ります。爆発の被害者は意外に少なく、代わりにどの事件でも火事場泥棒が出ている事です。しかも盗まれたのは金品だけではありません。誘拐事件が同時に起きているのです。日属性の妙齢の女性ばかりを狙った悪質な犯行です。普通に考えて、”太陽の使徒”との関係を疑いますよね」
街の噂では、爆発被害ばかりが話題に上がっていた。レヴィの言うような誘拐についてはナタリアは知らなかった。もしかすると捜査局が情報統制を敷いているのかもしれない。もっとも、それも永続するものではなく、このまま事件が未解決のままならば遠からず人々の噂には上る事実だ。
時間の問題とはいえ、本来話してはならない情報を話してくれたレヴィの言いたいことは分かった。
『”太陽の使徒”に狙われる可能性がある、そう言いたい訳だな。なるほど、ガキは確かに日属性も持ってる。知られないようにしているからターゲットにはなりにくいだろうがな。にしても女を誘拐、ね。身代金の要求でもあるのか?それとも――』
ナタリアの意見も”声”と同じようなものだった。
レヴィはナタリアを心配してくれているのだ。
「そういうわけか、なるほど自重しよう。が、大本を断たねば結局何も解決せぬぞ。”太陽の使徒”とやらに勝てる見込みはあるのか?」
「市中での物資の動きを監視していた軍上層部からの情報提供があったそうです。街の警邏隊は意気込んでいました。太陽の使徒の規模も判明アジトのおおよその場所も分かっていて、今は周辺を監視している状態です。少しでも尻尾をつかめれば、即座に捕縛できます。規模にしても二十人より多いということは無いでしょう。その中に戦闘員が果たして、どれほど居るのか。帝国の街の衛兵たちの実力であれば、正面から挑めば勝負にもならないかと」
ナタリアを安心させるためでもあるのか、レヴィの言葉は力強い。”太陽の使徒”組織の人員も把握できているというのなら、逮捕は時間の問題なのだろう。
安心というわけではないが、専門家に任せておこうと思う。
その夜は、レヴィから式典の詳細を聞きながら過ごした。
心残り、疑念、後悔。様々な感情を抱えたまま、ナタリアは式典の日を迎えた。




