表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート

一番大切な人

作者: 武田花梨

 涼介(りょうすけ)は悩んでいた。

 彼女である(みやこ)とは、もうすぐ付き合って五年になる。それを前にして、一大事というか、通過儀礼があった。

 倦怠期である。

 デートをしても会話は弾まないし、メールの数も激減した。電話など、週に一回あればいいほうだ。その電話でも

「俺の事、嫌いになったのか?」

『そんな事ない。そういうあなたこそ、浮気してるんじゃない?』

「は? 何意味わかんねぇ事言ってんの?」

と、喧嘩ばかり。

 別れたほうがいいのかな……。

 そう考えていた矢先、涼介のバイト先に一人の女の子があらわれた。

 夕美子(ゆみこ)という高校生。新人という事で、涼介が教育係になった。

「へぇ。涼介さん、大学生なんですか。若く見えるから同い年かなって思ってました」

 目を輝かせながら、なんてことない話を聞いてくれる。

 素直に、可愛いなと思った。

「彼女さん、いるんですか?」

「……いないよ」

 自然とそう答えていた。もう都の事はいい。潮時だったのだ。

 しばらくして、二人はデートに行く事になった。久しぶりの緊張を涼介は味わっていた。

 まだ都とは別れていない。切り出せずにいる。自然消滅になってしまえば……などと目論んでいた。都だって、きっとそうだ。


 初デートは、無難に映画を見る事にした。

「この映画、見たかったんですよぉ」

 はしゃぐ夕美子を、涼介は眩しい思いで見ていた。

 館内に入り、涼介はパンフレットを買おうと売店の前で立ち止まった。しかし夕美子は気が付かず、先を歩いていってしまった。

(なんだよ。都なら一緒にパンフレットを見るの、楽しみにしてくれるのに)

 ふと都の事が頭をよぎった。いけない、と頭をふる。

 いそいでパンフレットを買い、別の売店でジュースを選んでいる夕美子を見つけた。

「ポップコーン、食べる?」

 涼介の問いに、夕美子は眉をひそめた。

「あたし、ポップコーン嫌いなんですよ。口に残るし」

(都なら、ひとつのポップコーンを取り合ってでも食べるのに)

 涼介の不服も知らぬまま、映画は始まった。感動的な場面。目頭が熱くなった。ふと、夕美子を見るとあくびをして眠たそうだった。

(都は、いつも俺と同じ所で感動してくれるのに)

 結論が出てしまった。

 映画は終わり、夕美子は伸びをしていた。涼介は静かに声をかける。

「ごめん、夕美子ちゃん。俺……彼女いるんだ」


 ***


 小さいながらも明るい、普通の事務所に二人の女がいた。

「ありがとう。彼も私の大切さが理解出来たみたい。はい、報酬よ」

「仕事ですから」

 女は金を受け取るとにこっと笑った。

「いろんな仕事があるものね。実際にあなたに恋したらどうしようかと思ったけど。倦怠期だからって、私は絶対別れたくないもん」

「それはありません。事前リサーチは万全ですから」

 力強い言葉に都は満足気に頷いた。立ち去るお客に、夕美子と名乗っていた女は一礼した。

「またのご利用、お待ちしております」



  了


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  恋愛物でこういうどんでん返しの要素をおたものはあまり見たことが無いので、個人的にはとても面白いと思いました。 [気になる点]  ただ、心理描写がやや淡々としていたので、間というか溜めがも…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ