二話 ここがせかい
町の中、ボロボロの布を引きずりながら、用を成さなくなった靴で土の上を歩こうと、足を動かそうと……力を入れ……。
足に力が入らない。
体に肉が戻ったと思っていたけれど、思うとおりの動きをしてくれない。体を動かす力はなかったらしい。手を付こうと伸ばした腕が重い。背負うリュックの中には食料や水が入っているせいか、重い。立ち上がることさえ出来ず、放り出された位置から動くことさえ出来なかった。
顔を上げた先にはどんなものだったかさえ忘れかけた、見ることのなかった太陽。あまりにも眩しくて、怖かった。
「なに、してるんですか?」
かがみこんで、顔を見ながら言ってきた野太い声。男の人だ。髪は茶色で、前髪もまとめて後ろに縛っている。体格はしっかりしていて、体をよく使っているのだと思う。真っ直ぐに見てくる目は青みがかかっていて、生気に溢れているというのは、こんな目のことを言うのだろう。
「あの、大丈夫ですか?」
心配そうに手を差し伸べてくれた。掴もうと伸ばしたが、思うように上がらない。少しだけ浮いた手を男の人は引き寄せながら立たせてくれた。
自分の視界がすごく、高い。横に並んでいた男の人の目が若干下にある。でも、そんなものは一瞬だけで、足が悲鳴を上げる。がたがたと震えだして立っているのが辛い。腰が痛みを訴える。支えるのが億劫だと両足が抵抗をやめた。
地面に向けて自分の頭が重力に負けて落ちて……行くことは、無かった。
「あの、本当に大丈夫ですか?」
崩れた体を男の人が支えてくれた。体に触れたとき、男の人は少し震えたような気がした。
「みたことないひとですけど、旅の方ってわけでもなさそうですね……」
僕の身なりを見ながらそういった男の人は、そのまま器用に僕のことを背負った。
「随分とつかれているみたいですし、とりあえずミル様のところへ連れていきますね。あの方はとても優しいから、心配しなくても大丈夫ですよ」
顔は見えないけれどきっとこの男の人は笑って言っているのだと思う。すごく穏やかな声だから。
「疲れているようですし、なるべく揺れないように歩きますから、どうぞ休んでくださいな」
穏やかな声で男の人はそういった。悪意を一切感じない彼の言葉に僕は甘えることにした。