仕切りの向こう
あれは飲み会の時だった。
最初のうちは男は男で盛り上がって、女は女で盛り上がっていた。
途中から酔いが回り始めたのか、だんだんと男女がごちゃ混ぜになってきた。
「ねぇ?あのさ〜あたしの彼氏ってさぁ・・・」
「いやぁ〜あの時は俺は参ったね!だってさぁ・・・」
「はぁ〜前にね・・・」
などと各自がグループを作って話している。
もともとこの飲み会に乗り気じゃなかった俺は、その中にいること自体がつまらなくなってきた。
一人で席を立ち、トイレに向かうフリをしてその場を一時的に離れた。
俺は仕切りで分けられた隣の席に移った。
遅くまで営業している居酒屋で、終電の時間も過ぎていたために、店内には俺達と、もう2組しかいなかった。
「なにが楽しいんだろうなぁ・・・」
一人になるとやたらと余計なことまで考えてしまう。
「ん?何してるの?」
そこにいたのは、今日一緒に来たメンバーのうちの一人で、俺が「彼女なんか・・・」と思い始める前に好きだった子だった。
もう好きとかそうゆう感情はあまりなかった。
靴を脱ぐ場所に座りながら、からだだけをこっちに向けていた。
「何って・・・むこうに居づらかったからこっち来たんだよ」
「え〜!ウチと一緒じゃ〜ん!」
「えっ?」
「なんか知らない人の話とか聞いててもつまんないじゃん」
「お、俺もそうだったんだよ!お前と気が合うなんて思ってなかったよ」
「なにそれ〜!酷くな〜い!?」
隣に座った彼女は、少し酔いが回っていて、頬も少し赤かった。
化粧のせいかもしれないけど・・・
「う〜ん」
彼女はグラスを両手でガッチリと押さえながらうなっていた。
「ん?なした?」
自分のグラスを口に近づけたときに聞かれた。
「あのね〜なんか彼氏が出来ないんだよね〜」
「え?お前って彼氏いたんじゃないのか?」
「え〜?アハハ。いるわけないじゃん!もしかしていると思ってたの?」
「う、うん。だってそれなりにカワイイから彼氏の1人や2人ぐらい・・・」
「マジかぁ〜!ウチってそんな風に見られてたんだぁ〜」
「ずっといると思ってたよ」
「アハハハハ!お、うわぁ・・・」
彼女は座ったままバランスを崩して後ろに倒れそうになった。
壁に頭をぶつけそうになった彼女を支えようとした。
彼女の首の後ろに手を回して、壁と頭の間に自分の手を滑り込ませた。
ゴンッ
「いてっ」
「あ・・・大丈夫?」
支えようとしたけど力が入らなくて、彼女の上になって顔を覗き込むような体勢になった。
「・・・」
「・・・」
少しの間、目が合ったまま沈黙の時が流れた。
俺は彼女が何を考えているのかを考えていた。
彼女の少し酔いが回ってトローンとした目。
彼女の少し赤くなった頬。
彼女の髪の毛。
彼女のまつげ。
彼女の少しだけ見えるかわいらしい八重歯。
見れば見るほどかわいく見えてしまった。
「えーと・・・」
「あ、ごめん!」
慌ててどけようとした俺の手を彼女がつかんだ。
「ど、どうしたんだよ」
「うーん・・・なんていうんだろ?」
「こんな体勢だったら襲っちまうぞ?」
「いいよ」
「え?」
冗談で言ったつもりだったのに・・・
「冗談はよせよ」
「別にいいんだけどなぁ・・・」
「おいおい、何言ってるんだよ。なんだ?俺に気があるのか?」
「あるね〜」
彼女はニカーっと笑った。
「ホントにか!?」
思わず叫んでしまった。
「ホントだよ〜」
「えっ!え、えーと・・・」
とりあえず元の座ってた時の姿勢に戻った。
彼女も隣に座りなおした。
グラスに残っていたスクリュードライバーの残りを飲んでいた。
「ホントに?」
確認のためにもう一度聞き返した。
「ホントだよ」
落ち着いた声で彼女は言った。
「えーと・・・」
俺の頭の中はパニック状態だった。
とりあえずなんて言ったらいいのかわからない。
えーとえーと・・・
「お、俺も結構気にしてたんだ。お前のこと」
「え?なんて言ったの?」
「2回も言わすなよ!」
「フフフ。うれしいよ。ウチも好き」
「俺もお前が好きだ」
2人は後ろの仕切りの向こうで一緒に来たメンバーが騒いでいることなんて気にも留めないで、キスをした。
〜Fin〜
一応これでおしまいです。
こんな恋ができたら嬉しいと思って書きました。




