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絃ノ匣  作者: しま
第二章 「棹の部」
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言霊

ことだま、というものがあります。

言葉に霊、力が宿るということで、言霊。


口に出した言葉が影響を与えること。参考として結婚式やお葬式での忌み言葉とかありますね。身近なものとしては、受験前に落ちる、滑るといった言葉を避けるように。


そして彼が口にしたなら、それは術となり、強制力が働く拘束の力。よく分かりませんが、鬼である彼にとって言の葉とは武器となるそうです。ファンタジーですねぇ。でも、いろいろ制約はあるらしいのですが。


「名を知らなければ、使えないのでは」

「これぐらいは、わけもないさ」


警戒心がないねぇ、と彼は先と同じように古木にもたれかかって、くつくつと笑います。いつのまに移動したのでしょうね。ふさ江さんは今、私の足元で倒れこんでいますのに。


「ふさ江さん、どうするんですか」

「どうするんだい?」


こーいーつー


ふさ江さんをひとまず屋敷の石壁にもたれさせておきます。その間もぐっすりと眠ってらっしゃって。寝顔もきりっとしていますね、彼女。あ、いえいえ


「起きますよね?」

「ま、半刻、てところかねぇ」


一時間ですか。どうやってごまかしましょう。でも、ふさ江さん、彼のこと見えませんし。いつのまにか意識を失っていたというなら、過労?ということにしましょうか。なら、屋敷から誰かを呼んだ方が。すると、外出しようとしていたことがばれますね。


「それで、お出かけかい?」


あぁ、そうでした。本題は三味線の糸を買いに行こうとしていましたのに。


「そういうあなたは、なぜこんなところに?」


随分待たせていたようであたりに煙管の匂いがあたりに立ちこめています。


「あっしが来たとき、お前さんがちょうど離れを出ちまったからねぇ」


その後も、その女中がいたからねぇ、と彼は苦く笑う。私が離れを出たから?私が出た離れ、家主のいない家、ということでしょうか。


「鬼さんって、家主の招きがないと入れないのですか?」


何かで読んだ気がする。あれは吸血鬼だった気がしますが。似たようなものですか。


「いんや、入れる」


あ、そうですか。


「ただ、お前さんの家には」


後ろを見やる。


「結界がねぇ」

「ケッカイ?」

「知らないのかい?」


ファンタジー的な意味の結界か、神社にある結界か。


「どういうものですか」

「そういうもんさ」


さっぱりです。


「ま、お前さんは三味線を弾いている間は隙だらけだからねぇ。最初に招かれればあとは簡単さ」

「私、招いた覚えありませんけど」

「招かれたさ。お前さんが認めらんねぇだけでね」

「私とあなたはあのとき初対面のはずですが」

「そうさ」


にやにやと、悩む私を楽しそうに見てくる鬼。鬼が話せば話すほど、私の頭はぐちゃぐちゃです。鬼が腕を上げ、そして、指が高速に近づいて。


額に軽い衝撃。指弾。所謂でこぴんです


「い、た」

「こんなところでする話じゃないさ。それより」


指をつかまれました。彼は指先に走る赤黒い細線を視線でなぞるようにじぃ、と見ました。


「血の匂いがするね。切ったのかい?」


よく、鼻の利くことで。

もう血は止まっていますのに。


「糸で少し、切ってしまいました」

「ふぅ、ん?もったいないことだね」


本音はそっちですか、そうですか


「それで、わざわざ買いにいくのかい?」

「そう、ですけど」

「お前さんが外出とは珍しいねぇ」

「ですね」


引きこもり生活ですからね。彼はそのまま空をちらり、と見て目を細めました。笑うわけでなく、何かを考えるように。そして、呆れたようにため息を漏らして。


「こんな時間に、ねぇ」

「はい?」


もう夕方だからと、いうことでしょうか。



「お前さんは、こちらのことを知らなさすぎるんだ」





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