忍者
あの時と同じだと、言いたいのでしょう。
私達が始めてあった、夕暮れの
◇◇◇
「知らない曲だねぇ」
いきなり声がして、三味線を下ろそうとした手が止まる。男の、声?侵入者?父のお客様が迷い込んでしまったのでしょうか。声の出所が掴めません。弾きすぎて、ちょっと耳が麻痺しちゃった様です。廊下に・・・誰もいませんね
もしや、忍者!?
「庭さ」
庭・・・なんだ、いましたいました。
黒地に彼岸の咲いた着流しと紅の帯、その上から紫紺の飾り紐が巡った姿。派手ですねぇ。それに、綺麗なお顔。片方の目を前髪で隠し、腕を組んで庭の木にもたれて。様になりますねぇ。
「どちら様ですか」
格好からして、父の客ではありませんね。泥棒ですか、わいるどです。堂々とこんな、何もないところまで来るなんて、よほどの方向音痴ですよ。男性なのに、珍しい。
「おんや、人を呼ばないのかい?」
母屋まで届く叫び声を、私が出せるか、ですよね。なかなか難しいことを仰います。
「悲鳴上げても、誰も来ませんよ」
母屋から離れていますからね。
「・・・そうかい」
あれ、何故こちらに近付いて来るのでしょう。
腕解かなくていいですよ、
木から離れなくていいですよちょっと、
何故目の前に立つんですか。
腕伸ばして何を
「寂しくないのかい?」
・・・はい?
いやいや、どうしてそこでほっぺに手を添えるんですか。
冷たいですね、血行悪そうです。
じゃなくて、
「何故、あなたがそのような顔をなさるのですか」
泥棒さんは柄の悪そうな口調と目つきのわりに、整った顔立ちをして眉を寄せただけの表情。
なのに、どうして、色気があるんでしょう。
そんな、憂いを浮かべて。
「何のことだい」
あ、引っ込んでしまいました。今度は笑ってます。凶悪です。凶暴です。そのまま鍔の広い帽子かぶってください。ねばー○んどでも、ぶらっく○ーる号にでも行ってください。
だから顔が近いですってば。
「お前さん、名は」
あなたこそ誰ですか。
◆ ◆ ◆
思えば、初対面時から変わっていないのはお互い様ですね。
「なに拗ねてんだ?」
「結局私、あなたの名前聞いていません」
こちらは名乗ったのに。
「あっしの名前なんざ大した意味持っちゃいねぇさ」
「じゃあ、ずーっと、鬼さんのままですよ?」
「構わねぇさ」
いや、さすがに鬼さんは構いましょうよ。名乗りたくないのは本当らしいですけど。ほんと、どうしてこんなことになったんでしょうね。何が気に入ったのか、あれからちょくちょく来るようになったんです。と言っても、不規則です。毎日かと思えば、途絶えたり。ていうか、いいんですか、お仕事とかは。
「あるように見えるかい?」
そんな、堂々とした顔でいわれましても。あれですか「仕事したら負け種族」みたいな、あいた。
「口に出てんぜ?」
ほんとのこと言われたからって。
「いひゃい」(いたい)
んですけど・・・
ぜったい、赤くなってますよね。
これは文句を言わなければ。
「あなたはいくら細くても性別は男で、手がごついんですよ、力在るんですよ、わかってます?」
「だから手加減してるだろう?」
ですよね、でももっと減らしてください。ほらほら、そんな、悪人顔で楽しそうに笑わないでくださいよ。にぃんまり、て。