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絃ノ匣  作者: しま
第二章 「棹の部」
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長屋

障子の向こう側は、普通の長屋と変わりませんでした。

長屋、江戸時代の集合住宅です。こちらでは平屋建てと呼ばれる、一階建ての建物を区分してそれぞれ住む形式は所謂アパートと同じです。

ですが、ここの入り口は裏路地にあります。ほかに障子戸は見られませんでした。

なのに、開けてみると長屋の形式。アパートの、壁しかない裏側に唯一ドアがついていることになります。怪しさ満点です。いまさらですかねぇ。


入ってすぐに土間があります。玄関兼台所です。竈もありました。

一畳半ほどの土間を上がれば畳の部屋が広がります。奥には襖があって、おそらく二部屋で構成されている、と思われます。一般的な長屋でしたら。


一般的でない可能性が高いので、推測しかできませんけど。

意外と、というかなんというか。生活されている様子は早い目に出されたであろう火鉢から伺えます。


塩をはたき落として入ったはいいですけど、やはり叩くだけでは足りないようで。

着物や髪もざらざらして、肌にも違和感があります。水でも使って流したいです。

何故塩、如何にして塩。お浄めですか…納得です。


「なんだい、出かけているのかい」


軽やかに避けて下されやがった…失礼しました。塩まみれ予定だった須黒が言います。

私が内心悲鳴あげている中一人いそいそとお部屋に上がっていったことは覚えてますよ、ずっと!


「いつもの散歩であろう」


答えたのは赤狩衣の女性。

向き合う二人の横、私は須黒の横に目立たぬよう座りました。

一先ず畳に腰を下ろして現在、という形です。


どうしてここに来たのか、他に誰を待つのか、聞きたいことは一杯ありますけど、前回言葉をとめられたので念のため黙っています。


「で、お主、逃げおったくせに何故連れてきおった」


私のことでしょうね、きっと


「お前さんらのところがいいだろうと思ってなァ」


はて、私須黒に何をするのか言いましたっけ。


「何をするつもりじゃ」


彼女が問います。せっかくかわいらしい顔立ちをされているのに、そんな目で睨めば恐ろしい形相。やはり美人は怒ると怖い。何度目ですかね、この教訓。


「さぁ、あっしにもわからねぇさ」


そこで私を見ないでください。


「なァ?」


だから、(以下同文)





◇◇ ◇




私にできるのは一つだけ。ただ三味線を抱え、撥を出し。

そして、そ、と懐に手をいれた。


「お主、それは…っ!」


強張った顔。驚愕に見開かれた二つの眼。


「静かにしてくれないかい」


隣に座っていた須黒が立ち上がり、今にも問い詰めてきそうな女の子の肩を押しとどめ、横に胡坐をかきました。彼女は何か言おうとして、しかし須黒を見て留まりました。

何か、二人の間でやり取りがあったようですけど。

肩肘ついて顎を手にのせ、ただ今後の展開を眺めている須黒。


「やりな」


頷き、撥を構えました。

何故私がここに連れてこられたのか、須黒はどこまでわかっているのか、

なんて、私には分かりません。

ただ、ここで私ができることはあります。


糸を弾き、指を滑らせ。

ただ、膝の前に置かれた紙人形から聞こえるままに。叫ぶままを音にして。

音を紡ぎ、形にして、私はひたすら、語り部となればいいのです。


痛み怒りそして恐怖、混ざりに混ざった慟哭を。

聞いた通り、伝わる通りに。




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