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小次郎転生伝  作者: 杉山薫
第六部 征伐
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 オレは今、百地砦にいる。伊賀者をたばねる百地家の現当主の百地丹波に会うためだ。


「すまぬの⋯⋯、小次郎殿。若いもんが大挙して押し寄せて」


「いえいえ、何も連絡もせずに参りましたのは某にございますれば……」


「して、小次郎殿は今回どのような用向きかな?」


百地丹波の問いにオレは素直に答える。


「伊勢のことにございます」


「織田の小倅のことかい。大したことはない」


「織田信雄だけなら……」


オレの言葉に百地丹波はピクリとする。


「織田信長か……」


百地丹波がそう言うと、その場の空気が変わる。


「左様にございます」


「まさか織田信長自らが伊賀に刃を向けるとは思えぬがな」


百地丹波の言葉にオレは言葉につまると百地丹波は言葉を続ける。


「それに織田信長が伊賀に攻め込んできても風魔衆には関係ないように思えるが……」


「そうでもござらん。今、信長は徳川との連合軍で武田軍と大戦(おおいくさ)をしております。この戦いは武田軍が大敗を喫するでしょう。次はこの地が狙われるのは間違いないのですが、ここを突破されると次はさらに東国、つまり北条家となります。信長の眼が伊賀にずっと向いているうちは北条家に危険が及ぶことはない……」


「伊賀が墜ちることはない」


そう言う百地丹波にオレはナオを呼ぶように依頼する。控えの間でナオと二人で話すことになった。


「ナオ、この後伊賀はどうなる?」


「えー、わかるわけないっしょ」


あれ、どこかで聞き覚えのあるフレーズ⋯⋯。

嫌な予感しかしない。


「ナオさんは前世はいくつまで生きたの?」


「えー、女子に歳訊くのってありえねえし」


「そういうのはいいから答えろ!」


「うわっ、こわっ」


「伊賀の運命がかかってるんだ。答えろよ」


「十七」


ナオの答えにオレは少し安堵する。


「JKだったら伊賀がこの後どうなるかってわかるよな」


「キャハハ、ギャルが勉強なんかするわけねえし」


なるほど⋯⋯。

神様、あなたは伊賀に転生させる者を間違えた。

これじゃ意味ねえだろ!

もういい。

オレが言う!


オレはナオを帰らせて、ふたたび百地丹波と膝を突き合わせた。


「百地丹波殿はナオの前世を知っているのか?」


オレは百地丹波に単刀直入に訊く。


「遠い未来から来たという戯言のことか……」


「ええ、某もおそらく同時期から生まれ変わっている。他にも何人か某と同時期から生まれ変わっている……」


「小次郎殿までそのような戯言を……」


百地丹波は呆れるというよりは憐れむような目でオレを見る。


「某の知ってる歴史では今から三年後にこの伊賀の国は織田から侵攻を受ける。それをはね返してしまったために今から六年後に織田の大軍がこの伊賀の国を蹂躙する」


「夢物語をまだ言うか。小次郎殿今すぐこの伊賀から立ち去るがいい」


言うだけは言った。

これで歴史か変わったらリセットかもしれんが⋯⋯。


 オレはそのまま東海道へ向けて歩いていく。長篠の戦いは丁度終わった頃だ。尾張を通り過ぎる頃、織田軍とすれ違う。兵たちは疲労困憊のようだ。長篠の戦いといえば雨の中の大戦(おおいくさ)。大勝したって末端の兵は疲労困憊になるだろうなと思いながらオレは東海道を下って三河に入る。


様子がおかしい。


岡崎城に武田菱の軍旗がはためく。


 オレは岡崎城に潜入する。かつて、二度入城したことのある岡崎城などオレにとっては庭同然。なんなく評定の間の天井裏まで到達した。そして、天井の板を少しだけずらして中をうかがう。


「今回はそなたたちの活躍目覚ましく織田・徳川軍を撃退して、この岡崎城を手に入れることができた。褒美出すぞ。風魔衆の上忍方」


風魔衆?


オレは天井裏から評定の間にひょっこり顔を出す。オレに気づいた武田勝頼は笑う。


「おお、小次郎。なんだ。来ておったのか。重臣たちにも紹介する。降りて参れ」


武田勝頼の言葉にオレは頷き、評定の間に降り立った。そこには武田勝頼の他、武田家の重臣たちが居並び、その中心には早手、井出、雲切の上忍三人とこっちに手を降っているゆきなの姿があった。オレはゆきなの隣に座り、武田勝頼に頭を垂れる。


「武田様にはご機嫌……」


「小次郎、某とお主との仲だ。そういうのはいらん。首尾はどうだった?」


「首尾?」


武田勝頼の言葉にオレは首を傾げる。早手を見ると苦笑いをしている。


きっと適当なことを言ったのであろう。


「越後の上杉だよね」


ゆきなの言葉に慌てる早手。それを無視してオレは口を開く。


「今回の合戦不在にしてしまい申し訳ございませぬ。伊賀の百地丹波殿との会談に臨んでおりました」


「おお、伊賀の百地丹波か。さすが小次郎だ。して、どうだった?」


オレの言葉に武田勝頼は興奮気味だ。伊賀の百地丹波といえば戦国乱世のジェームス・ボンドのような忍びだ。興奮するのも当然だろう。


「織田への牽制のため伊賀を動かそうとしましたが、会談は不調に終わってしまいました」


オレの言葉に武田勝頼は深く頷くので、オレは本題に入る。


「して、長篠の合戦はどうなりましたでしょうか?」


「長篠の合戦? 長篠城は降伏して城内の者の身の安全を約して奥平親子をその場で処刑しただけだが……」


おかしい。

長篠の合戦がないのでは歴史が大きく変わってしまうはずだが……。


 オレは隣のゆきなを見る。ゆきながピースサインをしている。


ピースサインって、こいつ、いや上忍三人を含めたこいつら何かやったな。


「風魔衆が織田と徳川の援軍を釘付けにしたら長篠城の奥平親子もあっという間に降伏しおったわ」


興奮気味に話す武田勝頼に頭を抱えるオレ。


「そういうことですか……。して、岡崎城はどのように落城されたのでしょうか」


「小次郎、あたしが大暴れしたのよ。褒めていいよ」


この空気を読まねえ、火炎のゆきな。

フザケやがって!


「どうした? 小次郎、お主の指示通りと聞いているぞ」


武田勝頼はオレの態度を不審に思い、オレにそう訊く。オレは頭を抱え込んだまま黙り込む。すると、オレの口が勝手に言葉を発する。


「リセット!」


ここは?

ああ、夢か⋯⋯。


目の前に立ちはだかる青鬼が咆哮する。


「お前のその時を司る力、ワシが奪い取ってやったわ。地獄を彷徨う亡者になど肩入れするからじゃ。己の過ちを死ぬまで悔やみ続けろ!」


青鬼はそう言ってこちらの身体を何度も何度も踏みつけてくる。


 オレが次に目覚めたのは天正三年四月、場所は風魔の里。


オレがリセット使い?


試しに自分で言ってみる。


「リセット!」


何も起きない。

起きていない。

多分……。


一体、何が起きた?

そういえば三方ヶ原の戦いの時もオレの意思に反して身体が動いた。

オレの身体に何が起こっている?


オレはそのまま誰にも告げずに風魔の里を出て油坂峠へと向かって歩いていった。


 オレは油坂峠に向かって歩いていく間に思い出している。以前、信長が一度だけリセットと言ったことを⋯⋯。思い出せん。確かに信長が一度だけリセットと言って、実際にリセットされたことがあるのだ。そんなことを考えると例の寺に着いた。


道舟に会えば教えてくれるか。

いや、無理だろうな。


そんなことを考えて、寺の本堂に入る。オレが本堂に入った瞬間、本堂の中が白く光りだす。


「どうした? 旅人よ……」


いくつか訊きたいことがある。


「構わぬ。申してみよ」


神とは何だ?


「随分と曖昧な問いだな」


そうか。

オレが神と称したと小助から聞いたぞ。


道舟は答えない。どうやら小助が口を滑らせたようだ。


オレがリセットを使うことは可能か?


「先ほどのことか。あれはそなたが使ったのではない。別の大いなるものによってもたらされた」


神か?


「随分とそこにこだわるな」


今度はオレが黙り込む。


最後の問いだ。

転生者が歴史に介入した場合でも歴史が変わらないのか。


「それはもう答えた。さあ、おしまいだ」


答えた?


そして、オレの意識は消えていった。

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