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小次郎転生伝  作者: 杉山薫
第一部 風魔の疾風
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 折からの豪雨による激しい雨音によって消されていく軍勢の足音や騎馬の嘶き。雨の匂いで消されていく騎馬や兵士の匂い。豪雨により視界を奪われていく戦場⋯⋯。


永禄三年五月、その日は昼過ぎから豪雨となった。駿府から発した今川の大軍は尾張の国沓掛城に達していた。織田信長は熱田神宮に戦勝祈願をし、豪雨の中を桶狭間に向かう。


「小次郎、首尾は?」


「上々にございます」


信長に訊かれオレは答える。風魔衆による陽動は順調に進み、今川義元の本陣はがら空きになっていた。


 桶狭間山に織田軍が勢いよく豪雨をついて突入していく。陽動によって兵が分散した今川の本陣は織田軍の奇襲にあい、あえなく今川義元は討ち取られた。


オレの知っている歴史通りだ。

ここまではだ⋯⋯。


 その半年前、オレは京で諜報活動を行っていたが至急の用件ということで小田原の親方に呼ばれ、東海道を下っていた。三国同盟が成立して以来、今川義元の上洛は秒読みと噂されていたが駿河国に入ると厳戒態勢が敷かれていた。やはり、オレの知っている歴史通り、このまま上洛するのだろうと思いつつ小田原に向かっていた。オレが転生してきた瞬間から歴史が変わっているはず。どこが変わったのかを観察するのも忍びの仕事と言えよう。


 やがて、オレは小田原に到着し親方に謁見した。親方の名は風魔小太郎。この身体、つまり風魔小次郎の兄である。


「久しいな、小次郎。して、京の様子はどうだった」


「兄者、松永弾正の勢い顕著であります。このままでは畿内統一も時間の問題かと」


「ほう、そなたの知る歴史でもか」


「オレの知る歴史はオレの知る歴史ですよ。オレが介入している時点でオレの知る歴史は変わってくることは十分考えられます。あまり参考にはならないかと」


「しかしな、道標があるのとないのとでは結果も自ずと変わるはずだぞ、小次郎」


オレは深く頷き、話題を変えた。


「して、至急の用件とはいかに」


「そのことよ。そなたの言うようにどうやら駿府が上洛を企てているらしい。北条様からそれを阻止せよとのご命令だ。どんな手を使ってもかまわんらしい。どんな手でもな。そなたに三部隊を与える。そなたならいかにする」


「うつけを使いまする」


「ガハハハ、うつけかそりゃいい。確かに尾張の辺りなら兵站ものびるしな」


 オレは三部隊を伴い尾張に向かっている。今川義元を止めるには信長を使うのが定石だ。しかしだ。時間があまりにもなさすぎる。


 オレは三部隊に桶狭間で今川義元を討つ旨を伝え準備させた。後はどう信長を桶狭間に誘い出すかだ。オレは清洲の町に出て考えているとやけに派手な連中が向こうから歩いてくる。


信長だ!


そう、オレはミーハーなので今回小田原に帰る際に清洲で信長の出待ちをしたのだ。至急の用件で呼び出されたのにだ。まあ、結果オーライというところだろう。


 オレは信長の横について歩いていく。信長は驚いた顔でオレにこう言ってきた。


「お主、小次郎ではないか。急ぎで故郷に戻らなくてはとさっさと帰ったくせに、ここに戻ってきてるとはな」


「実は織田様にお願いしたい儀がございまして」


「堅苦しいことを申すな。一緒にメシを食った仲だろ」


いや、メシ食っただけの気がするが、そいつは都合がいい⋯⋯。


 オレは信長に連れられて清洲城近くの廃屋へと入っていく。途中で信長は供の者たちをおいて、オレと二人で部屋に入った。


「狭いがいいところだろう。悪巧みするのはここがいいんだよ」


「そのようですね」


オレは信長の向かいに座り膝を突き合わせる。


「ところでワシに頼みとはなんだ。確かお主は武田の忍びであったな」


「左様にございます。今回、至急の用件で呼び戻されたのは駿府の上洛を阻止せよという密命を受けましてね」


オレは信長の顔を観察しながら言った。


「やはり、義元か。それでワシは何をすればいいんだ。義元上洛の知らせだけでお主には十分な借りができたからな。ワシにできることなら引き受けるぞ」


「義元をこの尾張で葬っていただき……」


信長はオレの言葉を最後まで聞かずに口を挟んできた。


「だから、ワシにできることならと言ったろうが⋯⋯」


「上から忍びの部隊を三部隊用意されたので、陽動で今川義元の本陣をがら空きにしますのでそこに突撃していただきたいのです」


「うむ、お主が暗殺した方が手っ取り早いのではないか?」


「表舞台に出れないから忍びというのであります。織田様、是非ご協力のほどを」


信長は何度か頷きながら口を開いた。


「承知した。して、どのくらいの兵力が必要か」


「あまり多くても奇襲を気づかれてしまいますので……」


オレは必死に思い出す。ウィキペディアでどう書いてあったかを。


「確か……」


「確か?」


信長の言葉にオレは首を振ってごまかす。


「二千もいれば十分のはずです。少なければ少ない兵力でもどうにかなるように陽動しますので」


「して、それはいつ頃なんだ」


「五月にございまする」


「今年のか?」


「左様にございます」


そして、信長とはそこで別れた。


 オレはいつも単独行動なので今回が初めての団体の陽動作戦。さすが後世に残る忍びの集団だね。現代でいうところの大企業のプロジェクトチームってところかな。よくわからんけど。オレみたいな非正規とは出来が違う。オレの前世の話なんて悪寒が走るだけだから……。


 このプロジェクトチームはよく働く。まあ、結果を出したとしても後世には織田信長の功績になっちまうんだけどね。あ、そうそう。なんで信長が武田の忍びって言ったのかって。そりゃ、前回あいつと会ったときに武田忍びの小次郎とオレが自己紹介したからだよ。信長も信じちゃいないと思うがね。


 今川義元の軍勢はすでに三河を通過して尾張に入ったところだと報告がきた。先方はもちろん松平元康くん。ほらほら、頑張れ。お前さんの頑張りが今川軍の兵站を伸ばす原因になるんだから。


順調、順調。

信長の方の準備も終わっているしね。


 どうやら松平元康くんたちが丸根砦、鷲津砦に攻撃を開始したという報告が入ってきた。このプロジェクトチームは非常に優秀だ。ほしい情報がほしい時に入ってくる。さて、そろそろ行くか。信長が敦盛を舞う時間だ。熱田神宮に先回りしておこう。


 熱田神宮に到着したが、当然、信長はまだ来ていない。鷲津・丸根の砦が陥落したという報告が入ってくる。


おかしい⋯⋯。

オレの知っている歴史と一緒だ。

オレが介入しているのに、オレの知っている歴史と一緒ってことがあるのか?


 やがて、信長は熱田神宮に戦勝祈願のために軍勢を連れてやってきた。オレの知っている歴史とは違う。結構な人数だ。


そりゃ、事前に知らされていたら軍備も整えられるか。


 織田軍は鳴海城を囲む砦である善照寺砦に入ったという報告がきた。


 大高城周辺の制圧を完了した今川軍では、今川義元の本隊の軍が沓掛城を出発し、大高城の方面に向かっていった。そして、桶狭間山を通る頃には豪雨となって行軍ができない状態になっていた。

オレは信長のもとに駆け寄り突撃の合図を出すように声をかける。


 桶狭間山に織田軍が突入していく。陽動によって兵が分散した今川の本陣は織田軍の奇襲にあいあえなく今川義元は討ち取られた。今川義元の首級を上げたのはオレの知っている歴史では毛利新介。今回は誰だろうか。そんなことはどうでもいい。オレは信長のもとに駆け寄る。


「信長様、ありがとうございました」


信長の胸から真っ赤な血しぶきが噴き出す。


「これは……」


信長の真っ赤に染まった胸にはオレの忍び刀が突き刺さっていた。


「オレの創る歴史にお前のようなうつけはいらねえんだよ」


そう言って、オレは血だらけの信長を崖下に突き落とした。


それがオレと信長の壮絶な死闘の始まりであった。


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