3-2 お兄様を攻略②
思わず涙が出てきそうになったが堪えた。まだ何一つ成果に繋がっていないのだ。まだ安心させられることは何一つない。それでもこの選択は間違いじゃなかったと、思って貰えるようにする。
そして一度心が折れたモルヴァン様に、別の役割を頼むことを思いつく。
「エリザベス様。呪いを解く魔法術式を構築するのに、モルヴァン様の頭脳が必要だと思います。理論構築が出来れば、より確実にエリザベス様の呪いを相殺ことができますもの。使える物は何でも使いましょう!」
本人を前に言い切ったが、事実だ。貴族の面倒な腹の探り合いをしている暇はない。何より乙女ゲーム内でトップクラスに頭が良いのだ。きっと素晴らしい成果を出してくれる。
(そして今ここでモルヴァン様を仲間に引き入れることで、恩を売る!)
「ミレーヌがそう言うのなら。……お兄様はどう考えているの?」
「も、もちろん。子爵令嬢とは仲良くしよう。それにエリーの手伝いを全力で遂行する!!」
「それは良かったわ」
エリザベス様は朗らかに微笑んだ。執行猶予判決に安堵するモルヴァン様を見て、私も心の中でガッツポーズを取った。
(ブレーン確保!)
モルヴァン様の演算能力とか魔法理論構築を駆使して、最終局面でヒロインと共にエリザベス様の呪いを一時的に解除することができていた。ただシナリオだとその肝心な説明部分はカットで、モルヴァン様が幾つもの魔法陣を重ねているスチールのみだったのだ。
(元々、ブレーンに引き入れたかったけれど、私は目の敵で、エリザベス様のお願いならワンチャンあるかもだけど、この世界のモルヴァン様はすでに心が折れて諦めている感じだったのよね)
だからどこかのタイミングで、ぶつかる必要があった。
(証明できる物を提示してようやく動く思っていたから、これはよい誤算だったわ)
「お前の研究データも見てやる。明日にでももってこい」
私の研究データ。
苔魔法の拡大解釈による新たな魔法構築というものだ。魔法ありきの特殊な世界だからこそ考え付いたもので、呪いが魔法の一種と仮定した場合、その魔法を相殺、あるいは解除、分離、引き剥がすなどの魔法が生み出せないか。それが出発点だった。
呪いが凝縮された感情によるものなら、それを上回る感情あるいは、それに類似するエネルギーによって変換、書き換え、相殺ができないか。その当たりの魔法の知識を学ぶために図書館に通っていたのだ。
翌日、論文風にまとめてモルヴァン様に渡したら、思い切り頬をつねられた。解せぬ。
***
月日が流れるのは早く、あっという間に13歳になった。
(これを返し終わったら、エリザベス様とお茶~)
モルヴァン様を味方に付けることで文献探しや、新しい魔法の構築などかなりはかどっている。
私は引き続き《13番目の魔女》の伝承や童話、歴史書を読んでまとめる作業を続けていた。
「……っ」
「ん?」
うめき声が聞こえ図書館内の中庭を見回してみると、座り込んでいる人がいた。
焦げ茶色の短い髪に、そばかすのある平民の男の人だ。服装もさほど高くなさそうで、ヨレヨレのシャツに黒いズボンで手ぶらだ。
(気分が悪いとか? 司書さん……っ?)
本来なら大人を呼ぶべきなのだが、その人が以前会った花の妖精さんと同じ雰囲気を持った人だと気づく。
「(妖精さんの場合はどう対応するのが正解なの? うーん)……お久しぶりです。大丈夫ですか?」
「ん……ああ。君……か、気付いて」
ぐったりとした様子で、顔色も悪そうだ。よく見ると腹部を押さえ込んでいる。シャツが少し赤黒くなっている。
「気休めだけど……苔魔法、緑の癒し」
モルヴァン様のスパルタの成果で、生み出した治癒に特化した苔魔法だ。
大量の苔を生み出し、傷口の止血と傷口を癒す。しかもコスパが良いのは私の魔力ではない別の何かを吸収している……らしい。このあたりは周囲の魔素ではないかと私は考えているが、モルヴァン様的には何か違うらしい。魔法構築速度やら演算数値の振り幅が特に気になるとか。
性格も魔法も規格外と言われた気がするが、気にしない。
(気にしてない……!)
「……っ、少し寝る……傍にいて」
「え、あ、……はい」
いつの間に私の袖を掴んで、肩に寄りかかってくる。怪我をしているのなら安静にすべきだ。少なくとも部屋に入ったほうがいいと思い提案するも首を横に振らない。
「ここがいい……」
「(もしかして妖精さん的にこの中庭から出ると、周囲にある魔素が吸収できないとか?)うーん、じゃあせめてもう少し小さくなれません? 抱っこしてあげますので」
「だっこ………………わかった」
妖精さんなのだから姿が変えられると思って提案してみたが、即採用された。ポンッと姿を変えるとそこにはふわふわで白い子アザラシが腕の中に収まっていた。
「キュゥ」
(アザラシ!? なんで!?? 本当になんで!?)
叫ぶのをグッと堪えた私は超偉いと思う。後でエリザベス様に話して、この衝撃を共有しよう、うん。モフモフの手触りに感動しつつ、亜空間格納からバスタオルを取り出して包んであげた。これで少しは温かくなるだろう。
(温めるでいいのかな。まあいいや)
膝の上で眠る子アザラシを眺めつつ手持ち無沙汰になってしまい、返却予定の本を手に取る。
(まだお茶の時間まであるし、ちょっと本を読み直して整理しよう)
これまでいろんな本を読んだが、《13番目の魔女》の内容はイバラ姫の冒頭に似ている。王妃の産んだ王子と、側妃の産んだ王女が生まれたことで、宴を開き《13人の善き魔女》たちを招待したことが悲劇の始まる。
《13人の善き魔女》とは、神々や妖精や精霊を含めた人外との架け橋的存在で、様々な知恵や助言、祝福を与える役割を担っていた。そんな彼女たちに王家は森の眷属たちを通して招待状を渡したそうだ。しかし黒ヤギ族は高級な紙を見て我慢が出来ずに食べてしまう。結果、《13番目の魔女》だけ手紙が届かず、当日そのことを知った《13番目の魔女》は王城に乗り込んで呪いを掛けた。と言うのが《13番目の魔女》の起源とされている。
(物語に出てくる《善き魔女》の中で、一人だけ《13番目の魔女》と呼ばれている彼女に正式名称は書かれていない。この13番目という数字も気になる……のは考えすぎ?)
前世では12が完全な数字として扱われていたし、北欧神話だと12の神が祝宴を催した時にロキが乱入してめちゃくちゃにした話や、キリスト教神話では13番目の天使がサタンであるとか、イエスを裏切った13番目の弟子がユダだったなどが有名だ。この世界でも暦や方位などは六十進法が使われている。だからこそ13の数が不吉なのを示していると考えられなくもないが、何か引っかかる。
(童話も歴史も敗者側の背景が描かれていることはあまりない。でも絶対にないなんてこともないのよね)
「キュゥウ……」
子アザラシが甘えるような声を出すので、よしよしと撫でることにしたのだった。
その結果──。
「それで連れてきちゃったと……」
「すみません、エリザベス様」
子アザラシがスヤスヤ眠っているので、思わず連れてきてしまったのだ。
「やっぱり妖精さんは、元の自然のある場所に返しておいたほうがいいですよね……」
「プッ」
なぜかエリザベス様は口を押さえて笑いを堪えていた。もしかして妖精の取り扱いを間違えたのだろうか。
「……まあ、気づいていないならいいわよ」
「?」
「ふふっ。お兄様の許可も出ましたし、今日から泊まって行きなさいな」
「はい。……ん? ええ!?」
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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