3-1 お兄様を攻略①
その問いに対して、真正面に向き合って答える。
「もちろん。だからこうして調べているのです」
「そんなことをしても無駄だよ。王都の図書館、いや王城の書庫だって同じさ。エリーの呪いを解く方法など書かれてはいない。そんなものがあるのならとっくに僕が探している! だからその程度の覚悟と、浅はかな考えなら今すぐ諦めろ」
怒号。
私を睨み、敵意を向けるのはかつて自分が見つけようと、もがいていた姿を重ねているからだろうか。それとも単に目障りなのか。
ゲーム内でもエリザベス様のことを誰よりも大切に思って、守りたかったのはこの人だ。その思いが強すぎて、闇堕ちバッドエンドルートもある。モルヴァン様ルートはエリザベス様を助けようとするシナリオ展開で、二巡目から攻略キャラとして選択できる特殊な立ち位置でもあった。
救えない。でも救いたい。
その葛藤を抱き《13番目の魔女》の呪いを解くも、ラスボスである死神から兄を庇って殺されてしまう。めちゃくちゃ泣けるし、モルヴィン様ルートでもエリザベス様は必ず亡くなるので、けっこうな物議を醸していた。
たった一人の妹を救うことがどれだけ大変か、運命をねじ曲げるだけのリソースがない以上、出来ないことはできない。ゲーム上では命は救えなかったが、心は救えたという救済はあったぐらいだろうか。
そうゲーム上では──。
「諦めない。……それと《13番目の魔女》の黒薔薇の呪いを解く方法、その答えが書かれている本がここにあるとは私も思っていません」
「なら」
「でも《13番目の魔女》がどんな人だったのか、歴史的背景、失われた技術、答えはなくとも答えに至るための知識が必須だからこそ、私はここに通っているんです」
「……」
「私が見つけたいのは近道ではなく、答えに至るために必要な知識と、歴史的背景。そこから答えに至るための道を作り出します」
図書館の個室で良かった。防音魔法が個室一つ一つに掛かっているので、私たちの話声は外には漏れていない。
私とモルヴァン様にステンドガラスから差し込む日差しが注ぎ込まれる。目を逸らさずに向き合う。
「それに呪いが《13番目の魔女》特有のものなのか。それとも呪いそのものが単なるエネルギー、あるいはエネルギーの核がエリザベス様の中にあるだけなのかによって対処方法も違ってきます」
「……それはどういうことだ?」
モルヴァン様は話を聞き、眉を顰めた。
「呪いを魔法の一種だと考えれば、それには属性が付くと思うのです。それを分析して魔法の属性を割り出せば、相反する魔法で相殺できないか」
呪い。それだけで特別なものだという考えを一端捨ててゼロから考えた。
前世でも呪いは、非業の死を迎えた者の強い怨念が形を成した。特に日本三大怨霊の菅原道真公、崇徳天皇、平将門は有名だ。平安時代に非業の死を遂げたことで、大災害を起こすほどの呪い、呪詛を撒き散らした方々だ。
「たった一人で災害に至るだけの爆発的なエネルギーを生み出す。もし《13番目の魔女》が善人で、周囲の人たちに貶められて非業の死を遂げていたら呪いを解くためにも、供養すべきだと考えています。だからこそ事実かまずはその歴史を紐解き、事実を確認することから私は始めることにしたのです」
「呪いを解く方法ではなく……呪い掻き消す、あるいは相殺か昇華するための魔法を作り出す。だから情報を探している……」
あり得ない、そう呟き吐き捨てた。
「出来るわけがない」
「出来るできないなじゃない。できなきゃエリザベス様は死ぬのですよ!」
「!?」
「そして死のカウントダウンをエリザベス様も知っている。生まれてからずっと絞首台に向かって歩いているあの方に、少しでも楽しく過ごしてほしいとか、どれだけ残酷なことを言えば気が済むのですか!」
その言葉でモルヴァン様は顔を青ざめた。本人にとっては救いとなるだろうと思っていた対応が、相手の首を絞める行為だと気づいたのだ。その場で崩れ落ちそうになるがなんとか耐えていた。
「……っ」
「お兄様、そこまでですわ」
「「!?」」
部屋の扉から姿を見せたエリザベス様に、私とモルヴァン様は固まった。個室の中での会話は聞こえていなかったはず。そう思ったのだが、エリザベス様の表情を察するに直前のやりとりは聞こえていたのかもしれない。
すでにモルヴァン様は泣きそうだ。裏で私に色々やった前科があるので、次に私を脅すようなことをしたら「お兄様」呼び辞めるとか言っていたのだ。
エリザベス様も令佳もやると言ったらやる子なので、本当に「お兄様」呼び辞めそう。だいじょぶかな。
「エリー……」
(あー、なんかもう子犬のようにカタカタ震えている……! そんなに怖いのなら最初から私に絡まなきゃ良いのに!)
「小公爵様、私言いましたよね?」
「げふっ」
兄呼びからの小公爵呼びが思いのほかダメージがあったらしく、既に満身創痍状態。
「ミレーヌに酷いことしたら許さない、と言ったでしょう」
「エリー、違うんだ。僕は……」
言い訳をしようとするモルヴァン様に対してエリザベス様は声を被せた。
「ミレーヌは、死ぬしかない未来を変えようと手を差し伸べてくれた最初の一人よ。両親は最初から諦めて嘆いて、小公爵様は私を憐れんで調べたけれどすぐに絶望してからは私を溺愛するだけ。周りは私が公爵令嬢だからとチヤホヤして、私の決めつけられた未来に対してちゃんと向き合ってくれたのはミレーヌだけよ!」
(エリザベス様っ……!)
エリザベス様と令佳の嘆き絶望していた思いが伝わってきた。令佳は前世の知識がある。それを駆使しても、本編のシナリオ展開を覆せるようなことは出来なかった。
王太子との婚約回避あるいは解消。
黒薔薇の呪いの解除。
王家や一部の大貴族しか知り得ないこの国の秘密。このあたりはゲーム設定でもフワッとだったので私は知らない。
どう動いても雁字搦めで、表面上はキャラクター通りの動きしか出来ない、大幅なシナリオ改編は軌道修正されてしまう。八方塞がり。
そんなことされたら絶望しかない。
「ミレーヌは私に一つの可能性を見出してくれた。挑戦と失敗を繰り返して、ちょっとずつ答えを導き出す。その成果は牛車の歩みに近いけれど、確実に前に進んでいる。そんな姿を見ていたら、私が諦めるわけにはいかなくなったわ」
「エリザベス様ッ……」
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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