2-1 再会と目的①
目の前にいる最推しに、思わず頬を抓りそうになった。しかし令嬢としてそんなことができるはずもなく、変な汗が背中から流れ落ちる。
(えええええええエリザベス様だ。本物だわ。肌綺麗、エメラルドグリーンの髪も太陽の日差しを浴びてキラキラしてるぅうう。天使? ううん。女神だわ。間違いない!)
「……急に声を掛けてごめんなさい。個人的な話を聞きたいので、少し宜しいかしら」
(喋っている。可憐な声……──って、私!? 私に声を掛けたの???)
令嬢としてはしたなくない程度に周囲を見渡すが、私の傍に誰もいなかった。
(本当に私なの!?)
推しのエリザベス様と目が合った瞬間、全身に電流が走った。
「はい、喜んで」
「ひゃーーーー、エリザベス様最高ーーーーーーーー!!」と、全力で叫ぶのを堪えた私はとても偉いと思う。
***
客間に案内されて、向かい合わせにソファに腰を下ろした。紅茶と焼き菓子を準備し終わると、侍女たちは部屋の外に出ていった。
(ああああああ憧れのエリザベス様とサシでお茶……!!)
「ジュラバル嬢。一つ確認をしたいのだけれど、よろしいかしら?」
「ひゃい」
緊張してしまい思わず変な声が出た。だってしょうがないじゃない。生エリザベス様がいるのだもの。心の中でグッと拳を握りしめる。もし叶うならここで写真を撮りたい。サインも欲しい。
(この世界にスマホがあれば!!)
「貴女はこの文字が読めて?」
「文字ですか? ──っ!?」
そこに書かれた文字は、この国のものでは無い。それどころか、この世界の文字ではなかった。もう見ることもないと思っていた日本語だったのだ。
「“私北条令佳はエリザベス・ウィンローズに転生している”…………え」
後頭部に激しい衝撃を受けたような気分だった。文字は読めるのに、思考回路が停止しているせいで全く頭に入ってこない。
(え? は? どうしてエリザベス様が? 令佳? 転生したってこと?)
「やっぱり読めるのね、彩矢」
そう朗らかに微笑むのはエリザベス様だけれど、エリザベス様だけでは見せない困った笑顔だった。
「──っ、本当に親友なの?」
「そうよ。12年ぶり……かしら?」
その瞬間、私も令佳も同じ時に亡くなり転生したのだと嫌でも理解した。助からなかったことへの悲しみ、それと同時に再会への歓喜。
「令佳……っ!!」
「彩矢」
ほぼ同時に立ち上がり、令佳と抱きつき合った。私はミレーヌとして、令佳はエリザベス様として転生し、再び巡り合えるなんて思って想像もしていなかった。色んな感情がぐちゃぐちゃになって、嗚咽を漏らしながら気付けば泣いていた。
(もう会えないと思っていた……っ)
ひとしきり泣いた後、私たちは隣に座りあった。二人とも泣き過ぎて目が真っ赤だ。
「ひぐっ……まさかエリザベス様に転生しているなんて……」
「うん……私もマジか……って思った。私がエリザベス様に転生したことで、周囲からこんなのはエリザベス様じゃないって、失望されたらどうしようって、前世の記憶が戻ってから不安でいっぱいだったの」
今はエリザベス様ではなく、前世でよく知っている令佳の口調だった。でも前世よりは上品というか、エリザベス様としての部分もしっかり影響し合っていると思う。これはエリザベス様と、令佳の両方をよく見ていたから気付いた事なのだけれど。
「それにエリザベス様って、どう頑張ってもバッドエンドしかないでしょう」
「うん。今は運営死ねと思ってる」
「……前世で悪役令嬢に転生して死亡フラグを回避するとか、心を入れ替えて本編までに攻略キャラとの絆を深めるなんてものが流行っていたの覚えている?」
「もちろん。あれはあれで好き」
「だから試してみたの。両親との不仲も、婚約者との改善あるいは婚約破棄を」
「うん」
令佳は私以上に《迷い子とワンダーランドの果て》のゲームをやりこんでいた。だからこそ、どうすればいいのか分かっていたのだろう。けれど表情を見る限り、あまりよい成果は得られなかったようだ。
「乙女ゲームではない、この世界の筋書きはどうあっても変わらないみたい。……悪役令嬢エリザベス・ウィンローズは《13番目の魔女》からの呪いに蝕まれて死ぬ。そう決まっているの」
「え? この世界の筋書きって、どういうこと?」
令佳が手を震わせていたので、私は両手でその手を包み込んだ。指先がとても冷たくて、小刻みに震えている。
「この国を覆っている結界を維持するために、ゲーム本編と同じような運命をなぞると王家の予言書に書かれていたのよ」
「はああああ!?」
「実際にその予言書にゲームシナリオと似たイベント内容があって、数百年に一度この国で再現されることがこの国の結界を強固にするものだって……」
「……」
「だから私はどうあっても、将来的に《13番目の魔女》になる。私の中に《黒薔薇の呪い》が残っている限り、どうにもならない」
悲痛な声。今まで我慢していたからこそ、感情が堰を切ったように溢れ出て止まらないのだろう。
エリザベス様への転生。
定められた運命の圧力に、独りで耐えていたのだ。運命は変えられない? 冗談じゃない。
「そんなことない。だって私がいるもの。今ここで令佳と出会えた」
「彩矢」
ぽろぽろと泣き出す彼女に、私も再び泣きそうになる。でも今は笑うんだ。エリザベス様を、親友を安心させるために。
「私には役割がないモブなの。この世界で役割がないのなら、制限も抑止もないわ」
「──っ、彩矢。貴女まさか」
「だから大丈夫。私と一緒に呪いを解く情報を探そう。そのために今まで準備してきたのだから!」
エリザベス様にお会いして、呪いを解く手助けがしたいと思った。でも今はエリザベス様を助けたいと同じくらいに令佳を助けたいし、守りたい。
なんの役割も与えられずに、この世界に転生したのなら自分で役割を選ぶ。誰も助けられないのなら、助けられる唯一に。
「──ということで、とりあえず呪いを解きそうなグッズを集めたから使ってみて」
私は亜空間から用意していた骨董品や魔導具を片っ端から出していく。その様子を見て令佳の涙が止まった。
「古今東西の魔導具も……令佳?」
「ふふっ、そうだった。彩矢は諦めが悪い子だったわ」
「そうよ! 最推しが親友というミラクルの状態で、なんで私が諦めるなんて思うの?」
令佳は今度こそ心から笑い、私を真っ直ぐに見返す。
「あーもう、本当に貴女ってそういう子だったわ!」
令佳は涙を拭うと、淑女の笑みを貼り付けて微笑んだ。
(ああ、でも画面越しで見てきたエリザベス様とはやっぱり違う。令佳の良い部分とエリザベス様の良い部分が混ざり合って、今のエリザベス様になったのね)
私が推していた画面越しのエリザベス様ではない。でも眼前にいるエリザベス様を、前世で親友だった彼女を、助けたいという気持ちは変わらない。
「あ、そうだわ」
「なに?」
「エリザベス様、今世でもお友達になってくれますか?」
「もちろんよ、ミレーヌ嬢」
前世と同じように、私たちは笑い合って握手を交わした。前世と違うのは、令嬢らしい上品さが上がったぐらいだろうか。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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