1-2 出会い②
***
次に自分の意識が浮上したと思ったら、なんだか夢のようなフワフワした感覚で、気付いたら見知らぬ場所にいた。
ミレーヌと鈴鳴彩矢の記憶がゆっくりと交わって、完全に前世の記憶を思い出したのは8歳の頃で、両親の話を聞いていた時だった。「それならカタログを作ったら?」とつい口から零れた言葉に覚醒。
ミレーヌ・ジュラバル子爵令嬢。
それが今世の名前と身分だった。
8歳だった私は周囲の状況を色々整理して転生した世界が、乙女ゲーム《迷い子とワンダーランドの果て》に似ていると気づく。国の紋章とか名前とかまんまだったしね。
(もしゲームの世界にそっくりなら、生エリザベス様を見ることが出来るかもしれない!)
ゲーム終盤でどう頑張っても、死のルートから抜け出せないでいた最推し。でもゲームに似ているこの世界で、役目もなにもない私ならなにか出来るかもしれない。思い立ったら即行動──だったのだけれど、現実はそう甘くない。
(同じ世界に居るけど接点がない!!)
最推しは公爵令嬢だ。一応貴族だが、上流貴族と接点がない。そもそも王都暮らしではないので機会もないのだ。
ジュラバル子爵家の領地は王都から馬車で3日のかかるため、頻繁に王都に行くことは出来ない。お金が掛かる。乗り合い馬車でも高い。子ども連れで気軽に行けるところではないのだ。
10歳になったら、王都の教会で魔法適性を行う取り決まりがある。それまでエリザベス様にお会いすることは難しかいかもしれない。
(約2年……2年も待つなんて……!)
「ミレーヌ?」
「どうしたんだい?」
「お父様、お母様……っ」
精神年齢は大人だけれど、身体は9歳の子どもだ。身体に感情が引っ張られるせいか、両親に抱きついてちょっと泣いてしまった。
(せっかく推しと同じ世界に居るのに、何も出来ないなんて……もどかしい!)
両親が「気晴らしに王都に行ってみようか?」と提案してくれたが、細々と商売をしている我が家にはそこまで余裕はないはずだ。蓄えはあるものの節制がモットーの両親は、不作の年のことも考えて領地経営をしている。
(お金がなくて王都に行けないのなら、たくさんお金を稼ぐようにすれば良い!)
「王都で二泊して、それから」
「そうね、お祭り時期じゃないならホテルだって」
「いいえ。お父様、お母様」
ギュッと唇を噛みしめ、推しに会うため私は覚悟を決める。
「私、たくさんお金を稼ぐようになって、自分で王都に行くわ!」
「「……っ、ミレーヌ!! なんて賢い子なのかしら!」」
私の発言に両親の商売魂に火が付いたのか、「昔の血が騒ぐな」とか「ふふふっ、社交界で一波乱しましょうか」と不気味なワードが聞こえたがきっと気のせいだ。
うちの両親はとっても善良で、お人好しの塊のような人たち──という印象がガラリと変わったのはもう少し先だったりする。
***
私が9歳になると、商会は王都の商店街一等地に店を出せるほど大きくなった。薔薇が有名な土地だったが薔薇を使った化粧品やクリーム、ポプリ程度だった。お父様が王都に仕事に出るときに、貴族向けと庶民向けに分けてローズヒップなど香りのある紅茶を売り出す企画を提案。また薔薇細工の菓子を作ってみせたら、これが大当たり。王都で空前絶後の薔薇ブームになった。
(元々、春の薔薇祭りと冬の薔薇祭りがあるぐらい、この国では薔薇の行事が多いのよね。エリザベス様の呪いも黒薔薇だし……。──って、エリザベス様との接点がゼロまま!! 遠目で姿を見ることもできないなんて……!)
10歳になる少し前。お父様が王都でウィンローズ公爵家のことを調べてくれて、私と歳の近い公爵令嬢がいると教えてくれた。感謝しつつ、私と家族は経営拡大もあって王都に屋敷を購入。
王都暮らしが始まったのだ。
事業拡大に伴い、企画書作りやらアイディアをまとめる日々。エリザベス様専属の侍女枠に志願したものの、書類選考で落ちた。
(せめて面談ぐらいさせてほしかった……うぐ)
エリザベス様は公爵令嬢なので、名家の子爵、あるいは伯爵令嬢以上かつ次女を採用したそうだ。
(忠誠心なら負けないのに、無念……)
そんなこんなで10歳になり、魔法適性を受けることになった。王国内の子どもであれば、必ず魔法適性を受けさせる。
貴族であれば魔法属性は2つ以上あるらしく、魔法六大元素のうち5つ持ちもいるそうだ。乙女ゲームでは聖女として光魔法は必ず持っているが、それ以外の属性は攻略キャラによって異なる。
エリザベス様は植物魔法と風魔法、そして水魔法を得意する三大魔法属性持ちだ。魔力量も多い。この植物魔法こそが、呪いの一部から派生したらしく、使う度に呪いの浸食度が進む。もっともこれはファンブックに書かれていた裏設定で、エリザベス様がこの事実に気付いたのも終盤だったと記載があった。
(解呪の手がかりになるような魔法だったらいいな)
そんなことを思いながら洗礼当日。教会で受付を済ませ、シスターたちに案内されて移動していた──のだが、気付けば中庭に一人立っていた。
(嘘でしょ……迷子になるなんて!!)
教会本部は白を基調とした内装で回廊の柱、石畳も白く、どこも同じような作りのため迷宮に入り込んだよう。ゲームではマッピングしてしまえば迷うことなかった。そうマッピングさえあれば、だが。
(こういうイレギュラーの時に、漫画とかアニメだったら推しと出会うのよね。……そんな展開あってもいいと思う!!)
ふと視界の端に緑が見えたので、向かってみると庭園が広がっていた。憩いの場所なら誰かいるかもしれない。そう思って近づいてみると、私と同じように周囲を見回してオロオロしている少女がいた。
(推しじゃない!!)
所詮、漫画やアニメの良いなご都合主語な展開なって起きないのだ。ぐすん。
私よりも幼い。銀色の長いツインテールに、紅色の瞳の可愛らしい幼女だった。年齢は5~6歳だろうか。
「ねえ、私はミレーヌって言うのだけれど、貴女も迷子?」
「……うん。洗礼が終わるまで待っているように言われたのに……」
ぐすんと泣きそうなので、小さな手を掴んだ。
「大丈夫。私も迷子だから、一緒にシスターを探そう」
「おねーちゃんもまいご」
「そう! 二人も迷子だからきっと気づいてくれる──はず!!」
女の子はますます不安そうな顔をしたが、手を引いて歩き出す。それからドラマティックな展開も、推しとの遭遇も、ほんとーーーーに何もなく探しにきてくれたシスターさんに連れられて、洗礼を受けるのだった。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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