7-3 寮生活は危ないそうです3
(あああああああ!!)
思い出す子アザラシとの日々だ。モフモフして、手触りも最高で良い匂いがした。お腹に顔を──とにかく沢山愛でたのは事実。ブラッシングやご飯を食べさせたり、身体を洗ったのも私だけ。
(そういえば、最初は侍女さんたちに任せていたけれど泣きながら『嫌がられるので無理ですぅうう』と言われたんだった……)
その段階で気付くべきだった。いや普通それでも気付かないだろう。だいたい妖精さんだと思っていた相手が実は隠れキャラでした──って、何の冗談かと思う。
(ただ……あの時、放っておけなかった……)
手を伸ばして助けられるのなら助けようとする。反射的に身体が動いてしまう。いやでも、これからは特にこの一年は自分の命を第一に考えなければならない。
(こうなったからには転生者として、ゲームシナリオで起こりうるイベントなどをモルヴァン様たちに公開すべき? エリザベス様と数年前に纏めたものがあるけれど……うーん、私からエリザベス様に連絡出来ないし……)
色々考えていたら瞼が重くなって、眠気が誘われる。本当は机に座って現状を整理するために書き出して、いろいろ考えることややるべきだ。眠っている暇はない。
そう自分を鼓舞するが、どうにも力が入らなくて瞼を閉じてしまう。
(本当にどうしてこうなったのか。色んなことが起きすぎて頭の中はぐちゃぐちゃだ)
エリザベス様の解呪、最初のゴールがそこだった。エリザベス様の呪いを解いて、楽しい学院生活を送る。その中には婚約破棄のイベント回避も含まれていた。最悪、婚約破棄になってもエリザベス様の生存ルートをいくつか考えて挑むのもプランにあったのだ。
そのプランが丸ごと変わった。エリザベス様の未来を変えるために海外に退避する。その結果は喜ばしいことだ。
実際に目が覚めて手紙でそのことを知った時は、嬉し泣きしたほど嬉しかった。だけれど傍にエリザベス様がいなくて、子アザラシも姿が消えたと聞いて、自分の胸にポッカリと穴が開いたような感覚に襲われた。
(……寂しい)
麻痺していた感情が、緊張が途切れて本音が漏れる。
(会いたい……)
一人は寂しくて寒いから。
「キュウゥ……」
「ん?」
ふと重たげな瞼を持ち上げると、視界に真っ白でふわふわな子アザラシが見えた。幻かもしれない。それでも気付いたら抱き寄せていた。
確かな重みと温かな温もり、そしてモフモフ感。思考が鈍っていてディートハルト様だと分かっていても、モフモフ感に勝てずに抱きつく。柔らかくて温かい。
「モフモフ……」
「キュウウ」
頬にすり寄って好かれている。その事実が嬉しくて堪らない。ずっと傍に居てほしい。そう思うほど、子アザラシの温もりが好きになっていた。
ぼふん、と。何か音がしたがそれよりも私を抱きしめる腕の温もりがじんわりと伝わってくる。
「ハニー。この姿だと本当に警戒心がないというか、甘えまくってくれて……僕が色々我慢しているのに、狡いなぁ」
(ディートハルト様の声だ。レディーの部屋に無断で入るのは……どうなのだろう……)
耳元で囁くのは反則だと思う。それでも眠くて意識が沈んでいく。
「ねえ、ハニー。早く僕の物になって。ああ、でもその時は綺麗に着飾って……」
一気に血の気が引く台詞が聞こえてくる。それはバッドエンドの一つで気に入ったものを時魔法で保存して鑑賞するという、ホラー的な趣味が明らかになるシーンだ。
全力で嫌なのだが。
ほんのちょっとでも甘い雰囲気なのかもと期待した私が馬鹿だった。
(やっぱりディートハルト様はきけん……すう)
「ハニー、できるだけ待つから、僕も努力するから、だからどうか僕の気持ちを受け取ってほしい。じゃないと……君をまた死なせてしまう」
頬に雫が当たる。
雨?
いや部屋の中だから違うだろう。
ディートハルト様が何か言っているが、もう声が遠い。
「君の死なんて一度で十分だから……────、────」
切実な声。
謎が浮上する。
私は一体何を忘れているのだろう?




