7-2 寮生活は危ないそうです2
どうしてディートハルト様は私と仲良くすることに固執するのか、ますます分からなくなった。
解呪のためかと思ったが、二人はすでに呪いが解かれている状態だ。
(うーーーーん? ハッ、もしかして私が解呪できる人材だから、カルト集団をおびき寄せるための撒き餌として、寮ではなく襲撃されやすいこの場所を選んだとか? 寮生には子爵以上のご令嬢も多いだろうし、何かあれば結婚にも差し障る。だから犠牲者が一人で良いのなら、そちらのほうが学院としても、王侯貴族にとっても都合がいい)
そう考えると、モブ令嬢らしい扱いだと納得した。私はヒロインのようにいざという時に、助けてくれるようなヒーローはいないということ。
結局、モブなんてそんなもの。ヒロイン代行ってことは単に使い捨て要員で、私という駒がいなくなれば、配役にふさわしい人材がキャスティングされる。
それぐらいこの世界はモブにとって厳しいのだ。前世と違って治安はもちろん、王族と一部の大貴族しか知らないことを知ってしまった、ただの子爵令嬢の命は軽い。
簡単に人が死ぬ──そうできているのだから。
(だからこそ自分の身は自分で守らないと……)
「…………」
「さて、温室も見て回ったし、次は屋敷の使用人たちを紹介しよう」
「はい」
決意を新たにしている間に、温室を見て屋敷内の案内は終了となる。三階の温室は楽しみにしていたのに、気もそぞろでワクワクできなかった。
一階のサロンに移動すると緑髪の眼鏡を掛けた青年が待っていた。執事服を着こなしている。彼がこの屋敷の執事なのだろうか。
「皆様、初めまして。執事として雇われたリーノと申します」
「侍女のサーシャです」
黒髪で赤目の女の子は可愛い侍女服を着こなしていて可愛らしい。特に白のブラウスに黒の長めのスカートにタイツとシックだけれど素敵だ。
「よろしくお願いします。……って、ザシャの親戚さん?」
「そんなところです」
ザシャとは乙女ゲーム内ではナビ役なのだが、実は凄腕の暗殺者という設定がある。裏でヒロインのために護衛するなど味方キャラだ。妹がいるのは設定になかったが、いないことはないだろう。あるいは親戚とか、遠縁はありえなくない。
なにせザシャの一族は各国に重宝されるとかで、代々王家や権力者の影として仕えている的な設定があった。ゲーム上ではさるお方からの任務だとか匂わせ的な発言ぐらいだったか。
数年前、ウィンローズ公爵家でザシャを保護して、【黒薔薇の呪い】とは別の呪いを解く代わりに公爵家に仕えると契約を結んだ。
(私の苔って割と何の呪いでも相殺するって証明にもなった一件なのよね)
そういった経緯があったので、彼女はザシャ関係の助っ人として妹的な女性が来たのかもしれない。
「基本的に寮生活と同じ生活をしていただきますので、食事の提供は時間帯のみで、それ以外は自炊。洗濯は指定した場所に提出すれば対応します。軽い掃除はご本人が行っていただき、それ以外は週に一度掃除をいたしますのでご了承くださいませ」
「(思ったよりも至れり尽くせり!)はい、わかりました」
前世の寮生活と比べると、好待遇すぎる。この世界の貴族の子息令嬢なら卒倒するレベルだろうけれど。
「わかった」
「……モ、お兄様。ちょっと話があります」
笑顔なのに圧が凄まじい。何か怒る要素があっただろうか。小首を傾げていると、エリザベス様が華麗に振り返った。
「ミレーヌ。夕食までは自由時間にしましょう」
「え、あ。はい。畏まりました」
つまりは席を外せということなのだろう。昨日今日で色々ありすぎたので、少し一人で過ごすのはありだ。割り当てられた部屋に戻ると、淑女として失格だがそのままベッドに倒れ込む。
(ふへぁ~~~。やっと一人になれたぁああ~~)
昨日から怒濤の展開に正直、情報整理が追いついていない。色々ありすぎた上に展開が早くて気持ちの整理も消化し切れていないのだ。
(ああああああーーーー、なんだかとんでもない一年になりそうだわ)
心の中で叫ぶも、いつもなら同じ境遇のエリザベス様に気持ちを吐露していた。また以前は子アザラシが空気を読んで私の傍にいてくれたのだ。あのモフモフと温もりは癒しだった。
(癒しだったのに~~~~! あれがディートハルト様だとかなんの冗談なのよ! けっこう甘えてモフモフして、ハグとかキスとかめちゃくちゃしちゃっているし! お風呂は……ああ、でも体をぎゃあああああああああ!)
ディートハルト様だと思って、背中とか体を洗っている姿を想像したら悶絶しそうになった。
な、なんてことをしていたのだろう。考えただけで恥ずかしくて辛い。
(ハッ!? もしかしてエリザベス様はディートハルト様の正体に気づいていた??)
よく考えればエリザベス様は、最初から子アザラシに対して触れることはなかった。そもそも私が基本的に世話をしてベッタリだった。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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