5-3 本当に突然の求愛
(どういう展開なの!? なんでここでキス??)
「いいかい。僕の婚約者はハニー。これは絶対だからね」
「???」
そう念を押されている間に、ガチャ、ガチャン、ガチャガチャンと南京錠をいくつも開ける音が聞こえてくる。
1つ、2つ、3つ……。
「「…………」」
7、8つと鍵を解除していく音、音、音。鍵の多さに血の気が引いた。
(えっ、怖っ!!)
外側の鍵、かけ過ぎ。つまりは実質密室状態だったのだ。本当に逃さないために、入り口の鍵も執拗に増やしたのだろう。
(婚約を頷かなかったら、頷くまで閉じ込めておくつもりだったんだわ。……そもそもなんで私との婚約にこだわるのか不明なのだけど、このよく分からない状況を説明してくれる人が来てくれますように! というか本物のエリザベス様に会いたい!)
そう祈るように願ったのだが、残念ながら推しの姿はない。重厚な扉を開けて中に入ってきたのはエリザベス様の兄モルヴァン様、そして金髪碧眼の整った顔立ちの青年──王太子ブラットリー・ヘムズワース殿下だった。
「ミレーヌ嬢! 無事か!?」
「モルヴァン様! それに王太子殿下!?」
「……チッ」
ディートハルト様はあからさまに舌打ちして、忌々しげに彼らを睨んだ。どうしてこのお二人がここにいるのか。疑問ばかりが次々に出てくる。
(でもモルヴァン様が居るってことは、きっと素晴らしい解説をしてくださるはず!)
期待の眼差しでモルヴァン様に視線を向けようとしたら、ディートハルト様の手で目隠しをされてしまった。何故に。
「ディートハルト様?」
「そんな目で見るのは僕だけにして」
(ディートハルト様ってこんなキャラだったっけ?)
「うわぁ。モルヴァンの言うとおり、あのディーが面白い感じになっているね」
「ブラットリー、ジュラバル嬢が困惑しているので本題に入ってはいかがですか」
「ああ、そうだった」
王太子殿下はこの状況をケラケラと楽しんでいる。困惑したままでいると、王太子殿下は苦笑しつつようやく状況を説明してくれた。
「改めてミレーヌ・ジュラバル嬢。王太子のブラットリー・ヘムズワースだ。今回、王家主催のパーティー会場に、国家転覆を目論むカルト集団が潜り込んでいた──が、それを君とエリザベス嬢に扮したディーが掃討してくれた」
「ん?」
「しかしカルト集団に君の魔法を気付かれるのは時間の問題だと思って、ディーに保護を頼んだが……」
「ほご?」
監禁の間違いではないか。そう目で訴えたが、ディートハルト様は「手厚くもてなした」とドヤ顔で、ブラットリー殿下はお腹を抱えて笑いを堪えている。この方、もしかして笑い上戸だろうか。モルヴァン様は眼鏡の縁をくいっと挙げていた。
「多少……独特だが、一応君の身の安全を最優先に……頼んだ」
(モルヴァン様もこうなるって知らなかったのね。なんだか申し訳ないわ)
カルト集団。
乙女ゲーム内も、国家転覆を狙う貴族派閥とカルト集団が手を組んで魔物を呼び出したりと色々問題を起こしていた。しかもカルト集団はエリザベス様を《13番目の魔女》の生まれ変わりと決めつけていて、覚醒させるためとかで学院内でもトラブルを起こしていく。
(その当たりはゲーム設定に近い状態なのだわ。まあ、その状況は分かった気がする。私の苔の解呪魔法がバレたら真っ先に潰されるものね。……でも、エリザベス様の解呪が終わったのだから、私を保護ってなんだかおかしいような?)
「ジュラバル嬢。今年の魔法学院入学についてだが、エリーは通えなくなった」
「え」
後頭部を思い切り殴られた衝撃で、いろんなことが吹き飛んだ。エリザベス様が魔法学院に入学しない。つまり楽しみにしていたエリザベス様との学院生活が頓挫した。
絶望しかない。
「あーー、これには色々事情があってな」
「そうですか……おつかれさまです」
「そんなに私の婚約者のことが大切かな?」
「当然です」
「言い切った」
ずううん、と空気を重くしているが知ったことではない。せっかく今日はお会いできると思ったのに会えないし、楽しみにしていた学院生活までなくなるとか明日から何を楽しみにしていけば良いのか。何もかもが色褪せてどうでもよくなる。
「ハニー、僕よりも?」
「当然です」
「ひどい」
傍に居たディートハルト様が軽く凹んでいるが、声を掛ける気は全くない。なによりチラチラ構ってほしい視線がうざい。
「エリーから手紙を預かっている」
「!?」
その言葉に少しだけ気分が浮上する。
「手紙……! 本物のエリザベス様はどうしたのですか!? エリザベス様の手紙には無事だって書いてあったのですが、それから何も聞いてないのです!! エリザベス様に会わせててください!!」
「ジュラバル嬢!? ちょ、近っ」
矢継ぎ早にモルヴァン様に詰め寄る。「さあ答えて」という勢いで迫ったせいか、ディートハルト様に「近い」とモルヴァン様から引き剥がされてしまった。解せぬ。
「こほん、あの日、君がエリーの呪いを解呪した。結果として《13番目の魔女》をエリーの中から追い出すことができたが、それによりこの国を滅ぼすと宣言」
(ん!??)
「来年の三月に流星群が飛来すること、結界の消滅に伴い魔物の活性化、及び魔物暴走に、称号持ちは全員エリーと同じ黒薔薇の呪いを受けた」
「え?」
「エリーは呪いが消えたが、カルト集団がそれに気付けば《13番目の魔女》の器として覚醒させようと動くだろう。だからこの一年間は国外に出て過ごして貰うことになった」
「ふぁ」
「ミレーヌ・ジュラバル嬢。我が国に長年巣食っていた《13番目の魔女》との終止符を打つため、力を貸して欲しい!!」
(ふぁああああああああああ!??)




