5-1 本当に突然の求愛
金色の瞳が私を射貫く。その顔は迷子になった子どものようで、あまりにも不安そうだったから、思わず手を伸ばして頬に触れてしまった。いなくならないで、と。
「い、……いろいろ思い出しました。あの小さな女の子も、お姉さんだと思っていた人も……」
「うん、全部僕だよ。君が僕を見つけてくれたから……。僕はあの日、君たちに懸けてみたんだ」
(あの日? 君たち?)
なんだか大事なことが抜け落ちている気がする。そう思ったのだがディートハルト様に押し倒されて、ご尊顔がすぐ傍に。
(ひゃわわわ!)
思考が乱れまくって、状況整理が出来ない。
そもそもディートハルト様ルートは魔法学院が始まってからしか出てこない。しかもモブ生徒のフリをして潜入する所からで、好感度も中々上がらずに選択肢一つ間違える死亡ルートに繋がる。
「ねえ、ハニーは、《人魚族の伝説》は知っているかい?」
「(ハニー呼びは確定なのね)……ええ、まあ。旧王家である人魚の末裔ヘンネフェルト家が呪いを解くために、ヘムズワース家に王位を譲り市井に下りたという話だったかと」
「そうそう、それ。それが僕の一族なんだ」
「人魚族の末裔……。(ゲーム設定でも人魚族の末裔って位置づけだったわ。だから妖精さんっぽい不思議な雰囲気だった?)確かに攻略キャラにも記載が……」
「コウリャクキャラ? ああ、やっぱり。ハニーは転生者のようだね」
(しまった!!)
自分の失言に、血の気が引いた。
ゲーム内では転生者、転移者は珍しくない設定だったりするのだが、そういった異世界から来る人間に興味を持ち、蒐集するのがディートハルト様の悪癖だった。今さらながらにその情報を思い出して胃がキュッとなる。
「まあ、アザラシの姿でハニーとエリザベスの会話を聞いていて、なんとなくそうだとは思っていたけれど」
「(知られたら一番まずい人に、転生者だということがバレるなんて! ディートハルト様がエリザベス様に扮していた秘密も知ってしまった今、間違いなく口封じされる!?)わ、私はその……役割のないただのモブなのですよ?」
「慌てちゃって、そういう姿もすっごく可愛いねぇ」
既にいろいろとロックオンされているのか、何をやっても興味を失う感じにはならないようだ。しかしそれだけで、こんなに執着するのはおかしい。
「私は転生者的な知識はありますけど、でもその、ヒロインじゃなくてですね」
「うん。それでもいいよ。君が見つけたのは僕で、僕は君が気になってしょうがないんだ」
気に入っているって蒐集的な意味ですよね。恋人っぽい甘い雰囲気を出そうとしても、駄目なのですよ。
ちなみにこのディートハルト様は美しい物や自分が気に入った物に関しては、時魔法を使って時の柩に入れて鑑賞するイカれた趣味がある。死体愛好家とはちょっと違うが、気に入った物は時を止めて手元に置いておきたいとか執着ヤンデレ気質のフルコンボなのだ。
バッドエンドでは透明な柩にヒロインを入れるという、頭の狂いっぷりが有名だったりする。一部のファン的にはかなり刺さるらしい。
「ディートハルト様。私は単なるモブですから、こういうシチュエーションはぜひヒロインのとしていただきたく!」
「懐かない猫みたいで可愛いな。どうすれば従順になるんだろう?」
(ぎゃあ。瞳孔が開いている! こ、この人、目がマジだ! 怖い、怖い! 逃げなきゃ、逃げ──)
「ハニー、結婚を前提に付き合ってほしい」
「ヒュッ」
唐突な告白。もう本当に意味が分からない。
(蒐集的な意味なら告白なんて必要ない。私を安心させた後で、時魔法を使ってしまえばいい。喜ばせた後の落差を見て楽しみたいのか。……うう、そこまでのサイコパスじゃないと願いたい)
私がなかなか返事をしないでいると、ディートハルト様は酷く傷ついた顔で、薄らと笑った。
「もしかして僕の言葉が信じられない?」
「それは……だって、ディートハルト様のことをまだよく知りませんし……」
「あんなに抱きしめてキスをしてくれたのに?」
「あ、あ、あれはモフモフの子アザラシだったから!」
「ふーーーん」
なによりこの押し倒された段階で告白という状況からも解放されたい。そして近い。鼻先がさきほどから触れるほどすぐ傍に居るのだ。
「本気なのになぁ」
「い、いえ……その、ディートハルト様と私って釣り合ってないと言いますか……」
「僕は君じゃないと嫌なんだ。あ。これを見せれば、僕が本気だってわかるはず!」
「え、ひゃあ!?」
ディートハルト様は突如自分の胸に爪を立てて、心臓を抉り取ろうとしていることに気づく。慌ててその手を止めた。
「な、ななななな何しているのですか!?」
「ん?」
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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