4-3 そして現在に至る
男たちが一斉に投擲したのは、黒い物体だった。ピンを抜いて擲ったソレを見て、手榴弾のような物だと気付く。
エリザベス様が危ないと思った瞬間、身体が勝手に動いていた。
「苔魔法──苔植物の盾」
エリザベス様の周囲に苔魔法を展開し、傍に駆け寄る。しかしここで想定外だったのは、苔魔法が手榴弾の魔素的なものを吸収したことだ。
「あ」
結果苔が風船のように増殖し、部屋の一部が吹き飛んだ。そしてその風圧で私とエリザベス様が夜空に舞った。
「ひゃ」
「まあ」
(やってしまったぁああああーーーー!!)
王城傍の屋敷の一部が半壊。がれきと共に苔と私たちが王城の空に舞い上がり、重力によって地面に落下していく。
(着地! 魔法でクッションを……!)
「エリザベス様、手を!」
「……!」
空中でなんとかエリザベス様の手を掴む。同時に魔法を展開しようとしたがエリザベス様が私を抱きしめてしまう。
(え、ちょ、このままじゃ……!)
ギュッと唇を噛みしめ、痛みを覚悟する。
ざばん。
二人揃って水路に落下した。王都は下水道とは別の水路が多くあり、王城の傍にも同じように深めの水路がある。そこに落ちようだった。
「!?」
水中で自分の吐息が泡沫となって、こぼれ落ちる。屋敷の灯りが、昏い水中を照らす。
(このままエリザベス様を掴んだまま泳いで……え?)
ふとエメラルドグリーンの美しい髪が白銀に染まっていく。
(ん?)
エリザベス様の白い肌が更に白く、鱗のようなものが見え、足が魚の尾に変化――した。
(んんん!??)
浮かび上がろうとエリザベス様を引っ張ろうとするが、逆にもの凄い力で抱き寄せられ、ぐっと水底に引き摺り込まれる。
「――っ!?」
洗濯機に放り込まれたかのようにもみくしゃにされて、そこで意識が途切れた。
***
「ねぇ、ハニーは僕のこと独りにしないよね? 伴侶としてずっと傍にいてくれるだろう?」
(ヤンデレ闇モード、これはオワタ!)
現在。
目を覚ますと視界には、見慣れない天蓋と窓一つない部屋。足に鎖、私を「ハニー」と呼ぶエリザベス様と同じドレス姿の偉丈夫がいる。
三周目以降でなければ攻略ルートが解禁されない、隠しキャラの一人ディートハルト・ヘンネフェルト様だ。
色々思い出してきたが、どうしてこのタイミングでディートハルト様がいるのか。なによりエリザベス様に扮していたのかが分からない。
「ハニー? もしかして混乱している? それに僕のこと覚えていないのかな?」
「え、ええっと?」
心の底から「全然分からない」と冷や汗が流れ落ちる。これはわからないと死ぬフラグだろうか。下手に嘘をついても死ぬ。正直に言っても死ぬ雰囲気だ。
「あれ? もしかしてずっと眠っていたから感覚が鈍った? まああの時は色々大変だったし、これを見たら思い出す?」
ディートハルト様はぼふん、と音を立ててベッドの上にモフモフな子アザラシの姿になって私の前に座った。
「キュウ」
「え、あ。ああ! 妖精さん!?」
「キュウウ!」
両手で抱っこを求めてくるので、抱きかかえた。相変わらずモフモフで良い匂いがするし温かい。きゅ、と子アザラシが頬にキスをするので、思わず頬ずりしてしまう。しかしここで中身がディートハルト様だと言うことに気付き、頬が赤くなった。
(ちょっとまって、ということは今まで私ってディートハルト様にキスとかハグとかしてたってこと!!?)
「ハニー」
いつの間にか私の腕の中に居たディートハルト様は人の姿に戻っていて、私を押し倒していた。赤いドレスから貴族服に替わっていて、銀髪の長い髪が私の頬にかかる。
「どう? 僕のことを思い出したかい?」




