1-1 出会い①
「やっと捕まえた♪」
どうして、こうなったのか。
今私は、悪役令嬢に扮した──つまり女装姿の隠しキャラに、監禁+押し倒されている。ほ、本当にどうして、こうなったのだろう!
「ディートハルト様。私は単なるモブですから、こういうシチュエーションは、ぜひヒロインのとしていただきたく!」
「懐かない猫みたいで可愛いな。どうすれば従順になるんだろう?」
(ぎゃあ。瞳孔が開いている! こ、この人、目がマジだ! 怖い、怖い! 逃げなきゃ、逃げ──)
「ハニー、結婚を前提に付き合ってほしい」
「ヒュッ」
見慣れない天蓋、窓のない白い部屋。手入れも行き届いているし、調度品なども白で統一して清潔感がある。大貴族が使うホテルの一室と言っても過言ではない。
目覚めた瞬間はちょっと変わっているけれど、素敵なお部屋。なんて呑気に思っていた。でもジャラジャラと足枷の音が部屋に響き渡り、ひんやりとした足枷の感触に現実だと嫌でも分かる。
(夢であって欲しかった!!)
何より女装した隠しキャラがいるイベントなんて、聞いてない。しかも押し倒されている状況とかなりヤバい。
眼前にいるのは水色の艶やかな髪に、金色の瞳。目鼻立ちが整った美しい男の人だ。もっとも真っ赤なドレスが破れて逞しい肩が露出している。
(どこからツッコめば??)
私が助けようと思って動いたのは悪役令嬢のエリザベス様であって、彼ではない。
パーティー会場で見た姿は間違いなく、エリザベス様だったはずだ。でも今、部屋に居るのはエリザベス様のドレスを着こなした別人。
その正体は隠れキャラかつラスボスの一人、腹黒で監禁粘着質の一途溺愛ヤンデレ。それが彼、ディートハルト・ヘンネフェルト様だ。
「本気なのになぁ」
「い、いえ……その、ディートハルト様と私って釣り合ってないと言いますか……」
「僕は君じゃないと嫌なんだ。あ。これを見せれば、僕が本気だってわかるはず!」
「え、ひゃあ!?」
本当にどうして、こんなことになってしまったのだろう。私はヒロインでも悪役令嬢でもない、悪役令嬢推しのモブだったのに、どこでフラグを立てたのか。
(──と言うか本編開始前に、監禁バッドエンドコース確定とか嫌すぎる!!)
***
前世の私は鈴鳴彩矢という名前で、《迷い子とワンダーランドの果て》の悪役令嬢役のエリザベス様が好きだった。
最推しといってもいい。
私の親友が隠れキャラの一人カーティス推しで「これ面白いよ」と勧められたのがキッカケだった。このゲームは攻略キャラ以外にも好感度があり、それによって主軸の攻略キャラのエンドが多岐に渡る。
友人のままのフレンドエンドや、友達以上恋人未満のノーマルエンドなどなど。
私の最推しエリザベス・ウィンローズ公爵令嬢は《13番目の魔女》の呪いにより体を乗っ取られて、国を崩壊させようとするラスボスの一人だ。
乙女ゲーム《迷い子とワンダーランドの果て》の全ルートの終盤でエリザベス様は《13番目の魔女》から受けた《黒薔薇の呪い》に蝕まれ、黒薔薇が国中を覆い尽くそうと暴走。ここでヒロインと攻略キャラたちのレベルが低いと、ゲームオーバーになる。
最推しは言い方が少しキツいけれど、相手のことを思っての諫言でお節介が空回っているツンデレキャラで、実は可愛いものや甘い物が大好きな可愛らしい女の子。
本編直後、魔物討伐イベントで男爵令嬢のヒロインが聖女として認められた後に、エリザベス様から『上流貴族の立ち振る舞い、礼節をマスターしよう』というプチミッションがある。そこで指南役のエリザベス様に陥落するプレイヤーは多いと思う。
(こんな上司が欲しい!! なんだかんだ言って世話焼きだし、指示は的確だし!)
キャラランキングでも、上位10位に入るほど人気なのはラストの散り際のシーンが印象深いのもある。
エリザベス様の好感度MAXかつ王太子ルートではラスボス(寄生していた黒薔薇)を倒してエリザベス様が生還。ハッピーエンドになるかと思ったら、過激派がやらかして一族もろとも惨殺される。どっちにしてもエリザベス様の生還ルートはないのだ。
「推しの生還ルートがほしい」
「ねー、一つぐらい救いがほしいよね」
仕事終わりに親友の北条令佳に愚痴りつつ、いつもの居酒屋に向かう。いつもの週末。
横断歩道の信号は青だった。
視界に勢いを落とさないで突っ込んでくるトラックが入ったのが飛び込む。半歩先を歩いていた親友に向けて、咄嗟に手を伸ばして助けようとした。
その手は届かなかった──と思う。
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