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第二十二話 裏 世界の寿命 後


 朝食の用意をしているところに昨夜と同じリズムで三度、ドアが叩かれる。

 ドアを開けると、約束通り立っていたのはメノウだった。

 

 昨日のいかにも隠密といった出立ちとうって変わって町娘のような格好をしているが、それにしてはどうにも目つきが鋭い。

 

 「朝早くからすまない。主命によりお迎えに上がった」

「せっかく変装しててもそんな畏まってたら意味ないだろ……。朝飯、メノウも食って行くか?」

「いいのか!? いや……しかし」

 メノウは一瞬だけ目を輝かせたが、すぐに食欲と主命の狭間で苦しみだした。

「悪いけど、メノウが食べなくても私たちは朝食を食べないとテコでも動かない。だからむしろ遠慮せず一緒に食ってくれた方が気を遣わないで済む」

 コハクが淡々と言い、ちょいちょいと手招きする。

「む……そう言われると頂かなければかえって申し訳ない気がしてきた……。よし、ありがたく頂くとしよう!」

 そう言うと、ウキウキとした足取りでテーブルにつく。

 景真はコハクと目を見合わせて笑い、朝食をテーブルに並べていく。


 「ところで、昨日あの部屋にいた連中は”第三の翼”だっけか? の幹部が何かなのか? 誰も喋らなかったが」

 夢中でパンとスープを口へと詰め込むメノウに聞く。

「ん……ぐ……」

 メノウは開いた右手を突き出し、顔を背けながら頬張ったものを水で流し込むと改まって口を開いた。

 

 「彼らは……というか私を含めて十二名、女神の使徒に対抗すべく集められた”十二剣”だ」

「十二? 確か、メノウを含めても八人しかいなかったような」

 記憶の中の人影を指折り数える。

「四名は別任務に当たっていて、あの場にはいなかった」

「強いのか?」

 アーサー王の円卓の騎士を思い浮かべ、少しワクワクして訊ねる。

「私は若輩の末席に過ぎないが他は皆、達人と呼んで差し支えない。しかし……それでも使徒に及ばない。それが実情だ」


 女神の使徒。

 幾度か聞いたその言葉。

 それだと思える相手にはまだ会っていないが、その存在に心当たりがあった。


 春華の残した音声データ。

 そこに現れた、リブラと呼ばれた男。

 声だけだったが、人の枠を超えた存在だと本能が感じていた。


 「使徒ってのはなんなんだ? 人間なのか?」

「女神の祝福を受け創り出された十二人の存在だ。彼らは女神の忠実な(しもべ)にして狂信者。知能、身体能力、アニマ適正。全てにおいて完成された存在だ。奴らが人間かと聞かれると、そうだな……オービスの言葉で言うと、”天使”が近いかもしれない」

「そいつは……手強そうだ」

 

 遥か未来の超技術によって生み出された強化人間。

 しかも、アニマを操ることもできる。

 正面切ってやり合える相手だとは考えづらかったが、景真たちの勝利条件は使徒の殲滅ではない。

 いかに戦闘を回避し目的だけを達成するかに注力すべきだろう。

 

 「……景真殿はこのネビュラに来て奇妙に思わなかったか?」

「……うん? 何をだ?」

 メノウが眉間の前に人差し指を立てて言う。

「この惑星(ほし)では文明が停滞している。何千年も。まるで、時が凍りついたように」

 

 この惑星に人類が辿り着いてからおよそ一万年。

 そして、コハクが生まれてから四百年。

 景真はその変遷を見てきたわけではない。

 だが、これだけの文明が栄えながら未だ中世のレベルに留まっているのは、確かに不自然に思えた。

 

 「女神が使徒に、文明を次の段階に進める特異点(シンギュラリティ)となる人物や発明を消させているからだ」

 一人考え込む景真が答えを出すのを待たず、メノウが結論をぶつける。

「百年ほど前、蒸気機関を完成させようとした男がいた。護衛のため使徒と交戦した当時の十二剣の内三名が戦死し、彼を守ることも叶わなかったという」

 その言葉には悔しさが滲む。

 きっとあの組織は、幾度も使徒に苦渋を舐めさせられてきたのだろう。

 

 「……なんでそんなことを? いや――」

 人類を保護し、生存させることを目的に生み出された女神。

 その意思に従って動く使徒。

 

 その意思が生まれた原因。

 

 「人類を滅亡から遠ざけるため、か」

 景真の言葉にメノウが静かに首肯する。

 

 ならば手段はどうあれ、その動機を全否定できるだろうか。

 進歩の果てに避け得ぬ破局が待つならば、それを止めてしまえばいい。

 それは一つの正解のようにも思えた。


 もしも今女神(オルフェナ)を破壊し、堰き止められていた時が流れ出したなら、

 

 ――この世界(ネビュラ)の寿命はどれほど残っているのだろうか。

 

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