航海日誌 Ⅰ
2144年10月20日
いよいよ明日、出航だ。
航海日誌、と言ったがフネを出すのは海じゃない。宇宙だ。
なんでもネビュラとかいう星に行くミラ……なんとかってフネの艦長に任命された訳だ。あー、ラテン語は分からん。
太陽系から出たこともない引きこもりの地球人が、いきなり千年の長旅で600光年の彼方を目指すそうだ。
それも延べ25万人の大所帯で、だ。
連中、一世紀も前のハリウッド映画の見過ぎだろう。
で、その船団の三番艦艦長として長年空母の艦長をやってた俺に白羽の矢が立ったってわけだ。
——いや、正気か?
俺はお偉いさん方に思わずそう尋ねたね。
考えてもみろ。
俺は生粋の船乗りだ。宇宙飛行士じゃねぇ。
宇宙の事も、ましてや宇宙船の事なんざ知るはずもねぇからな。
奴らが言うには、乗員を20いくつかのグループに分けてそれぞれが交代で年にニ週間ほど活動してそれ以外の期間は氷漬けにされるそうだ。
人をマグロか何かだと勘違いしてるらしい。
艦長と言っても、実務はそのグループごとにAIが指示してくれるから肩書きさえあれば誰でもいいなどと抜かしやがる。ほんとムカつくぜ。
だからよ、ついムキになって思わず「荒っぽい海兵どもをまとめてきた小官の手腕をお見せしますよ」って答えちまったんだ。
――言ってすぐ後悔したけど後の祭りだ。
家族を連れて行く事もできると言われたが、それは断った。
この旅が上手くいこうがいくまいが、もうこの地球には戻ってこられねぇ。
そんなもんにお前らを付き合わせられん。
——だから、これは別れのメッセージだ。
勝手なのは百も承知だ。
許してくれとも言わん。
人類のために、とか格好のいい事も言いたくねぇ。
ガラでもねぇってのは、俺が一番分かってる。
ただ、これだけ言わせてくれ。
——愛してる。
お前たちの、そして地球の未来に、幸多からん事を祈る。




