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第二十一話 裏 点と点 中


 未来のネビュラから過去の地球へ。

 

 空穴は空間だけでなく、時間すらも跳躍していたということか。


 『西暦12256年、第二次ワームホール実証実験「ウロボロス」。この際に発生した時空間の綻びが現在も続く空穴発生の原因です。その四年後、人為的に空穴を広げて人や物の転送を可能とした装置、「ワームホールエクスパンダー」が完成します』

 

 今までの情報を統合すると、ネビュラと地球の時間はある一点から等速で並走しているはずだ。

「その実験によって、最初に地球へ空穴が繋がったのはいつだ? 地球の時間で」

『西暦1163年です。ただし、ORPHENAの勢力による地球への干渉が本格化したのは1990年からのことです』

 必然、それは星雲救世会の創設時期と重なっている。

「……オルフェナはその”地球人類再生プロトコル”とやらを完遂するために何を目論んでる?」

 人類が戦争によって自滅する運命を回避するために、その保護を命題とされた人工知能が取る選択肢。

 散々使い古されたネタだが、答えは一つしかないように思えた。

 

 『ORPHENAを過去の地球へ転送し、人類をその管理下に置くことです』

 ミラビリスの回答は景真の予想と一致していた。


 コハクが景真の手を握る。

 その手は冷たく、小さく震えていた。

 今まさに、ずっと信じてきた神がその正体を白日の元に晒され、さらにこの世界を捨てて異界へ去ろうとしていると知ったのだ。


 景真はその手を強く握り返す。

 最後まで、自分だけはその隣に立ち続ける。その意志を込めて。

 たとえ、世界が変容してしまっても。

 

 しかし、オルフェナの地球への転移にも解決すべき問題がある。

「そんなことをすればタイムパラドックスが起こるはずだ。オルフェナの誕生そのものすら否定されるんじゃないのか?」

『その問題は存在しません。「ウロボロス」によりネビュラと地球が接続された瞬間、世界線が二つに分岐したからです』

 

 ――世界線の分岐。

 つまり、このネビュラと景真のいた地球を隔てていたのは距離と時間だけではなく、そもそも並行世界(パラレルワールド)だったということだろうか。

 自らの尾を噛んだつもりが、実際には別の蛇の尾だったとは皮肉な話だ。


 一方でこれは景真にとっては、小さな希望の灯でもあった。

「つまり、俺のいた地球……その世界線はは必ずしも近い未来に滅ぶ運命とは限らない、と」

『このネビュラへと続く世界線とは違う歴史を進むことになります。もっとも、大きな変化が無い限り滅びは避けられない可能性が高いでしょう』


 ミラビリスは天気予報でもするような調子で人類の滅亡を予告する。

「その大きな変化というのが、オルフェナの転移……か」

 だが、それでは人類が生き延びたところでAIに管理、支配された古典的ディストピアだ。

 その意味では、このネビュラがモデルケースになるのだろうか。

 思えば、この世界においてオルフェナは神として信奉されている以上に、どう世界に影響を及ぼしているのかを景真は知らない。


 「だったらなんでオルフェナはさっさと地球へ行かないんだ? そのための装置はとっくに完成してるんだろ?」

『詳細は省きますが、ORPHENAはこの宇宙において()()()()()()と化したため通常の空穴を通過することができないと結論されています。そこでそれを可能とする極大空穴を発生させる必要があります』

 

 極大空穴。

 アゲントを襲った()()のようなものか、あるいはもっと大きいのだろうか。


 『そのためにORPHENAとその使徒は地球に存在する”鍵”を探しています。この”鍵”はネビュラに存在する全てのA.N.I.M.A.(アニマ)を完全掌握することを可能にします。これにより極大空穴を3.75秒間、固定することができると試算されています』

「なんでそんなものが地球に……?」

『元来”鍵”はORPHENAの記憶封印と遺伝子改変を逃れた入植者の末裔が住む”望郷の里”という集落で代々受け継がれていました。しかし今から四十年前、集落は使徒アリエスの襲撃を受け壊滅し、”鍵”を保持していた少女はその逃避の最中空穴に飲まれ地球へと転移しました』

「その人が、地球で生きているのか?」

『現在、”鍵”は彼女の子へと渡っています』

 ワタリビトがネビュラで子を成せるというならその逆もまた然り、ということか。

 

 納得しつつ聞いていた景真は、続くミラビリスの言葉に衝撃を受ける。

 そこで出た名前が、思いもよらないものだったからだ。


 『”鍵”の保持者の名は一ノ瀬遼。――あなたもよくご存知の人物です』


 二つの惑星(ほし)、二つの世界を一つの因果が貫いていく。



 

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