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第二十話 裏 過去、あるいは未来からの招待 後


 「ジュスト? あんたが明石全登(あかしてるずみ)だって言うのか?」

 

 思わず声を上げた声が地下室に響き渡った。

 黒マントたちの視線がより強く景真に注がれる。

「コハク、あいつは本当に明石全登なのか?」

 その問いに、コハクは男を凝視してから慎重に言葉を選んで答える。

「……わからない。でも、記憶の中のジュストと、同じ」

 

 そんなはずがない。

 全登が大坂夏の陣の最中姿を消し、ネビュラに飛ばされたのは四百年も前の話だ。これは以前聞いたコハクの話とも時系列が一致している。

 だから、地球(オービス)とネビュラで時間の流れにズレがあるはずがない。

 ならば地球人である全登が四百年以上の間、生き永らえていたことになってしまう。


 「景真、お前が抱いた疑問は至極真っ当だ」

 男が白いマントを靡かせ、三歩前に歩み出る。

 まだ距離はあるにも関わらずその圧に押されるように景真は半歩、後退りした。

「左手の()()は、お前にどこまで話した?」

 思わず自らの左手を見る。

 巨大空穴の出現を告げたあの時から沈黙を続けている、その左手を。

「なぜ……ミラのことを?」

「ミラ、と名乗ったか。知っているさ。お前よりもよく、な」

 そう答え、再び椅子に腰掛けた。

 肘掛けに腕を置き、頬杖をつく。


 「ミラビリス。それが、そいつの真の名だ」

「ミラビリス……」

 ラテン語で奇跡を意味する単語だ。

 ミラは自らを女神の第三の翼、神話における奇跡を司る存在だと名乗った。その名はそのままの意味だったということか。

 

 だが、ここで新たな疑問が生じる。

 なぜその名が、地球の言語に由来しているのか。

 

 「それで、なぜあんたが明石全登なんだ? だったら、未だにこうして生きているのはおかしいだろ」

 これはこの男の正体を見極めるためには避けられない問いだ。

 だが男は一分の動揺も見せず、悠然と口を開く。

「それは俺が、ミラビリスと契約を交わしたからだ」

「契約?」

女神(オルフェナ)を滅ぼす。その尖兵となる契約だ。俺はその契約に生かされている。いや……縛られていると言うべきか」


 また()()だ。

 この男もまた、自身と同じようにろくに理由も告げられず女神殺しを命じられたのだろうか。

 そして四百年という人の身に余る……いや、精神すら耐えられるかわからぬ長い時を生かされてきたというのか。

 ――景真にもまた、同じ運命を課そうとしているのだろうか。

 

 「なんでミラは……ミラビリスは女神を殺そうとしてるんだ? この世界は、まあ……厄介な連中もいるけど大体平和じゃないか。問題は”異端者”どもなんじゃないのか?」

「その”異端者”こそが、女神の手足だ。女神を滅ぼさねばならない理由は連中が危険だからなどではない」

 男の目が鈍く光る。

「それを説明するには、一万一千年の過去……あるいは、二十二年後の未来の話から始めねばならん」

 パチン、と男の指が鳴る。

 すると低く地鳴りのような音がし、揺らぐことなく部屋を照らしていたランプが消えた。

 代わりに部屋そのもの――空間が光を孕んだ。

 この光には覚えがある。

 富士山麓の教団施設地下で見た光だ。


 『ここからは私、旧、四番艦及び環境管理AIミラビリスがご案内いたします』

 その声はミラのそれとはまた違い、落ち着いた、柔らかな声だった。

 しかし、柔らかでありながら音源がどこにあるかはっきりせず、空気をそのまま振動させているようなその声は、脳を直接揺らされているような気持ち悪さを景真たちに与えている。


 『全ての始まりは11371年前。西暦2047年のことです』


 今、心の準備も成せぬまま真理の扉が開こうとしていた。

 

 

 

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