音声データ2 20250805_18370.m4a
再生開始
走行する車内の音。
「この女、六号施設なんかに連れてってどうするんです? 媒介にするには勿体ない上玉ですよ」
軽薄そうな男の声。
「……お前が知る必要はない」
遠く轟く雷鳴のような声。
「毎度毎度こんな山奥まで来させられる身にもなって欲しいですよ。ちょっとくらい役得ってもんがあってもバチは当たらんでしょう。ルカスさんはたまにだからいいかもしれませんがね」
「その名で呼ぶなと言ったはずだ。……口を噤んで運転に集中しろ」
「はいはい……相変わらずお堅いこって」
沈黙。
――エンジン音が止まり、スライドドアが開く音。
「降りろ。もう起きてるだろう」
「……バレていたか」
「来い」
「鍵、開けときましたよ」
「お前は車で待て」
「はいよ。でも、いいんですか? 目隠しもしないで」
「構わん」
ギイ、と扉が開く音。
二人の足音が響く。
「ここは、教団の施設かい? 随分辺鄙な所みたいだ。しかも、今は使われていないね」
無言。
「私をどうするつもりだい? 単に消したいならこんな回りくどいことはしないはずだ」
無言。
ドアが開く音。
「礼拝室に……女神像? 不思議なデザインだね」
ガチャリ。
ギィイと、重たい金属音。
「降りろ」
「降りろったって、手を縛られてたら梯子なんか降りられないよ」
ヒュッと風を切る音にブツッと何かが切れる音。
「……どうも」
カン、カンと梯子を降る音。
その音が止まり、その直後にドスッと重たいものが落ちたような音が続く。
「……この高さを飛び降りたのかい? いやはや、あなたには歯向かわない方が良さそうだ」
二人分の足音が共鳴する。
「ルカス」
「! ……聞いていたのか」
「やっと喋ってくれたね。その燃えるような赤髪にその風貌だ。純日本人にはとても見えない。なぜ名前を隠す必要が?」
「……とうに捨てた名だ」
「なら、今の名は?」
「その好奇心こそがこの事態を招いたと、まだ分からないのか」
「私が今ここにいるのは好奇心からじゃないさ。家族を取り戻すためだ」
「……その望みが叶わんことは、その話をお前にした男が最もよく理解していると思っていたが。どうやら買い被りだったようだ」
足音が止まる。
「白い……門?」
『生体スキャン開始』
耳鳴りのような音。
『スキャン完了。門を開きます』
「お、来ましたね。彼女が例の?」
神経質そうな男の声。
「そうだ。”鍵”は確認できたか?」
「解析結果は……いえ、彼女の中にはありません」
「ならば……弟の方か。”回廊”を開け。この女とネビュラへ渡る」
「弟……? 遼に手を出したら……!」
「手を出したら? お前に何ができる。何もできはしまい! お前の父親は愚かにも我が子を虎穴への地図を描き、子は自ら穴へ落ちた! この結末はお前たち親子が招いたものだ! 何も知らぬ哀れな弟を巻き添えに!」
男が感情を露わにする。
「……あなたは一体、何者なんだ。父の話に出てきた赤髪の男。あれもあなたなのだろう? なぜ父に私たちを隠すよう伝えた?」
沈黙。
「……”殉教者”をここへ」
「汝の血と魂は女神の崇高なる意志のため捧げられる。最期に言い残すことはあるか?」
「……いえ。我が魂は女神の御許へ」
乾いた金属音。
「……!? 何を!? よせ!!」
春華が絶叫する。
ヒュッと風切音がし、一拍置いてごろんと重たい何かが転がる音。
『禁断解除確認。対象者の転送を実行』
「こんな……こんなことを……!」
声が遠ざかる。
『転送を完了。ようこそ――』
――静寂。
再生終了




