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序章 断 女神の門 後


 黒々と口を開けた横穴。

 

 高さは景真の頭よりやや高く、幅は両腕を広げた程度。地下特有の冷気が皮膚を刺し、黴の臭いが鼻をつく。

 頑強な石造りのそれは、古の墳墓を想起させた。


 カツン……


 一歩踏み出すと足音が響き、闇の中へ溶けていく。

 この暗闇の先に潜む得体の知れぬ化け物は、今まさに景真の存在に気づいた――そんな想像に背中の産毛を逆立てるが、歩みは止めない。

 

 真っ直ぐに伸びた横穴を三分ほど歩いただろうか。徐々に道が広くなり、天井も高くなっていく。

 更に進んだ所で突然、壁面の材質が変わった。

 白く、金属とも陶器とも思えるそれは非常に滑らかな質感で、継ぎ目すら無く通路を形作っている。


 ――突然、景真は白い光に包まれた。


 反射的に目を閉じたが暗闇に慣れきった目が激しく眩み、前後不覚に陥る。

 瞼越しにもその明るさがはっきりと伝わるが、耳を澄ませど周囲に何者かがいる気配はない。

 明るさに慣れてきた目を恐る恐る開いていく。

 照明は見当たらず、空間そのものが光を発しているかのようだった。

 

 目の前には巨大な()があった。

 いや、扉と呼んでいいのかは分からない。

 壁面とはまた違う材質で造られたそれは景真のちょうど胸の高さに掌ほどの青く光る球体を抱き、そこから継ぎ目のような亀裂が斜めに四本走っている。

 

 『対象者の資格情報を確認』

 

 扉らしき物を観察していると、突然声が響いた。

 それは男性にも女性にも聞こえ、流暢ながらどこか機械音声のような冷たさで、あるいは聖句のように響いた。


 「何だ……?」

 突然の事態には思わずたじろぎ、後ずさる。

 部屋の四方から赤い光線が景真に向けて放たれて体の表面を撫でる。

 それは見えない手で身体の中を(まさぐ)られているような感覚だった。


『適性者と確認。”(ゲート)”を開錠します』

 再度あの声が淀んだ空気を揺らす。

 すると目の前の”門”が継ぎ目から四つに割れ、それぞれが回転しながら異様に滑らかな動きで音もなく壁に収納されていった。


 眼前に広がったのはちょっとした体育館ほどの広場だった。

 

 その中心に描かれた図形に景真の目は釘付けになった。

 

 乾いた血のような赤黒い線で描かれた正円の中を複雑な図形や見たことのない文字が埋め尽くしている。

 それは黒魔術の魔法陣のようであり、何らかのプログラムコードのようでもあった。

 微かに漂う鉄臭さ。

 ……これは血の匂いだろうか?


 教団に関する噂が頭をよぎる。

 曰く、『行方不明者は怪しげな儀式の生贄になった』

 まさか春華も――そんな想像を頭を振って追い出す。


 図形の中に足を踏み入れたその時、左腕の包帯が解けて落ちた。

 傷口から流れた血が腕を、指先を伝い足元に落ちた瞬間――


 図形が黒い光を放った。

 『ロックの解除を確認。対象者の転送を実行します。座標を()()内第一ゲートに固定』


 ずぶり――


 足元が沈む感覚。

『システムインターセプト成功。生体端末インプラント開始。座標をランダムに変更』

 それは明らかに先ほどまでとは違う声だった。

 

 手のひらに灼けるような痛みが、線を描くように走る。

 その痛みと沈みこむ感覚にパニックになり全身でもがくが気付けばもう腰まで地面に、というより魔法陣の中に埋まっていた。

 必死に地面に手を伸ばし這い上がろうとするが、その手もまた沈み込んでしまう。


 俺をどこへ連れて行くつもりだ!!


 ――違う、それでいい。

 先輩を見つけるためならどこまでも、どんな所でも行ってやる。

 他ならぬ、俺自身の意思で。

 俺を連れて行け。

 

 先輩が連れ去られた、その場所へ!!


 やがて、頭の先まで沈んだ景真は遠ざかる意識の中で祝福のようなその声を聞いた。

 『転送を完了。ようこそ、ネビュラへ』


 ――広間に再び、静寂が戻る。

 


 

 


 

 

 

 

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― 新着の感想 ―
ふぅん。序章、終わりか。まあ、次章でどうなるか、見せてもらうとしようか。
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