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エンディング かえるべきところ 表


 「……姉さん」

 門の中から現れた、見慣れた姿が霞む。

 心の奥底から湧く安堵感に、遼は溢れるものを堪えて眼鏡を押さえた。

 

 「遼。ごめん、心配かけたね」

「心配かけた? そんなレベルじゃないだろ、このじゃじゃ馬!」

 そこまで言って、隣に立つ燈の視線に気づき小さく咳払いをする。

「……とにかく、無事でよかったよ。明石さんに感謝しないと。……明石さんは?」

「……なにやら、まだ向こうでやることがあるらしい。ふふ、告白したんだけど、返事は保留されたよ」

 春華はそう言って、寂しげに笑う。

 驚きに遼の眼鏡がずり落ちる。

「こ……告白? 姉さんが?」

 これまで無数のアプローチを全て無碍に受け流してきた姉が、自ら想いを伝えた……というよりは異性に対してその手の感情を抱くという事実に驚愕する。

「遼さんのお姉さんですよね? すっごい美人さん! こんな人に告白されて即答しない人なんているんですか!?」

 目をキラキラと輝かせて燈が春華に迫る。

「……ん? 君は……まさか遼の……? いやいや、若すぎるだろう。高校生くらいかい?」

「中3です!」

「なっ……。遼、今すぐ出頭したまえ。刑事ともあろうものが、姉としてその不徳を恥じざるを得ないよ」

「何言ってんだよ! 燈さんもちゃんと否定して!」

 慌てて弁明する遼を見て春華と燈が目を合わせて笑う。


 「……母さん、なんだね」

 春華が、静かに微笑んでやり取りを眺めていた女性を向く。

「……春華」

 その胸に春華が飛び込む。

「……思い出したんだ。小さい頃のこと。……母さんのこと。いつの間にかいなくなった母さんと、そのことに触れようとしない苦しそうな父さん。だから……忘れようとしたんだ」

 春華の声が震える。

「ごめんね……ごめんなさい。あなたたちが大きくなるのを、近くで見ていたかったよ。一緒に喜んで、一緒に苦しんで、湊さんと四人で……家族で……生きていたかった」

 

 それは叶うことのなかった願いだ。

 27年という時は残酷に過ぎ去り、もう二度と叶うことはない願いだ。

 

 けれど、

「だけどいつか……必ず帰るって、それだけを想ってきた。春華と遼がそれを望んでくれたから今、私はここにいるよ」

 

「……うん。あの家で待ってるよ。誰よりも、母さんと会うことを望んできた人が」

「うん……私も、早く会いたいよ。あの人に」

 

 「帰ろう。私たちの家に」


 かつて、幼い少女は全てを失って異世界へ堕ちた。

 異世界で少女は愛情を受け、幸せを振り撒き、恋をして、家族を築き――また失った。

 

 されど、彼女の物語はそこで終わることはなかった。

 いや、全てはそこから始まっていた。


 喪われた家族が形を取り戻すそのひと時を、燈は少し寂しげな笑顔で眺めていた。

 

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