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第二十四話 裏 謁見と交渉 中


 四人が着席すると、待っていたかのように配膳台を押した侍女が広間へと入ってきた。


 公爵の背後にはハルラスら四人のエルフが立ち、品定めをするように視線を景真らに注いでいる。


 目の前で赤い果実酒が注がれ景真はそれを手にこの後あるであろう音頭を待つ。

 しかし、ネビュラには乾杯をする習慣はないことを思い出し口をつけるでもなくグラスを置き直した。


 「コハク、君が巨大空穴の発生を予期した。そうだな?」

 運ばれてきた前菜を口へ運んでいると、公爵がコハクに訊ねる。

 ちょうど料理を口に入れたところだったコハクは右手で口を押さえてコクコクと頷いた。

「やはり狐族の未来視というのは素晴らしい力だな。どのように視えるものなのだ?」

 コハクは口の中のものを飲み込んでから答える。

「……あの時は、夢に視ました」

「なるほどな。そして君たちはすぐさまそれをリウィア町長に伝え、避難を促した、と」

 公爵が沈黙する。

 何か引っ掛かる点があっただろうか。

「いやすまない。判断と行動、その速さに感心していたのだ。その若さで……いや、若さゆえか。国の政務に携わって欲しいくらいだ」

 公爵が景真たちの不安を見透かすように言う。

「エルフというのは長生きをするあまり融通が効かん。それが治める国ともなれば尚更だ。やれ伝統だ、やれ規則だと言うばかりで何も前に進まん」

 そう言ってチラリと後ろに立つ四人を見る。

 ハルラスがその視線に背筋を伸ばしたが、他三名は澄まし顔で立っている。

「真に素晴らしいのは未来を視る力などではない。未来を識った上でより良き未来を選び、行動する力だ。君たちにはそれがある」

「お褒めに預かり光栄です。公爵閣下、本日はその国にあって一つ、事を動かしていただきたく参りました」

 オウカが言う。

 公爵を前にしても全く物怖じせぬ、堂々とした口ぶりだった。

「申してみよ」

「では、率直に申し上げます。アゲントに復興のための人員を派遣していただきたい。これはリウィア町長からの要請でもあります」

「……ふむ。そのことか。無論、人員派遣の用意は進めておる。ローイン」

 公爵の呼びかけに後ろに立つエルフの一人が応え、長髪を靡かせて一歩前へ出る。

「すでに千名の人足を手配し、百軒分の資材とともに一週間後、公都を出立する手筈となっています」

「まるで足りませぬ」

 ローインの言葉を半ば遮るようにオウカが声を上げる。

「アゲントで家を失った人々は実に六千人に上ります。百軒? 一軒に六十人も住めるような豪邸を立てるおつもりか?」

 オウカが淡々とした口ぶりで問い詰めると、ローインの顔がみるみる赤くなった。

「……オウカ殿と言ったか。立場を弁えられよ。一介の商人に過ぎぬそなたがそのような事を――」

「立場を弁えるべきは貴公だ、ローイン」

 ローインの言葉を公爵が遮る。

 その声の力に大広間がしんと静まり返る。

「ローイン。アゲントの民が冬までに寝床を得るために派遣する人足は千で足りるか?」

「そ……それは……」

「答えよ」

 有無を言わさぬ言い方だった。

「……足りません」

「五千に増やせ。家は千だ。公都の整備など後回しで構わん。出発も可能な限り早めよ」

「……畏まりました」

「ならばすぐに手続きを進めよ」

 公爵の言葉でローインは一礼し、広間を出て行った。


 「オウカ殿。家臣の無礼を詫びさせて欲しい」

 公爵がオウカに向き直り言う。

「滅相もございません。こちらこそ、大臣殿に対し礼を欠いた振る舞いでした。そして、要望を聞き届けていただき感謝の言葉もありません」

(まつりごと)に携わる者よりも、君たちの方がよほど民の方を向いている。皮肉なものだ」

 公爵は深くため息をつく。


 この人は話が通じる相手だ。

 こちらの要請――聖地への派兵もあっさりと了承してくれるかもしれない。

 そう思い口を開きかけたその時、再び公爵の声が広場を揺るがした。

 

 「……さて、君も私に話があるのではないかね?」

 一瞬、その言葉が誰に向けられたものかわからなかった。

 

 だが、続く言葉で景真はいよいよ退路を絶たれたのだった。


 「――全登(ジュスト)に連なる者よ」


 全ての視線がその一身に注がれる。

 

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