ヘスペリデスとお父さん
ここはヘスペリデスの園。
女神ヘラが植えた『黄金の林檎』の木をヘスペリデス姉妹と百頭怪獣ラードーンが守っている。
人間界と天界との狭間に浮かぶ楽園にして難攻不落の要塞である。
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「死ね死ね死ね死ね」
「リカっち、何やってんの? 案山子なんか殴って。あれ、その案山子、誰かに似てるね。帽子とか、杖とかのデザインが独特っていうか、足に履いてるのはサンダル? サンダルに翼が生えてるのってどこかで見たような」
「クソジジイの使いっぱしり」
「それだ! で、なんであいつの顔した案山子殴ってんの?」
「さっきこいつが来てさあ。クソジジイの使いで林檎取りに来たって言うからさあ。ヘラ様の命令書がなければ通せないって断ったらさあ。『そういえばアトラス様はどちらに? ああ、宇宙基地に赴任中でしたっけ。いつ頃お戻りに? ああ、今世紀も続投でしたっけ。大変ですねえ、我々と違って』とかってあてこすってきやがってさあ」
「何それ嫌味たらたらじゃん! オリンポスじゃ下っ端のくせに許せん!」
「でしょ!」
「「死ね死ね死ね死ね」」
「リカっち、ペリちー、何してるの。二人して案山子なんか殴って」
「聞いてよパラっち! このクソジジイのパシリがさあ、林檎取らせろっていうから断ったら『お宅のお父さん大変ですねえ。でも仕方ないですねえ、うちのボスに逆らったんだから』みたいな捨て台詞言いやがってさあ」
「何ですって、それは許せないわ!」
「でしょでしょ!」
「そもそも盗賊の守り神なんか中に入れるわけないでしょ! 歩き始めてすぐに物を盗んだ泥棒の開祖のくせに!」
「だよねえ」
「「「死ね死ね死ね死ね」」」
「どうしたの3人とも。鬼気迫る顔で案山子なんか殴って」
「聞いてよテミちゃん! このクソジイイの手下がさあ、思いっきりパパを見下した態度で『宇宙基地勤務は大変ですよねえ。ボーナスも出ないし休みもない、暇なし・金なし・帰れる見込みもなしなんですから』とか言ってきやがってさあ」
「なんたる暴言! 許せん! クソジジイの腰ぎんちゃくめ! そもそも『天を支えよ』などという報復人事でわが父を左遷したこと自体が悪だというのに、その上に配下の小物に暴言まで吐かせるとは! おのれクソジジイ!」
「案山子、もう一本立てようか」
「「「いいね」」」
「「「「死ね死ね死ね死ね」」」」
ヘスペリデス姉妹は父親大好きファザコン姉妹。
だが悲しいかな、オリンポスの神々は基本的に不死なので、いくら呪いを込めて案山子を殴っても呪いが実現することはない。
姉妹の父親の左遷も解けず、何十世紀も天を支えっぱなし。
外宇宙からの侵略者たちと戦い続けて娘たちに会いに来る暇もない。
「「「「「「「死ね死ね死ね死ね」」」」」」」
リカっち:アイリカー。ヘスペリデス姉妹の1人。案山子をモデルそっくりに作れる。
ペリちー:ヘスペリエー。ヘスペリデス姉妹の1人。侵入者絶対殺すウーマン。
パラっち:リパラー。ヘスペリデス姉妹の1人。泣けるドラマが好き。
テミちゃん:クリューソテミス。ヘスペリデス姉妹の1人。掟に厳しい。




