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ヘスペリデスの黄金の林檎  作者: ful-fil


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テュポーンVS巨神兄弟

 ここは日本の首都、東京。

 関東地方を縦横無尽に荒らし回ったテュポーンは出発地点に戻っていた。

 かつての都心の面影はどこにもない。

 ただひたすらに平らに均された大地が広がるのみである。


 いい仕事をした。


 静かな満足を覚えるテュポーン。

 ふと、その面を上げた。


 ここよりも酷い汚れの気配を感じる。

 風が泣き、大地が叫んでいる。

 綺麗にしてくれと呼んでいる。


 ……行かねばなるまい。


 テュポーンはおもむろに北西の方向へと移動を開始した。

 次なるお掃除ポイント……北京を目指して。






『テュポーンは現在、東京外環自動車道を吸い込みながら北へと移動しています。我が埼玉県が蹂躙されるのも時間の問題です。さようなら、みなさん、さようなら!』


 テレビ画面ではヘルメットをかぶったリポーターが報道を続けている。


「この人、早く逃げればいいのに」

「危険なのに実況やめないのって、台風の時にわざわざ外でビニール傘差して見せるのと同じで、報道あるあるなんだよね~」


 ヘスペリエーとアステロペーがスナック菓子をつまみながら感想を言い合っている。

 アステロペーはリモコンで別のチャンネルへと切り替えた。


『群馬放送のスタジオからお送りしています。テュポーンは時速およそ60キロで埼玉県内を移動中です。進行方向にお住まいの皆様、命を守る行動を取ってください。今後のテュポーン進路情報にご注意ください』


 進路予想図が画面に映し出される。

 埼玉から群馬、新潟を経て日本海へと抜けていくと予想されているようだ。


「この予想進路、根拠あるのかな」

「天気予報じゃないんだから、当たるわけないと思うわ」


 アイグレーとリパラーにスナック菓子の袋が回される。

 仲良くスナックをつまみながらテレビ観戦だ。


「あんたら野球観戦じゃないんだから。もうちょっと緊張感を持ちなさいよ」

「……って言われてもなー」


 エリスのお小言にもアイグレーは動じない。

 他の姉妹たちもすっかりリラックスしている。


「おじさんたちが負けるわけないし」

「不死身ですもの。安心して見ていられるわ」

「ハラハラする要素があるとしたら、エピメテウスおじさんがドジ踏まないかってことくらいなんだね~」

「それなー」


 アハハと笑い合う姉妹たち。


「甘い、甘すぎる! 仮にもオリンポスの王ゼウスを一度は倒した怪物なのよ!」

「クソジジイを倒したってところが好感度高いんだよなー」

「また倒してくれればいいのにね」

「箱詰めにしてクソジジイにプレゼントするのはどうかしら」

「いいね~」

「……あんたらテュポーンの怖さを全然わかってないわ」


 頭痛を感じ、こめかみを押さえるエリスであった。


 そして数時間後。


「あ、見て。おじさんたち映ったよ」

「本当だ。がんばって~」


 神々と怪物との戦いが始まった。






 ここは新潟県、海の向こうは佐渡ヶ島。

 普段は観光客が絶えない笹川流れの美しい海岸に、今はテュポーンの魔の手が伸びていた。

 美しかった奇岩が見る影もなく平らにされていく。

 そしてまっ平になった海岸からテュポーンが日本海に入ろうとした、その時。

 二つの巨大な影がテュポーンの前に降り立った。

 その雄姿をネットで、地上波で、多くの人々が見た。

 紺碧の海を背景に立つ二人の巨人の姿を。


『銀色の巨人……皆様、ご覧ください! 銀色の巨人が現れました! 二人です、銀色の巨人が二人います!』


 アナウンサーが熱に浮かされたような早口で絶叫する。


『信じられない、これ本物? フェイクじゃなくて。いや、やっぱり嘘でしょ、何かのCM? でも今CM入ってないよね。え、じゃあ本当に本物?』


 解説者が半信半疑で口走る。


『あれってウル……って名前出しちゃダメですね』


 女性コメンテーターが慌てて口を押さえる。

 だが日本全国の視聴者が同じことを思った。

 固有名詞を出してはならないが、銀色の巨人と言えばアレしかない、と。

 宇宙からやってきた怪獣退治の専門家だ、と。


 兄:プロメテウス。身長約56メートル。

 弟:エピメテウス。身長約55メートル。

 二人の兄弟が銀色の鎧を全身にまとい、ティターンの本性を現して新潟の海に立っている。

 二人のティターンは神話の怪物テュポーンと向き合った。




神々なので『二柱のティターン』と表記するのが正しいかもしれませんが、今更神様扱いもなんだかなー、と思い、かといって『二体の』だとロボットみたいに感じられたので、人間的扱いでいいか、と『二人のティターン』にしてみました。

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