テュポーンVS巨神兄弟
ここは日本の首都、東京。
関東地方を縦横無尽に荒らし回ったテュポーンは出発地点に戻っていた。
かつての都心の面影はどこにもない。
ただひたすらに平らに均された大地が広がるのみである。
いい仕事をした。
静かな満足を覚えるテュポーン。
ふと、その面を上げた。
ここよりも酷い汚れの気配を感じる。
風が泣き、大地が叫んでいる。
綺麗にしてくれと呼んでいる。
……行かねばなるまい。
テュポーンはおもむろに北西の方向へと移動を開始した。
次なるお掃除ポイント……北京を目指して。
※
『テュポーンは現在、東京外環自動車道を吸い込みながら北へと移動しています。我が埼玉県が蹂躙されるのも時間の問題です。さようなら、みなさん、さようなら!』
テレビ画面ではヘルメットをかぶったリポーターが報道を続けている。
「この人、早く逃げればいいのに」
「危険なのに実況やめないのって、台風の時にわざわざ外でビニール傘差して見せるのと同じで、報道あるあるなんだよね~」
ヘスペリエーとアステロペーがスナック菓子をつまみながら感想を言い合っている。
アステロペーはリモコンで別のチャンネルへと切り替えた。
『群馬放送のスタジオからお送りしています。テュポーンは時速およそ60キロで埼玉県内を移動中です。進行方向にお住まいの皆様、命を守る行動を取ってください。今後のテュポーン進路情報にご注意ください』
進路予想図が画面に映し出される。
埼玉から群馬、新潟を経て日本海へと抜けていくと予想されているようだ。
「この予想進路、根拠あるのかな」
「天気予報じゃないんだから、当たるわけないと思うわ」
アイグレーとリパラーにスナック菓子の袋が回される。
仲良くスナックをつまみながらテレビ観戦だ。
「あんたら野球観戦じゃないんだから。もうちょっと緊張感を持ちなさいよ」
「……って言われてもなー」
エリスのお小言にもアイグレーは動じない。
他の姉妹たちもすっかりリラックスしている。
「おじさんたちが負けるわけないし」
「不死身ですもの。安心して見ていられるわ」
「ハラハラする要素があるとしたら、エピメテウスおじさんがドジ踏まないかってことくらいなんだね~」
「それなー」
アハハと笑い合う姉妹たち。
「甘い、甘すぎる! 仮にもオリンポスの王ゼウスを一度は倒した怪物なのよ!」
「クソジジイを倒したってところが好感度高いんだよなー」
「また倒してくれればいいのにね」
「箱詰めにしてクソジジイにプレゼントするのはどうかしら」
「いいね~」
「……あんたらテュポーンの怖さを全然わかってないわ」
頭痛を感じ、こめかみを押さえるエリスであった。
そして数時間後。
「あ、見て。おじさんたち映ったよ」
「本当だ。がんばって~」
神々と怪物との戦いが始まった。
※
ここは新潟県、海の向こうは佐渡ヶ島。
普段は観光客が絶えない笹川流れの美しい海岸に、今はテュポーンの魔の手が伸びていた。
美しかった奇岩が見る影もなく平らにされていく。
そしてまっ平になった海岸からテュポーンが日本海に入ろうとした、その時。
二つの巨大な影がテュポーンの前に降り立った。
その雄姿をネットで、地上波で、多くの人々が見た。
紺碧の海を背景に立つ二人の巨人の姿を。
『銀色の巨人……皆様、ご覧ください! 銀色の巨人が現れました! 二人です、銀色の巨人が二人います!』
アナウンサーが熱に浮かされたような早口で絶叫する。
『信じられない、これ本物? フェイクじゃなくて。いや、やっぱり嘘でしょ、何かのCM? でも今CM入ってないよね。え、じゃあ本当に本物?』
解説者が半信半疑で口走る。
『あれってウル……って名前出しちゃダメですね』
女性コメンテーターが慌てて口を押さえる。
だが日本全国の視聴者が同じことを思った。
固有名詞を出してはならないが、銀色の巨人と言えばアレしかない、と。
宇宙からやってきた怪獣退治の専門家だ、と。
兄:プロメテウス。身長約56メートル。
弟:エピメテウス。身長約55メートル。
二人の兄弟が銀色の鎧を全身にまとい、ティターンの本性を現して新潟の海に立っている。
二人のティターンは神話の怪物テュポーンと向き合った。
神々なので『二柱のティターン』と表記するのが正しいかもしれませんが、今更神様扱いもなんだかなー、と思い、かといって『二体の』だとロボットみたいに感じられたので、人間的扱いでいいか、と『二人のティターン』にしてみました。




