私立探偵不破エリカとティターンの賢者
ここはオリンポスの入り口。
不和の女神エリスは日本にいるプロメテウスに電話をかけていた。
呼び出し音が数回、通話が繋がる。
「プロメテウスさん? 私、アイグレーの友人で不破エリカと申します。突然ですが、今ニュースご覧になってますか? ご覧になってないなら、すぐにテレビでもラジオでもネットニュースでもいいからチェックしてください。東京でテュポーンが暴れてるんです」
通話するエリスにアイグレー、ヘスペリエー、リパラー、アステロペーがじわじわと近寄っていく。
通話の内容を聞きたいのだ。
エリカは片手でしっ、しっ、と追い払いながら通話を続ける。
「だからテュポーンですよ。てゅ・ぽー・ん。昔ゼウスとやり合ったでっかい怪物いたでしょ。あれが東京で……ちょっと、何が特殊詐欺電話よ。詐欺ならもっとマシな作り話するわよ。マジで神話の時代の化け物が地上に出てきてんのよ。とやかく言ってないで確認しろっての。……はあ~?」
エリスの声が高くなり、姉妹四人がプロメテウスの声を聞き取ろうと耳をそばだてて近寄ってくる。
エリスはそれを回避して距離をとる。
「何それ。マジ? はあ? ……呆れた。ちょっとあんた、そいつらの居場所は? 連絡先は? ……ああ、そう。じゃあ責任もって捕まえときなさいよ。今からそっちに行くから。私が着くまで逃がすんじゃないわよ。え? 私の名前? さっきも名乗ったけどね、私立探偵不破エリカ、別名、不和の女神エリスっていうのよ」
ブチ、と通話を切るエリス。
その目が爛爛と燃えている。
「……ったく、ウスラトンチキが。あれで『賢い』って言うんだからティターンの程度が知れるわ」
「エリリン、叔父貴と何話してたんだよ」
「私も聞きたかった」
「スピーカーにしてくれたらよかったのに」
「気になるんだよね~」
興味津々、口々に言うヘスペリデス姉妹。
「そんなに気になるんなら教えてあげるわ」
エリスは意地悪そうに口元だけで笑みを作った。
「あんたらの叔父さん、心当たりがあるそうよ。テュポーンの封印を解いた犯人にも、それを日本の東京で出現させた方法にもね!」
「「「「え」」」」
一瞬、凍り付いたように動きを止める四人。
「……それって」
信じられない、といった表情のアイグレー。
「まさか叔父様が」
口元に手を当てるリパラー。
「どういうこと?」
小首をかしげるヘスペリエー。
「身内の犯行である可能性が浮上してきたんだね~」
ぼーっと空を見つめるアステロペー。
「ふっ、安心しなさい。プロメテウスは犯人じゃないわ」
余裕の笑みを浮かべるエリス。
腰に手を当て、高らかに言う。
あたかも謎をすべて解いた名探偵であるかのように。
「重要参考人ではあるし、身内の犯行っちゃ身内の犯行だけどね! 彼が容疑者を呼び出して引き留めておいてくれるはずだから、今から行って締め上げるわよ。オフィスと機材、弁償させてやるんだから!」
「なんだかよくわかんねーけど、行くならみんなで行こうぜ!」
「ん。わかった。一緒に行ってエリスの護衛する」
「あ~、なんだかドラマティックな展開だわ。誰が真犯人なのかしら」
「パラっち、これは推理ドラマじゃないんだよね~」
5人の女たちは賑やかに騒ぎながら、地上へ続くゲートに飛び込んでいく。
※
その頃、地上では。
巨大怪物テュポーンが、半径100mの範囲で触手を回転させながら、ロボット掃除機のように山手線の内側を更地へと変えていた。




