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ヘスペリデスの黄金の林檎  作者: ful-fil


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始動! 最大の怪物

 オリンポスの入り口で、不和の女神エリスが小躍りするヘスペリデス姉妹にイラっとしていた、ちょうどその頃……。





 とある山奥のポツンと一軒家では。

 プロメテウスがペットのオウムに後頭部をついばまれながら新聞を読んでいた。

 ふと、何かが聞こえた気がして顔を上げる。


「ドクター・ピーク、今遠くで地響きがしなかったかい?」

「ジヒビキ、ヒビキ、ヒビワレ、ワレワレ~」

「地震かな。被害がないといいけど。この国は地震が多いから」


 プロメテウスはスマホ画面を開いて地震速報を確認した。





 ヘスペリデスの園では。

 捕虜イカロスと『尋問という名の雑談』をしていたクリューソテミスとアイリカーが、パッと同じ方向に顔を向けた。

 イカロスはキョトンとしている。


「どうしたんですか?」

「異様な気配を感じたのだ」

「地上に通じるゲートの方からだね」


 地上で何か異変が起きたのだろうか。

 表情を曇らせた三人だったが。


「まあ、だからといって我々には関係ないが」

「そうだね。地上のことはどうでもいいよ。それよりラビュリントスの話だよ」

「そうですね。ラビュリントスは極めて治安の悪い犯罪と悪徳の街です。表向きは観光都市で、カジノや劇場などで賑わっていますが、一歩路地裏に入れば強盗や殺人が横行しています。麻薬も当たり前のように取引され、雄牛を象った入れ墨をしたギャングが……」


 すぐに関心を失くして雑談に戻るのだった。





 ヘスペリデスの園の門前では。


「!」

「?」


 バドミントンのラケットを手にしたヒュギエイアと、同じくラケットを手にしたアキレウスが、そろって同じ方向に顔を向けた。


「今、変な感じがした」

「ああ、俺も感じた。あっちに何かあるのか?」

「地上に通じるゲートがある」

「地上で何かまずいことが起きてるんじゃないのか?」

「どうだろう。狙われているのは地上ではないはずなんだが」

「どういうことだ?」

「詳しくは話せない。機密なんだ」

「だったら言わなくていい。けどなんだか嫌な感じがするな。不吉な予感ってのか? 戦争が起きる前みたいな」

「不吉な……そういえば、最近カサンドラが来たことがあった。ろくに話は聞けなかったが」

「あの甲高い声のオバチャンか。俺もあの声は苦手だなあ」

「わかる。あれは無理だ。親切心から予言をしてくれてるのだろうが、あの声を聴くと頭痛がしてきて」

「口で言わずに字で書いてくれりゃいいのにな」

「まったくだ。だが本人の前では言うなよ。声が耳障りだなどと言ったら傷つくだろう」

「俺だってそこまで無神経じゃねえよ。話を戻すけど、カサンドラが来たってことは何か不吉な予言を伝えに来たってことだよな」

「おそらくな。あの時ちゃんと聞いておけばよかったんだが」

「聞けなかったものは仕方がないだろ。まあ何が起きてるにしてもだ、災いが降りかかってくるなら払いのけるだけだ」

「そうだな。いざという時に役に立つのは己の力だ」

「その通り! 頼れるのは瞬発力、持久力、運動センスだ!」

「ならば勝負の続きだな!」


 嬉々としてバドミントンの続きを始める脳筋二人であった。





 オリンポスの入り口では。

 『ヘラ様最高~』と歌って踊るアイグレー、ヘスペリエー、リパラー、アステロペーをエリスは白い目で見ていた。

 そのポケットで着信音が鳴った。

 通話に出るエリス。


「エーコちゃん? どうしたの? え、何、ちょっと電波の具合が……え、何言ってんの? 嘘でしょ、まさか本当に?」


 エリスは呆然とした。

 スマホを持つ手がだらんと下がる。

 そのスマホから助手のエーコの声が聞こえる。


『ですから先生、本当に本当なんですってば。本当にうちの雑居ビルが丸ごと消えちゃったんです。新宿のど真ん中にいきなりテュポーンが現れて、触手を振り回しながらビルをなぎ倒しちゃったんですよ。うちのビルだけじゃないですよ。どこもかしこもです。東京が、ううん、関東地方全域が更地にされる勢いです。まるで怪獣映画ですよ。近くにテレビあったらつけてみてくださいよ。どのチャンネルもテュポーン報道やってますよ。私どうしたらいいですかね? 葛根湯買いにドラッグストアに行ってて、帰ろうとしたらこれですよ。バスも地下鉄も止まってるし、道路は避難民でいっぱいだし。仕方がないから手近な異界の門に逃げ込もうかなーって。先生、聞いてますか? せんせーい……』



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