女神とお茶とファンクラブ
ここはオリンポスの一角、女王ヘラが午後のお茶を楽しんでいるパティオ。
アイグレーが退出した後、居残っていたヘルメスは気安い態度でヘラに話しかけた。
「お茶、美味しそうですね。ご相伴にあずかってもいいですか? それとお茶菓子ちょびっと土産にもらって帰っても?」
「べつに構わないけど」
「あざーす。いただきまーす」
ヘルメスはカップに形だけ口をつけ、中身のネクタルをどこからともなく取り出した水筒に流し込んだ。
同じくどこからともなく取り出した懐紙にアムブロシアをひょいひょいと包む。
「これでよしっと。あ、ついでに一個お願いしたいんですけど」
ヘルメスがヘラの耳にこそこそと囁いた内容に、神々の女王は眉を寄せた。
「何に使うの」
「それはまだちょっと内緒ってことで」
「悪用する気じゃないでしょうね? 私に隠れて夫がどこかの女にプレゼントするとか言うんだったら」
「違いますって。俺の個人使用で、ちょっと。本当に使うかどうかまだわからないんで、もしかしたら必要になるかもって。万が一に備えて保険? みたいな」
「はっきりしないわね。本当に夫の浮気用じゃないんでしょうね?」
「本当、本当。あくまでも俺の個人使用です」
「まあいいけど」
ヘラはさらさらと一枚の手紙をしたためた。
「はいどうぞ。悪いことに使っちゃダメよ」
「ありがとうございます。誓って悪用はいたしません」
へへーっと平伏して受け取るヘルメス。
顔を上げてニコッと笑う、愛嬌のあるその様子にヘラも思わず苦笑する。
「まったく、甘え上手な子ね」
「そう言ってくれるの、ヘラ様くらいですよ」
※
その頃、アイグレーはオリンポスの仲間と合流していた。
待っていたのは姉妹のヘスペリエーと不和の女神エリスである。
「ヘラ様のお墨付きをいただいた。これで堂々と調査できるぜ、クソジジイにバレない範囲で!」
「やったね、グレぴ。やっぱりヘラ様は懐が深い」
「ヘラ様、超かっこよかった! 一生ついてくぜ!」
「あんたたちのそのノリにはついてけないわ」
不和の女神エリスは頭痛をこらえるかのように額を指で押さえている。
「あれをかっこいいと感じて心酔するとか。その独特の感性はティターンの血を引くニンフだから? アトラスが妙にモテてたのと同じ? 大きくて強いものに無条件に惹かれるの?」
「ごちゃごちゃ悩むなって!」
アイグレーはエリスの背中をバンと叩いた。
「こっからはエンジン全開で行くぜ。ラビュリントスに乗り込んで、ミノタウロスを締め上げて」
「その前に準備があるっつーの」
エリスがアイグレーの頭にトンと手刀を落としたその時。
「あ、グレぴとペリちー」
「どうしてここにいるのかしら?」
アステロペーとリパラーがやってきた。
「ロペりん、パラっち。二人はどうしてここに?」
「叔父さんとこに行ってたんじゃなかったっけ?」
「行ったけどね~、叱られちゃってね~」
「先にヘラ様に報告してきなさいって言われたから、報告しに来たのよ」
「だったら大丈夫。たった今、報告して正式な命令を受けたとこだから」
「クソジジイに内緒で調査していいって」
「やったね~、さすがヘラ様~」
「ヘラ様最高! 宇宙一いい女だわ!」
姉妹四人でキャッキャうふふ。
ヘラ様かっけー、ヘラ様最高、と小躍りしている。
「姉妹揃ってヘラ様ヘラ様って……あんたらヘラ様ファンクラブか。鬱陶しいわね。この馬鹿ニンフ姉妹、不和の女神の権能で仲違いさせてやろうかしら」
無視された形になったエリスがジト目で見ていた。




