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ヘスペリデスの黄金の林檎  作者: ful-fil


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3/30

涙もろいヘスペリデス

 ここはヘスペリデスの園。

 女神ヘラが植えた黄金の林檎がなる木を守るため、ニンフのヘスペリデス姉妹と百頭怪獣ラードーンが昼夜を問わず警備に当たっている。


「エクスキューズミー。ここはヘスペリデスの園で合ってるでしょうか?」

「あら珍しい。訪問者だなんて。普通ならたどり着けないはずなのに」

「過酷な冒険の旅の末にやっとの思いでたどり着きました。それではやはりここがヘスペリデスの園なのですね?」

「まあ大変だったのね。そうよ、ここがヘスペリデスの園、私はヘスペリデスの一人、リパラーですわ」

「申し遅れました。私はタージマモーリと申します。遥か東の果てからやってまいりました」

「あらまあ東の果てからこの西の果てまで? それは長旅だったでしょう」

「それはもうシルクロードを逆から辿るような長旅でした。それもすべては黄金の林檎を得んがため。ここに黄金の林檎があると聞き及びましたが、まことでございましょうか?」

「まことでございますわよ、タージマモーリさん。さしあげるわけにはまいりませんけどね」

「おお…やっと探し当てた。あるかなきかもわからぬものを探し求めて幾年月。何度心折れそうになったことか。ついに、ついに目的地に。リパラー殿、お頼み申し上げます、なにとぞ我が主君の命を繋ぐため、一枝だけでも分け与えてはいただけませぬか」

「なんだか急に時代がかった口調になったわね。最初の軽い挨拶はなんだったのかしら。それに一枝って欲張りね。果実1個だけでもお宝なのに、枝ごと持っていく気ね?」

「私利私欲ではないのです。主君と奥方、お二人に捧げるため、少なくとも2個必要なのです。予備も含めてできれば4個」

「図々しいわね。あげられません。4個とか言って10個くらい盗る気でしょ。中に通すのもお断りよ」

「そうおっしゃらずに。どうか事情を聞くだけでも」


 そうしてタージマモーリは訥々と話し始めた。

 主君がいかに人品優れた王であるか、奥方がいかに心優しき妃であるか。そのお二人を次々に襲う悲劇の数々。矢尽き弓折れ、それでも立ち上がり臣民のために戦い抜いた主君のことを。

 長い物語が佳境に入るころ、リパラーの瞳は感動の涙で濡れていた。

「うっ、うっ、うっ、なんて悲しい話なのかしら。なんて胸を打つ話なのかしら」

「生きて帰れるかどうかもわからぬ旅に出る私に主君は『いつまでも待っている』と…」

「ああ、もう涙が止まらないわ」

 ハンカチで涙をぬぐい、鼻をかみ、リパラーは果樹園の門を開けた。

「私にはあなたを止めることはできないわ。さあどうぞ、通ってちょうだい。この道をまっすぐ行くのよ」

「かたじけない」

 タージマモーリは果樹園の奥へと進んで行った。



 その日の夕方。

「交代するよ~」

「あらもうそんな時間?」

「パラっち機嫌良さそうだね~。なんかいいことあった~?」

「ん-、ちょっとね。泣ける話でもらい泣きしてすっきりした気分なの」

「なにそれ韓国ドラマ?」

「違うけど似たようなものかな。久々にいい娯楽になったわ」

「ふーん。ラードーンにはもうご飯あげた~?」

「あげたわよ。活きの良さそうな餌だったから満足してると思うわ」

「ふーん、どんな餌?」

「東の果てで採れたらしいわ」

「輸入餌? 大丈夫? 変な毒みたいな混ぜ物されてない?」

「毛並みの良さそうな餌だったから大丈夫だと思うわよ」

「ふーん、まあいいか。申し送りはある? 不審者の出入りはない?」

「『入り』はあったけど『出』はないわね」

「じゃ、いっか。お疲れさん」

「ええ、お疲れ様」


 優しそうに見えても、ヘスペリデスはヘスペリデス。

 林檎泥棒には容赦ない。

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