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ヘスペリデスの黄金の林檎  作者: ful-fil


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28/30

二つの説得~ヘルメスとプロメテウス~

 ここはヘスペリデスの園から遠く離れた島国・日本。

 そのどこかの街をヘルメスは全力で逃げ回っていた。


 路地裏から路地裏へ、ショップの入り口から裏口へ、高層マンションのベランダからベランダへ、非常階段を駆け上がって駆け下りて。

 自動車のボンネットを飛び越え、植え込みを突っ切り、ゴミ袋を蹴散らして、かく乱しながら走るが引き離せない。

 ヘスペリエーは着実にヘルメスを追い詰めていた。


「ペリちー脚速えな! ちょっと止まって俺の話聞いてくんない!?」

「話は捕まえてからゆっくり聞く」

「捕まりたくないから言ってんだけどね!」


 ヘルメスは公園の遊具を挟んでヘスペリエーと対峙した。


「冷静に話し合おうぜ。話せばわかる」

「あんたを逃がしたらクソジジイに話が筒抜けになる。交渉の余地はないよ」

「ある! あるから聞いて!」


 可愛らしい動物をデザインした遊具は遮蔽物としては頼りないが、今のヘルメスにはこの遊具が命綱だ。


「考えたんだけどさ、要はアトラス様に被害がなければいいわけだ。で、俺は職務として小耳にはさんだ重要情報は上に報告する義務がある。ペリちーもヘラ様に報告する義務があるだろ?」

「それはある。だから調査を終えてから報告する」

「それじゃ遅いんだって! 万が一の時、ヘスペリデスだけじゃテロ計画を阻止できないかもしれない。タレコミがあったのにむざむざ実行させちまったら、責任問題だぜ」

「責任問題?」

「神々は不死だから誰も死なないかもしれないけど、報告しなかった責任は問われる。おばちゃんたちは確実に罰せられるし、宇宙基地が落とされたらアトラス様もタルタロス幽閉コースか、でなきゃ拷問三万年だ」

「パパが幽閉か拷問……そんなのさせない」


 ヘスペリエーの目が怪しく光る。

 スッと持ち上げた指の関節がバキバキと鳴る。

 相手が戦闘モードに入ったのを察知し、ヘルメスは慌てて顔の前で手を振った。


「うん、させないよね、わかるよ、大丈夫、そうならないために今できることをやろうって話だから!」

「今できることって何?」

「俺と一緒にヘラ様んとこに行こう!」

「ヘラ様?」


 ヘスペリエーから殺気が消えた。

 ここが勝負とヘルメスは言葉を重ねる。


「一緒に行って俺のこと見張ってれば、ゼウス様にチクらないって安心できるだろ。ヘラ様にだけ報告して、根回ししとくんだよ。アトラス様に迷惑かからないように!」

「根回し。それしとけばパパを守れる?」

「守れる守れる。俺を信じろ。ていうかヘラ様を信じろ。あの方は男の浮気には厳しいけど、女の願いはむげにはしない。これは本当だから。そういう懐の深い所があるから。だよな?」

「うん、ヘラ様にはそういう所がある」

「だからヘラ様を信じて正直に報告しに行こう。そんでアトラス様が痛い目にあわないようにお願いするんだよ。頼めば多分聞いてもらえる」

「多分?」

「いや絶対! 悪い結果にはならない。俺が保証する」

「あんたの保証はあてにならないけど……。じゃあ命かけて誓う?」

「誓う誓う。いくらでも誓っちゃう」

「もし正直に報告した結果、パパが大変なことになったら、ケイローン様がプロメテウス叔父さんにしたみたいに不死性を差し出して助けてくれる?」

「う、それは」


 ヘルメスは一瞬口ごもるが、すぐに吹っ切ったように叫んだ。


「ええい、こうなったらヤケクソだ、誓ってやるよ! もしもこの件でヘラ様に報告したせいでアトラス様がプロメテウス様みたいな拷問にかけられることになったら、俺が不死性を差し出して解放すると誓う!」

「それならいい。あんたと一緒にヘラ様に報告しに行く」

「畜生、アトラス様、絶対にドジ踏むなよ! あんたの進退に俺の不死性がかかってんだからな!」

「ありがとう。ヘルメスがいてよかったと初めて思った」

「感謝されても嬉しくねえよ!」





 ヘルメスの不死性が風前の灯火になりかかっている頃、日本の別の場所ではプロメテウスがやっと詳しい事情を聞き終えて、姪っ子たち(リパラーとアステロペー)を諭していた。


「話はわかった。でも筋が違うだろう。君たちはヘラの直属の部下なんだから、勝手なことしないで、まず上司に連絡しなさい。上司に隠れて持ち場を離れてコソコソやってるうちは裏番号なんか教えられない。テロ計画があるならあるで、ヘラにきちんと報告して、どうしたらいいか相談すること。話はそれからだ」

「「はい……」」

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