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ヘスペリデスの黄金の林檎  作者: ful-fil


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26/30

静かなる逃走、ヘルメスとダイダロス

 ここはヘスペリデスの園。

 女神ヘラが植えた黄金の林檎の木を百頭怪獣ラードーンとヘスペリデス姉妹七人が守っている果樹園である。

 しかし今日に限っては、七人姉妹のうち四人が外出、二人が捕虜の尋問中。

 門を守っているのはたった一人、ヒュギエイアしかいなかった。


 そのヒュギエイアが招かれざる客アキレウスに対応していたちょうどその頃、果樹園の物置でコソコソと動き出す影があった。

 捕虜三人のうちの二人、名工ダイダロスと『クソジジイのパシリ』ことヘルメスである。



「よし、開いた」

「お見事なお手並みですな」

「この程度のちゃちな鍵なんぞ俺の手にかかればこんなもんよ」

「さすがは盗賊の守護神ですな」

「それ言われるとなーんか犯罪者の神って言われてるみたいで複雑なんだよなあ~。確かにローグ系は俺の守護範囲だけど、強盗とかATMごと重機で持ち去るような荒っぽいのは違うからね? あくまでも指先のテクニックとか忍び足とか、専門技能を要する繊細な職人芸を守護してんの」

「ほっほっほ。うまいことをおっしゃる。確かに職人芸ですなあ、指先の」

「なーんか馬鹿にされてるような気がするなあ~。俺、こう見えても神様だよ? 軽く見てると後悔するよ?」

「滅相もない。心の底から敬い申し上げておりますとも。ささ、お嬢様方に見つかる前に参りましょうぞ」

「お前の息子が置いてきぼりになっちゃうけど、本当にいいんだな?」

「お嬢様方も無意味な殺生はなさいますまい。生きておりさえすれば身代金交渉でも何でもして取り返す算段はできております。ぶっちゃけオリンポスの神々がバックについてくだされば、たやすいかと」

「知恵が回るねー。まあ実際ヘラ様が一言いえば即解放だろうけど。そんじゃまあ、ちゃっちゃと行くか」


 物置を抜け出し、取り上げられた装備品を探し出す。


「俺の服が妙にきっちり四角く畳まれてて気持ち悪い。誰だよこの畳み方。クリューソテミスか?」

「きっちり四隅が直角になっておりますな。これも一種の職人芸ですぞ」


 杖や帽子を装備し直し、こっそり出口へ向かう二人。


「正面玄関に誰もいなけりゃベストなんだが……まあ無理か」

「お嬢様のお一人と、もうお一方どなたかおいでですな」


 正門前ではヒュギエイアとアキレウスが何やら取り込み中。

 その様子を物陰からそっと覗くヘルメスとダイダロス。


「うぐぐぐぐぐ」

「ぐぬぬぬぬ」


 地面にうつぶせになり、右手同士をがっちり握り合うヒュギエイアとアキレウス。

 どう見てもアームレスリングである。


『(ヒソヒソと)あいつら何やってんだ?』

『(ヒソヒソと)どうやら腕相撲ですな』


 やがてヒュギエイアがアキレウスをねじ伏せ、アキレウスの手の甲が地面に付いた。


「やったー、私の勝ちだ!」

「ちょっと待て、納得いかん!」


 飛び上がって喜ぶヒュギエイア。

 『待て』のポーズで抗議するアキレウス。


「右で勝っただけだろ。左でもう一回勝負しろ!」

「利き腕で勝てなかったものが逆の腕で勝てると思うのか?」

「俺は左に自信があるんだよ。左なら俺が勝つ。左で勝負!」

「泣きの一回というやつだな。よかろう」


 再び地面に寝そべって今度は左手を組む二人。


「「レディー、ゴー!」」

「うぐぐぐぐ」

「ぐぬぬぬぬ」


 渾身の力を込めて勝負する二人。

 今度はアキレウスがヒュギエイアをねじ伏せた。


「やった! な? 左なら俺が勝つって言ったろ? な?」

「うるさい、一勝一敗だ。まだ勝負はついてない」

「じゃもう一回やるか?」

「望むところだ。自慢じゃないが、私は腕より脚に自信があるんだ。次はビーチフラッグでどうだ」

「俺も脚には自信がある。はっきり言って負ける気がしないぜ」

「ではフラッグの代わりになるものを取ってくるから少し待つがいい」

「おう、早くしろよ」


 門の内側へと入っていくヒュギエイア。

 すかさず物陰に身を隠すヘルメスとダイダロス。

 息を殺してヒュギエイアが通り過ぎるのを待つ。


「……行ったか?」

「……行ったようですな」


 今がチャンスと門へダッシュするヘルメスとダイダロス。

 門から走り出てくる二人を見てアキレウスは怪訝な顔になる。


「なんだ、お前ら?」

「どもー。通りすがりの美青年でーす」

「通りすがりの発明家ですじゃ」


 走り去る二人を呆気に取られて見送るアキレウス。


「ここにいるのって変なやつばっかりだな」

「待たせたな」


 戻ってきたヒュギエイアが手にしているのは超重量級の大槍。


「俺の槍じゃねえか!」

「果樹の支柱にしていたのを持ってきた。これを砂に刺して先に取った方が勝ちということにしよう」


 アキレウスが討たれた際に戦利品として回収された大槍。

 彼の宝物であるそれを手にしてニコニコ笑いながら出てきたヒュギエイア。

 瞬時にアキレウスの頭に血が上る。


「俺が勝ったらその槍返してもらうからな!」

「いいとも。返してやろう。ただし私に勝てたらな!」


 スポーツ大好きヒュギエイア。

 単純熱血アキレウス。

 本来の目的はどこへやら、脳筋どもの勝負は続く。


 ヘルメスとダイダロスの静かな脱走にヘスペリデス姉妹はまだ気づかない。

脳筋二人組、最初はお互い殺し合う気満々でしたが、『殺してしまったら姉妹を呼びに行かせられない』とアキレウスが気づきまして、安全な勝負に切り替わりました。

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