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ヘスペリデスの黄金の林檎  作者: ful-fil


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25/30

エピメテウスとパンドラ

 ここはヘスペリデスの園から遠く離れた日本。

 オーバーツーリズムが一段落してもまだ人が多い人気の観光地に一組の外国人カップルが滞在していた。



「エピくん」

「パンちゃん」


 朝まだ早い朝食ビュッフェ会場。

 そのカップルは人目もはばからず二人だけの世界を作っていた。


「エピくん、この焼きたてピッツァ最高よ。一口食べてみて。はい、あーん」

「あーん。うん、最高だね。パンちゃん、この出来立てオムレツも最高だよ。食べてごらん。あーん」

「あーん。ん~ほっぺが落ちそう」

「僕たち幸せだね」

「私たち幸せだわ」


 朝食メニューを片っ端から食べさせ合うバカップル。

 スムージーを飲みながら微笑みあい、指を絡ませ合う。

 二人の左手の薬指には当然のごとくお揃いの指輪が光っている。

 一見するとただの外国人新婚旅行客だが、その指輪は若い外見に似合わず年代物だった。


「ねえエピくん、日本っていい所ね」

「そうだねパンちゃん。食べ物は美味しいし、夜中に銃声がしないしね」

「ホテルは清潔だし、街には素敵なお店がたくさんあるし。こんな所で暮らせるなんて夢のようだわ。もちろんエピくんとならどこで暮らしたって幸せだけど」

「僕だってパンちゃんとならどんな国でだって幸せだよ」

「エピくん」

「パンちゃん」


 バカップルは二人でいる幸せを確かめ合った。


「エピくんのお兄さんには感謝しないとね。こんな素敵な国に招いてくださったんですもの」

「そうだね。旅費も滞在費も負担してくれたしね。僕たちが結婚した時は貧しい時代だったから新婚旅行なんて考えられなかったよね。それがこうして二人で旅行を楽しめるんだから」

「貧しくても私は平気だったわ。だって私たちには希望があったもの」

「苦労させてごめんね。これからは兄さんに紹介してもらった仕事をがんばるよ」

「私もエピくんを全力で応援するわ」

「パンちゃん」

「エピくん」


 バカップルはまた二人の幸せを確かめ合った。


「エピくんのお兄さんに会うのは初めてよね。私の服装おかしくないかしら」

「大丈夫、とても似合っているよ」

「派手すぎない? エピくんの妻としてふさわしくないって思われたりしない?」

「そんなこと思われるはずがないよ。こんなに綺麗で可愛くて優しい最高の奥さんなんだから」

「やだ恥ずかしいわ」

「恥じらうパンちゃんも可愛いよ」

「も~エピくんったら~」


 バカップルはまたしても二人の幸せを確かめ合った。


「私ひとりっ子だから兄弟がいる人って羨ましいわ」

「僕は末っ子だから自分の下に弟か妹が欲しかったなあ。もちろん兄さんたちのことは嫌いじゃないけどね。今もこうして世話になってるわけだし」

「お兄さんが三人いるのよね?」

「うん。みんなバラバラに暮らしてて長いこと会ってないけど。向こうから連絡が来たのにはびっくりしたよ」

「離れて暮らしてても気にかけてくれてたのよ、きっと」

「そうだといいな。小さい頃は苦手だと思うこともあったけど。上の三人は皆優秀で僕だけ出来が悪かったからね」

「出来が悪いなんて、そんなことないわ。私の旦那様は素敵な人よ。世界一の旦那様だわ」

「パンちゃん」

「エピくん」


 バカップルはしつこく二人の幸せを確かめ合った。


「そろそろチェックアウトの時間だね」

「荷物はまとめてあるわ。あとはお兄さんへのお土産を買うだけよ」

「手際がいいね。僕の奥さんは頼りになるなあ」

「ぎりぎりになって慌てないように前もって用意しといたの。私ってうっかりさんだから、時間がないとすぐ忘れ物するんですもの」

「たとえスーツケースの中身を全部失くしたって困らないさ。大切なのは二人が一緒にいることだよ」

「エピくん」

「パンちゃん」


 バカップルはこれでもかと二人の幸せを確かめ合った。


「ねえエピくん。この国に長く住むのなら、日本名を付けない?」

「いいね。パンドラって名前は最高に可愛いけど、日本風の名前もきっと似合うよ」

「エピくんもエピメテウスって名前は素敵だけど、日本風の名前も似合うと思うの」

「二人でお互いに似合う名前を考えようか」

「最高の名前を付けましょうね」

「アニメキャラの名前がいいかな?」

「アイドルの名前もいいわね」

「ゆっくり考えよう。僕たちには時間がたっぷりあるんだから」

「ええ、私たちには無限の時間があるわ」

「パンちゃん」

「エピくん」


『お前らいい加減爆ぜろ脳内のお花畑に除草剤まいてやろうか』

『どこのなに人だここは日本だ郷に入れば郷に従え人前でいちゃつくんじゃねえ』


 ホテルの客やスタッフなど一部の男女に口から砂糖を吐きそうな胸やけを残して、その二人はホテルを出発した。

 しっかりと手を恋人つなぎにして。




パンドラ:神々によって作られた人類最初の女性。ゼウスが制作を命じ、ヘパイストスがボディを製造、アテナが仕事の能力を、アフロディーテが魔性の魅力を、ヘルメスが小悪魔的な性格を与えた世界初のハニトラ要員。『決して開けてはいけない箱』を持たされてエピメテウスに嫁いたが、好奇心に負けて開けてしまう。箱の中には無数の災いが入っていた説と、たくさんの祝福が入っていた説があるが、どっちにしても希望だけ残して全部逃げてしまったので大損。

本作では夫のエピメテウスとラブラブバカップル。嫁入り道具の箱から色々なものが逃げてしまったため貧乏だが、あんまり気にしていない。


エピメテウス:兄のプロメテウスに警告されていたにも関わらず、ハニトラ要員パンドラにメロメロになって結婚してしまった人。ゼウスからは『こいつ人畜無害だから自由にさせといても大丈夫』とみなされていたが、兄プロメテウスがやらかしたため、怒ったゼウスによりパンドラとの結婚という罠にはめられた。

本作では妻のパンドラとラブラブバカップル。罠に落ちた本人はそれが罠だったことに気づいていない。パンドラの嫁入り道具の箱から色々なものが逃げてしまったことも含めて、「無能」「アホの子」認定されている。貧乏だがあんまり気にしていない。

口から砂糖を吐きながら執筆。

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― 新着の感想 ―
エピメテウスとパンドラが、こんな扱い……。 でも、原作でもこんなだったかも。盲目な傍迷惑という点で。  原作ネタですが、人類最初の女性が災いとして設定されているあたり、ギリシャ神話の作者は何かつらい…
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