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ヘスペリデスの黄金の林檎  作者: ful-fil


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23/30

閑話:神々の家系図(ニュクス系統)をちょっと紹介

 前回の閑話ではガイアを祖とするティターン神族とオリンポス神族について軽くご紹介しました。

 しかしギリシア神話にはガイアとは別系統の神々も存在するのです。

 今回は夜の女神ニュクスとその系統の神々についてご紹介します。


1・ニュクス


 世界で最初に出現したのはガイアですが、その他にもカオスから出現した神々がいました。

 今回注目するのは夜の女神ニュクスと幽冥の神エレボスです。

 この二人は兄妹で、共にカオスから生まれました。

 エレボスが兄でニュクスが妹です。

 ちなみにガイアとは血縁がありません。

 同じようにカオスから誕生した原初の神でも別種族なんですね。


 ニュクスのことはゼウスでさえも恐れるそうです。

 オリンポス神族の王であり、宇宙の支配者で、最強の武器防具を持っていて、巨大怪獣テュポーン相手にも一騎打ちで戦ったあのゼウスが、ニュクスと事を構えるのはまずいと対立を避けたらしいです。

 神々の王が恐れる夜の女神。

 なぜニュクスがそんなに恐ろしいのか。

 その謎を解くため、彼女の家族を見ていきましょう。

 

 ニュクスは兄エレボスと結婚して三人の子を産みました。

 昼の女神ヘーメラー、上天の清明な大気の神アイテール、冥界の渡し守カロンです。

 前の二人はいいとして、三人目のカロンで一気に不穏な気配が立ち込めてきました。

 この不穏さはニュクスが単独で生んだ子どもたちによってさらに強まっていきます。


 昼の女神ヘーメラーと夜の女神ニュクスは一対を成しています。

 明け方になるとニュクスが帰宅し入れ替わりでヘーメラーが出勤、夕方になるとヘーメラーが帰宅しニュクスが出勤、と朝夕のちょっとの間しか顔を合わせないすれ違い親子です。

 ニュクスとヘーメラーはタルタロス(ティターンたちが幽閉された地獄のような場所)に住んでいます。

 ニュクスは夜の女神ですから暗い場所が好きなのでしょうが、ヘーメラーはもっと明るい場所に住みたくないのでしょうか。

 寝るために帰るだけだからいいのかもしれませんね。


 夫のエレボスと息子のアイテールも同じように一対になった親子です。

 アイテールは天空の上の方、現代風に言えば成層圏など、人間が呼吸するような地上付近の大気よりもっと高い所にある澄み切った空気の神です。

 一方のエレボスは地底の暗闇の神です。

 タルタロスが冥界の最奥部、自由落下を九日九夜続けて十日目に着地するくらいの深さだそうですが、冥界の入り口付近、静かな絶望の暗黒世界がエレボスです。

 アイテールとエレボスは世界の上の端と下の端という意味で一対なのです。

 

 

2・ニュクスの子どもたち


 エレボスとの間に三人産んだ後、ニュクスが単独で産んだ子どもは以下の通りです。


・死の定業の神モロス

・死の運命の神ケール

・死の神タナトス

・眠りの神ヒュプノス

・夢の神オネイロス

・非難の神モーモス

・苦悩の神オイジュス

・義による復讐の女神ネメシス

・欺瞞の神アパテー

・愛欲の神ピロテース

・老年の神ゲーラス

・争いの女神エリス

 (ヘスペリデス姉妹や運命の三女神モイライもニュクスの子とする説もありますが、本作ではヘスペリデスはアトラスの娘という説を採用しておりますので、ここではニュクスの子にカウントしません。ご了承ください。)

 ……


 一覧を見ただけでも不穏さが際立っていますね。

 上三人なんか死・死・死ですよ。

 冥界の王はガイアの孫のハデスですが、死そのものはニュクスの子どもたちの管轄なんです。

 そして夜の眠りと夢、人間の心の働きのあれこれ……。

 ニュクス系の神々の特徴は『実体がないもの・精神的なもの』を司っていることなんです。

 それも人間が恐れたり苦しめられたりしそうなものばかり。

 夜の女神の子どもたちはホラー系なんですね。


 ではニュクスの子どもたちの中で面白そうな神々をピックアップしてみましょう。


 眠りの神ヒュプノス、夢の神オネイロス。

 比較的親しみやすい神様ですね。

 誰でも眠くなったら眠るし、眠れば夢を見ます。

 悪夢の中で必死に走っているのになかなか前に進めないことがありますよね。

 死の神タナトスほど怖くはないけど、それでもちょっぴり不安に感じさせる、そんな神様たちです。


 復讐の女神ネメシス。

 ニュクス系の神としては比較的信頼できる『善き神』です。

 ネメシスの復讐は義憤による復讐であり、強い正義感の下に悪を断罪するものです。

 晴らせぬ恨みを晴らしてくれるネメシスは善男善女に広く支持されたことでしょう。

 ネメシスを恐れるのは悪事を働いて償うことなく逃げおおせている悪人たちだけなのです。


 争いの女神エリス。

 はい、出ました、本編で私立探偵不破エリカとして登場している不和の女神エリスさんです。

 黄金の林檎投げ込み事件で一躍有名になりました。

 一説によればゼウスとヘラの子で軍神アレスの妹とも言われていますが、本作ではニュクスの娘説を採用しています。

 他人が争い合うのを見て楽しむ残忍さと、闘争心をかき立てて戦う者たちを応援したり、切磋琢磨させて成長を促したりする建設的な面、二つの側面を持っています。

 エリスが司るのは戦争や暴力そのものではなく、人間の中にある競争心や戦闘意欲なのです。


3・エレボス


 ニュクスの兄にして夫、幽冥の神エレボス。

 この神の名は「地下世界」を意味するそうです。

 その領域は冥界の入り口付近だと言われています。

 地下の暗黒の神であり、暗黒世界そのものでもあります。

 夜の暗闇と地下の暗闇を比べたら、地下の方がより暗いのでしょう。

 深淵と言ってもいいかもしれません。

 タルタロスが大勢閉じ込められている嘆きに満ちた奈落の底だとすると、エレボスは生き物の気配のない静寂の世界です。

 宇宙の秩序が出来上がる前の原初の暗黒なので、死者の罪を量る裁判官もいなくて、死者はこの領域をただ通過していくのみです。

 前回ご紹介したアトラスの弟メノイティオスは他のティターンがタルタロスに幽閉された中で一人だけこのエレボスに落とされました。

 そしてそれっきりメノイティオスは姿を見せることも名前が出ることもありません。

 不死である神が復活することも行動することもできず消滅したも同然になる場所、それがエレボスです。

 エントロピーとか時間とかそういう物理学的な何かがエレボスでは止まってるのかもしれませんね。




 いかがでしたでしょうか。

 夜の女神ニュクスとその家族の怖さをお伝えすることができたでしょうか。

 ニュクス・ファミリーの中ではエリスはまだしも付き合いやすい方かもしれません。

 多少ひねくれていますし、負けず嫌いで喧嘩好きではありますけど。

 本編はまだ続きます。

 今後ともヘスペリデスと不破エリカの物語をどうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
買った本にはニュクス系の神様の記述が無かったので勉強になりました。 メーヘラーとニュクスは日本神話における天照大神と月読命のようなイメージかなとか。 タナトスとかネメシスとかエリスとか、ゲームや小説…
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