表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘスペリデスの黄金の林檎  作者: ful-fil


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/30

私立探偵不破エリカの高額依頼

 ここはヘスペリデスの園から遠く離れた島国日本。

 古びた雑居ビルの一角にある探偵事務所。

 その探偵事務所の応接室で、私立探偵不破エリカは意外な客を迎えていた。



「お茶が入りました」

「あ、ども」

「お構いなく」


 助手のエーコが玉露の入った湯飲みを客の前に置く。

 客は二人。


「あ、美味しい」

「グレぴ、見てこれ可愛い。茶葉の茎がカップの中で縦になって浮いてるよ」

「それ茶柱って言うんですよ。幸運の印だそうです。ヘスペリエーさん、きっといい事ありますよ」

「へー、日本人もお茶の葉占いするんだね」


 躊躇なく飲み始めるアイグレーと、物珍しそうに湯飲みの中の茶柱を観察しているヘスペリエー。


「もうすぐ先生来ますから、どうぞごゆっくり」


 エーコが退出して間もなく、エリカが入ってきて向かい側のソファーに腰を下ろした。

 いささか機嫌が悪そうだ。


「ねえグレぴ。歓迎しないわけじゃないんだけどさ、なんであんたの妹まで一緒にいるのよ」

「グレぴって言うなし。今日は遊びに来たわけじゃないんだ。頼みたいことがあって来たんだよ」

「なんか嫌な予感がするわ」

「単刀直入に言う。真偽不明の情報の裏を取ってほしい」


 かくかくしかじか。

 説明されてエリカは頭を抱えた。


「聞きたくなかった」

「全部聞き終わってから何言ってんだか」

「それが本当ならとんでもない大事件じゃないの。浮気調査が専門の私立探偵にどうしろってのよ。オリンポスに通報しなさいよ」

「それをやったらパパが危ないだろ」

「まあね、ゼウスがこれに便乗して何かするって読みは当たってると思うわ。旧派閥の勢力を削ぐ絶好のチャンスだもんね」

「だからクソジジイに知られる前に阻止したい。そのためにまずは真偽の確認だ。そこを手伝ってほしい」

「うーん、力になりたいのは山々だけど、ミノタウロスかぁ~。探るとしたらラビュリントスでしょ。面倒な場所なのよ。道が複雑だし、治安悪いし」

「それくらい女神の権能でなんとかなるだろ」

「私の権能は人の和を引き裂くことであって、ギャングの巣窟に乗り込むことじゃないのよ」


 押し問答をするエリスとアイグレー。

 黙ってお茶を飲んでいたヘスペリエーがぼそっと口を開いた。


「治安が問題なら私が同行する」

「え?」

「ギャングって人間でしょ。襲ってきたら蹴散らせばいいよね」

「でも、あいつら銃で武装してるのよ?」

「拳銃だったらどうってことない。経験上、ショットガンやライフルでも割と平気。マシンガンで十字砲火されるとちょっと鬱陶しいかな。でもいくら武装したって人間はもろいから。接近して殴れば簡単だよ」


 侵入者絶対殺すウーマン。

 ワンマンアーミー。

 百人殺しのヘスペリエーはあっさりしたものだった。


「確かにペリちーが行けば負けることはないよな」


 腕組みして頷いているアイグレー。

 エリスは険しい目つきでヘスペリエーを睨んだ。


「あなた私の事嫌いよね。そんな私を体張って守れるの?」

「確かにこれまで仲良くしたことはないし、これから仲良くなるつもりもないけど、この裏付け調査を引き受けてくれるなら調査の間は全力で護衛するよ」

「あら正直ねえ。その誠実さがムカつくわ」


 ヘスペリエーのまっすぐな瞳とエリカのきつい視線がぶつかりあう。

 その時、アイグレーがローテーブルにバンと両手をついて頭を下げた。


「エリリン、頼む! あんたが頼りなんだ。ミノタウロスの調査が出来て、クソジジイにチクらないって確信できるのは、あたしの知ってる限りあんたしかいない!」

「やだ、何やってんのよ」

「私もエリスが適任だと思う。お願いします。引き受けてください」

「ヘスペリエーまで! ちょっと二人とも頭上げなさいよ!」


 ぺこりと頭を下げるヘスペリエー。

 アイグレーとヘスペリエーの二つ並んだつむじを見せられて、動揺するエリカ。

 ついにエリカは自棄気味に声を張り上げた。


「あーもー、わかったわよ。やりゃいいんでしょ! エコーちゃーん、社長にぼんくら息子捜索依頼、着手金二百万成功報酬一千万でならお引き受けしますって電話して!」

「ぼんくら息子?」

「アリアドネが監禁してた資産家の息子よ」

「あ、あのテセウスの生まれ変わりっていうアレか」

「かっさらわれたから取り戻してくれって親御さんから矢の催促なのよ。何度も断ったんだけど、こうなったら調査と捜索、同時進行でやってやるわ。どうせ同じ場所なんだし。ギャングの巣窟に乗り込むんなら報酬くらいぼったくらないとやってらんないわよ」

「あー、ごめんエリリン。あたし手持ちがあんまりなくて」

「ヘスペリデスにお金は期待してないわ。調査してあげる代わりにこっちの仕事を手伝いなさい。私はテロ計画の裏を取る。あなたたちはぼんくら息子救出を手伝う。いいわね?」

「よし!」

「交渉成立だね」


 エリカ、アイグレー、ヘスペリエー。

 三人の女は手を重ねた。


 電話をかけようとしていたエーコはそれを見てブルっと体を震わせた。

 なんだろう、この不吉な寒気は。

 あたかも運命の三女神が誰かの運命の糸を断ち切ろうとしているかのような……。


「風邪のひき始めかしら。今夜寝る前に葛根湯飲んどこう」


 どこまでも現実的なエーコであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ