閑話:神々の家系図をちょっと整理
本稿には原典にないオリジナル設定やユーモラスな解釈を含みます。神話の定説と創作部分を区別しながらお楽しみください。
本作を執筆するにあたり下敷きとしたギリシア神話の神々について、ざっくりと解説しておこうと思います。
なお神々の名前に関しては何種類かの日本語表記がある場合、作者の好みに合うもの(主に長音省略型)を採用しました。
一般的な表記と違う可能性がありますがご了承ください。
また親子関係など諸説ある場合は本作で採用した説を中心に解説していますのでご了承ください。
1・原初の神々
ギリシア神話によると世界の始まりは混沌でした。
天地の区別もなく、何もかもが混ざり合った『世界の卵』です。
最初に女神ガイアが生まれました。
大地の女神です。
ガイアの権能は命を生み出すことでした。
彼女は考えました。
たった一人の女神しかいない混沌の世界でどうしたら新たな命を生み出せるか。
そして出た答え。
無性生殖(細胞分裂)すればいいじゃない!
というわけでガイアは無性生殖で3柱の神々(天の神ウラノス、海の神ポントス、山の神ウーレア)を生み出しました。
しかし無性生殖に限界を感じたのでしょう、彼女はここから有性生殖に切り替えていきます。
いくら女神でも海とか山とかを細胞分裂(冗談です)で生むのは大変ですからね。
というわけで、彼女は天の神ウラノスを夫にして、次の世代を生みました。
近親婚ですが自分の生んだ子しか相手がいないので仕方がありません。
2・ティターン第一世代
ガイアとウラノスとの間には男女6柱ずつ合計12柱の神々が生まれました。
この12柱の神々がいわゆるティターン12神です。
ティターンとは巨大な体を持つ巨神族で、ガイアとウラノスを祖とします。
ガイアとウラノスから生まれた第一世代12柱が狭義でのティターン、ガイアとウラノス以外のカップルから生まれた子や、第一世代の子孫が広義でのティターンです。
この時点でガイアの産んだ子の代表的存在はティターン12神ですが、ガイアはこの前もこの後も様々な神々や怪物までも産んでいます。
本作には直接登場しませんが、12柱の名前を書いておきます。
<男性神>
・オケアノス
・コイオス
・クレイオス
・ヒュペリオン
・イアペトス
・クロノス
<女性神>
・テイア
・レア
・テミス
・ムネモシュネ
・ポイベ
・テテュス
ティターン12神は兄弟姉妹同士で、あるいは兄弟姉妹が生んだ子と結婚しました。
本当に近親婚ばっかりですが、他に相手がいないので仕方がないのです。
彼らティターン第一世代には一人やべぇやつがいました。
クロノスです。
3・ティターン第二世代
ウラノスと夫婦になったガイアでしたが、権力を握ったウラノスの横暴さに嫌気がさしてきました。
そこでガイアは末っ子のクロノスをけしかけます。
「やっちまいな!」
権力を握った男が横暴になってくると若者を煽って政権交代させる、これはガイアが後に繰り返し使うことになる常套手段です。
けしかけられたクロノスは父親ウラノスを暴力的に追い出し、ティターン社会の最高権力者になりました。
それと同時に、
「おまえも父と同様、自分の息子に討たれるだろう」
と予言されてしまいます。
だったら子ども作らなきゃいいのに、姉妹のレアを妻にして、ヘスティア、デメテル、ヘラ、ハデス、ポセイドン、ゼウスと次々に子を作ってしまいます。
このそうそうたるメンバー。
のちのオリンポス12神の半数がこの時のクロノスとレアの子どもです。
後にビッグになる6人の子どもたちを産まれた直後に飲み込んでしまうという謎の行動をクロノスは繰り返します。
食い殺したつもりだったのか、体内に閉じ込めて無力化したつもりだったのか。
神の考えることはわかりませんね。
ともあれ、これは妻のレアから見て腹に据えかねる蛮行だったらしく、最後のゼウスが生まれた時、レアは一計を案じます
赤ん坊と偽って石をクロノスに渡したのです。
バレないように幻術でもかけたんですかね。
クロノスは石を赤ん坊と思い込んで丸のみして満足しました。
レアはこっそりゼウスを育てます。
そして成長したゼウスは父親クロノスに飲み込まれていた兄弟姉妹を吐き出させます。
吐き出されたら復活しちゃう謎の神様パワー。
赤ちゃんたち消化されてなかったんですね。
頑丈な殻にでも包まれていたのでしょうか。
石を赤ん坊と誤認したことも考え合わせると、ティターン卵生説が筆者の中で急浮上中。
かくしてティターンはゼウスVSクロノスの陣営に分かれて、第一世代も第二世代も更にその先の第三世代までもを巻き込んで、どっちが族長かはっきりさせようじゃねえかという戦いが始まります。
それが「ティタノマキア」と呼ばれる神々の大戦です。
4・ティタノマキア
神々が二つの陣営に分かれての戦争です。
クロノス側をティターン神族、ゼウス側をオリンポス神族と呼んで区別しますが、血統としては両者に違いはありません。
ゼウスがオリンポス山を拠点としたのでオリンポス神族と呼ばれるようになっただけで、同族同士の盛大な内輪もめです。
親子対決の親の方、クロノス側にはクロノスの兄弟とその配偶者であるティターン第一世代たち、及びその子どもたちの大部分が味方しました。
親子対決の子の方、ゼウス側にはゼウスの兄弟姉妹たちと第二世代第三世代の一部改革派たち、そしてヘカトンケイルとキュクロプスが味方しました。
ヘカトンケイルはガイアとウラノスの子で、広い意味でのティターンであり、世代としては第一世代です。
姿かたちが腕が百本もあるという怪物型だったため、神々の一員としてカウントされなかったようです。
ウラノスに嫌われてタルタロス(地獄っぽいとこ)に幽閉され、クロノスに一時解放されましたがまた幽閉されていました。
キュクロプスもガイアとウラノスの子です。
一つ目の巨人だったため、ヘカトンケイルとまったく同じ流れでタルタロスに幽閉されていました。
神話の世界は美醜によって冷遇される例が多いようです。
ガイアは例によって増長し横暴になったクロノスを排除するため、若いゼウスをけしかけました。
「ヘカトンケイルとキュクロプスを味方に付ければ勝てる」
とゼウスに入れ知恵したのです。
この助言を受けて、ヘカトンケイルとキュクロプスを解放して味方に付けたゼウスは地形を変えるような激しい大戦の末に勝利します。
5.戦後処理
負けたクロノスと彼に味方したティターン神族の主だったメンバーはほとんどがタルタロスに幽閉されました。
タルタロスは定番のティターン追放先です。
まるで「規律の厳しい北の修道院」ですね。
クロノス側だったにも関わらず、この処罰を免れたティターンもいました。
まずオケアノスは処罰されませんでした。
オケアノスは大洋の神で、息子3000人娘3000人と言われるほど子だくさんでした。
世界中にある海や川、水属性の神やニンフがすべてオケアノスの子孫なのです。
魚って一度にたくさん卵産みますよね。
一族郎党が多すぎたせいか、娘の一人ステュクスがゼウス側に付いて戦ったせいか、オケアノスとその妻テテュス(海の女神)は無罪放免でした。
ただし海の神としての地位はポセイドンの物になりました。
続いてレアはゼウスの母なのでオリンポスに迎えられました。
ヒュペリオン(光・太陽の神)の子、ヘリオス、セレネ、エオスらは使える人材だったらしく、ゼウス政権下で太陽・月・暁を司る神として残留しましたが、のちにアポロンとアルテミスらに役割を交代することになります。
ヒュペリオン当人とその妻テイア(輝きの女神)はタルタロスに幽閉です。
クレイオス(星の神)の孫世代、ゼロス・ニケ・クラトス・ビアら(血の気の多い武闘派たち)はゼウスに味方して戦ったので戦後は側近として取りたてられました。
コイオスの子、レトはゼウスの妻になりアポロンとアルテミスを生みました。
テミス、ムネモシュネは参戦しなかったらしく、無罪放免でした。
注目すべきはイアペトス(人類の祖先神)の子世代です。
イアペトス本人はタルタロスに幽閉。
長男のアトラスはどういうわけか「天を支える」という処罰なのか役職なのかわからない苦行のような役目を与えられました。
次男のメノイティオスは勇敢に戦ったためゼウスの雷を落とされ、タルタロスかそれに似た地獄っぽいところに放り込まれたようです。
三男のプロメテウスは赦免されましたが、のちにゼウスに反抗して捕らえられ、処罰(永続的拷問)を受けました。
四男のエピメテウスは無害とみなされ、パンドラという美人の嫁をもらいました。
このイアペトスの息子四兄弟のうち、長男のアトラスがヘスペリデス姉妹の父親とされています。
6・ヘスペリデス姉妹
ヘスペリデスの系譜には諸説ありますが、本作ではアトラスと女神ヘスペリスの子という説を採用しています。
アトラスはモテる男性神だったらしく、様々な女神と結ばれ、たくさんの子どもを儲けました。
ちょっと前の方に書いた暁の女神エオス(処罰を免れた組)の孫にあたる黄昏の女神ヘスペリスとアトラスとの間に生まれたのがヘスペリデス姉妹です。
系譜で言うとヘスペリデスは「父アトラス=大地母神ガイアの孫」「母ヘスペリス=大地母神ガイアの孫の孫」となります。
世代を重ねた分、弱体化していて、もはやティターン神族の一員とは言えません。
両親は神ですがヘスペリデス姉妹はニンフ(妖精)とみなされています。
属性は明確ではありませんが、夕暮れと関係があると推測されています。
姉妹の人数も定かでなく、神話エピソードもなく、ヘラクレスの12の偉業でちらっと触れられている程度です。
※
ここからは原典にない、本作だけでの設定です。
姉妹の生まれ順は登場人物紹介で書かれている順番です。(アイグレーが長女)
体の大きさは人間サイズ(身長160センチ前後)です。
神々には劣りますが普通の人間よりは強く、アキレウスら英雄たちに引けを取らない戦闘力があります。
黄金の林檎を求める侵入者を手際よく冥府へ送ります。
ヘスペリデス姉妹は父親大好きなので、アトラスを冷遇するゼウスが嫌いです。
ゼウスの正妻・オリンポスの女王ヘラはゼウスの浮気を嫌悪し、あの手この手で嫌がらせをするので、『いいぞヘラ様、もっとやれー』という意味で敬愛しています。
その他のオリンポスの神々については、ポセイドンとハデスはちょっと疎遠気味な親戚のおじさん、デメテルとヘスティアはまあまあ仲のいい親戚のおばさん、アポロン・アルテミス・アテナ・アレス・ヘパイストゥスらに対しては『向こうは本家の子で自分たちは分家の子』くらいの認識です。
アフロディーテとデュオニュソスは赤の他人だと思っています。
ティターン神族についてはメノイティオス・プロメテウス・エピメテウスを叔父と認識しています。
イアペトスは祖父、ガイアは曾祖母ですが、遠くにいるので疎遠です。
たくさんいる異母姉妹たちとはそれなりに仲良くしています。
異母姉の一人が生んだ子ヘルメスはゼウスの腰巾着になってしまったので、裏切り者扱いしています。
以上、ヘスペリデス姉妹が何故ゼウスを嫌っているのか、その背景の解説でした。
本作は神話を参考にしつつ筆者の遊び心を加えた物語であり、コメディです。定説と創作の境界を気にせず、物語世界に浸っていただければと思います。
2025/11/30.
イアペトス四兄弟の生まれ順に間違いがあったので訂正しました。メノイティオスを四男としていましたが、正しくは次男でした。




