脱出!! 名工ダイダロス
ここはヘスペリデスの園から少し離れた異界ラビュリントス。
現世に蘇ったミノタウロスが豪邸を構えている場所である。
そのラビュリントスから脱出を図る者がいた。
かつて迷宮を作り上げた名工ダイダロスとその息子イカロスである。
※
「息子よ、今がチャンスじゃ。きゃつらはテセウスの生まれ変わりを拉致しに行っておる。このラビュリントスは今が最も手薄な状態。逃げるには今しかない」
「はい、父さん」
「監視の目を盗んでコツコツと作り上げた現代の翼、パラグライダー『ハヤブサ号』を今こそ使うのじゃ」
「はい、父さん。でもちゃんと二人乗りできるでしょうか?」
「タンデム仕様じゃ。操縦は若いおまえに任せる。最寄りの異界を目指して飛ぶぞ。ヘルメットの用意は良いか? ハーネスに緩みはないか? 風向きよし! 行くぞ息子よ」
「はい、父さん!」
かくして親子は大空へと飛び立った。
※
「父さん、今更ですけど前世で墜落死したので高い所は怖いです!」
「本当に今更じゃな。とにかく失速せぬよう飛ぶのじゃ。太陽に近づきすぎず、海水面に近づきすぎず、中くらいの高さを維持するのじゃ」
「鳥人間コンテストみたいですね、父さん!」
「歴史的には鳥人間よりわしらが先じゃ。前世で飛んだ時は翼がロウ付けであったため耐久性に問題があったが、このハヤブサ号ならば琵琶湖の往復よりも遥かに長く飛べるぞ。ラビュリントスを離れ、世界の境界線を越えるのじゃ」
「はい、父さん!」
ダイダロス&イカロス親子が操るパラグライダー『ハヤブサ号』はラビュリントスの結界を抜け、虚空を飛び、別の異界への侵入に成功した。
「やったぞ、息子よ! 脱出成功じゃ!」
「はい、父さん!」
しかし突然の風にあおられハヤブサ号はコントロールを失った。
「父さん、墜落します!」
「不時着じゃ! 衝撃に備えよ!」
ハヤブサ号はどこかの果樹園に突っ込んだ。
「……息子よ、無事か?」
「……はい、父さん」
木の枝がクッションになり、二人は幸い軽傷で済んだ。
ハヤブサ号の残骸から抜け出した二人が目にしたのは。
「空から侵入してくるとは考えたわね」
「大胆な侵入者がいたものだな」
槍を突き付けて二人を取り囲むヘスペリデス姉妹たちだった。
ダイダロスは両手を頭の上に挙げて敵意がないことを示し、イカロスもそれに倣う。
「我々は決して怪しい者ではございません。ダイダロスと申します発明家とその息子イカロスにございます。どなた様のお庭か存じませぬが、やむにやまれず不時着しました事、お詫び申し上げます」
「お詫び申し上げます」
親子そろって頭を下げるが、ヘスペリデス姉妹は敵意を隠さない。
「ここは女神ヘラ様の命により、我ら姉妹が管理するヘスペリデスの園である」
「侵入者は殺す決まりなのよ。言い訳くらいは聞いてあげるけど、命乞いは無駄だと思いなさい」
死刑宣告である。
さすがに蒼ざめるダイダロス、事態についていけないイカロス。
「なんと、ここはヘスペリデスの園であったか」
「父さん、ヘスペリデスの園って何ですか?」
「息子よ、その疑問は今は胸にしまっておくのじゃ。ヘスペリデスのお嬢様方、お願いがございます。どうか女神ヘラ様にお取次ぎを。天帝ゼウス様にぜひとも伝えねばならぬ一大事でございます」
「ダメよ。そうやって林檎を欲しがる有象無象をヘラ様に近づけないことも私たちの仕事なの」
「林檎目当てではございません。オリンポスに危機が迫っております。それを伝えるために我ら親子は命がけで脱出して参りました」
「信用できんな」
「ええ、信用できないわ」
ヘスペリデス達は胡散臭いものを見る目でダイダロスを見ている。
「林檎泥棒は皆そうやって作り話をする」
「演技派が多いのよね、泥棒って」
「これは偽りではございません!」
ダイダロスは必死で訴えた。
「ラビュリントスの主、ミノタウロスは前世の恨みを晴らすため、コロニー落としを企んでおります。オリンポスに宇宙基地を落とすつもりなのでございます。かのアトラス様がおわす天空の基地を!」
「「なんだと(ですって)!!」」
(次回へ続く)
ダイダロス:ギリシア神話中屈指の天才技術者にして迷宮建築士。大工もするし発明もするレオナルド・ダ・ヴィンチのような万能型。クレタ島のミノス王に仕えて様々な物を発明したが、迷宮の攻略方法をアリアドネに教えたため、機密漏洩の罪に問われ、息子イカロスと共に塔に幽閉される。人工の翼を作り、親子二人で空からの脱出を図るが、イカロスは墜落、ダイダロスのみ生き延びた。本作では蘇ったミノタウロスの支配下に置かれ、異界ラビュリントスで新たな迷宮を作らされていた。ミノタウロスの物騒な企みを知り、現代の飛行装置を用いて息子と共に脱出した。
イカロス:ダイダロスの息子。父親が鷲の翼に似せて作った飛行装置で空を飛んだ伝説の人。高く飛びすぎてはいけないと言われていたにも関わらず、つい浮かれて高度を上げすぎて、飛行装置の翼が崩壊、墜落死した。本作では再びダイダロスの息子として誕生し父親と共に異界から異界へと飛ぶことに成功した。




