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《GIFT》―異能力、それは呪いか祝福か―  作者: 甲斐田 笑美
第6章 虚飾の少女、霞む世界
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6-11 それはただの暴力だ

 長机を囲むように、GIFT HOLDERSの幹部たちが会議室に集っていた。中央にはホログラムの地図と情報ウィンドウがいくつも浮かび、静かに揺れている。重苦しい沈黙が空間を支配し、言葉ひとつで均衡が崩れそうな緊張が張りつめていた。


 第一班〈諜報班〉の浮島は、気の抜けたような顔つきで椅子にもたれながら、目線だけは他の幹部たちの動向を絶えず追っていた。飄々とした表情の裏に潜む観察眼――まさに諜報のスペシャリストそのものだ。


 第二班〈制圧班〉の空西は腕を組み、無言で会議の開始を待っていた。淡いサングラス越しに鋭く周囲を見据え、その奥に宿る炎は隠そうともせずに滲んでいる。


 第三班〈突撃班〉の嵐原は椅子にもたれて壁の時計を見やり、唇の端を上げた。豪胆な風格を纏いながらも、その瞳には獲物を狙う獣のような光が宿っていた。


 第四班〈狙撃班〉の霜柳は、背筋を正し、乱れひとつない和服姿で静かに座っていた。言葉数は少ないが、その圧倒的な存在感は、それだけで場に一種の緊張感を与えていた。


 第五班〈救護班〉の灯野は、その隣で小さく足をぶらつかせながら、やや不安げにホログラムを見つめていた。年相応の無邪気さの裏に、人を救うという純粋な使命感が燃えている。


 第六班〈情報班〉の谷澤は背筋を崩さず、静かに端末を操作していた。几帳面に整えられたネクタイと、無駄のない指先の動き。今この瞬間も、膨大な情報を脳内で精査しているのだろう。


 第七班〈研究班〉の喜多川は白衣姿で椅子に深く身を沈め、ペンをくるくると回していた。無頓着なようでいて、時折ホログラムに視線を送るその目は、事態の全体像を冷静に見定めているようにも見える。


 第八班〈遊撃班〉の氷川玲次は無言でホログラムを見つめていた。寒色のジャケットを纏い、整った顔立ちには冷静な影が差している。その眼差しには、情報の断片すら逃さぬ鋭さと洞察が滲んでいた。


 その静寂を破ったのは、けだるげな足音だった。


 扉が開き、黒のロングコートを羽織った男がゆっくりと室内に足を踏み入れる。


「……長く不在にして、すまなかった」


 GIFT HOLDERS総長――澄野。


 無精ひげに寝癖のような髪。気だるげな風体のその男が一歩踏み込むだけで、室内の空気が微かに震えた。


「資金繰りは、なんとかなりそうだ。協力してくれた各所に礼を伝えてくれ」


 そう言いながら澄野は円卓へと近づき、ホログラムに手をかざして表示を切り替えた。


「よお、玲次。久しぶりだな」


「……はい。お久しぶりです、総長」


「報告は読んだ。よくやってるじゃねえか」


「ありがとうございます」


 玲次の声には、ごくわずかに尊敬の色が混じっていた。


 澄野が椅子に腰を下ろすと、それを合図のように会議が始まった。


「ファントムウィスプについて、現時点で判明していることを整理しよう」


 最初に声を発したのは浮島だった。


「爆破後、三つの現場すべてに即時調査を行いました。火薬や装置の痕跡は見つからず、現象はすべて能力によるものと推定されます」


 続いて空西が静かに口を開く。


「監視映像に共通する人物は確認できなかった。ただし、黒いドレスの人形のような女性を目撃したという住民の証言が複数あります。無視できない情報です」


 玲次が、真っ直ぐ前を見据えたまま語る。


「爆破は、予告された通りの場所と時間で実行されました。現場の構造物にはカウントダウンが表示され、それがゼロになると爆発。まるで建物そのものが爆弾のようでした」


 谷澤が端末を操作し、画面をタップする。


「ネットでは“ファントムウィスプ”の存在が既成事実化しつつあります。支持や称賛の声も見受けられます。そして、つい先ほど新たな動画が投稿されました」


 ホログラムに再生されたのは、機械的に加工された音声の動画だった。


『予告通りに爆破を実行した。防げぬものである事は理解したはずだ。

次の標的は三日後、国会議事堂。腐った権力者たちよ、防ぎたければ答えを示せ。誠意ある回答を待っている』


 再び静まり返る会議室。


 谷澤が口を開く。


「事態は一刻を争います。しかし場所が場所です。出動には国の許可が必要となるでしょう」


 霜柳が静かに言葉を重ねた。


「……そもそも、我々が動くべき事案かどうかも、見極める必要がある」


 灯野が、不安そうに唇を引き結びながら声を上げる。


「誰かがまた傷つくのは、いやです。止められるなら……いますぐにでも……」


 嵐原が肩をすくめ、笑う。


「いいじゃん。国会議事堂なんて派手でさ。燃える展開ってやつだろ?」


 空西が頷いた。


「能力者が関与している以上、制圧班としての出動は避けられません」


 喜多川は、興味なさげに呟いた。


「まぁ、爆破の理屈は気になるけど……現場に行くのは勘弁だな。僕の出番はここまでだ」


 沈黙が、再び室内を包んだ。


 そして、澄野がゆっくりと立ち上がる。


「能力者による、能力者のための正義……そう掲げているつもりかもしれねぇが、それはただの暴力だ」


 その低い声は、静かに、それでいて確かな重みをもって響いた。


「誰かが止めなきゃならねぇ。……だから、俺たちが動く」


 澄野は全員に視線を巡らせ、力強く言い切った。


「GIFT HOLDERS、総出でこの事態を収束させる」


 その言葉が放たれた瞬間、全員の背筋が自然と伸びた。

 命令ではない。ただの一言。だがそこには、揺るぎない意志と責任の重みがあった。

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過去編はこちらから読めます

氷川たちの出会いと「第八班」創設の物語――
『GIFT・はじまりの物語』をぜひお読みください。

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