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《GIFT》―異能力、それは呪いか祝福か―  作者: 甲斐田 笑美
第5章 触れる掌、揺れる未来
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幕間 さよなら、風間圭介

 ──この国は壊れてる。


 気づいたのは、ずっと昔。

 けれど、見ないふりをしてきた。私が壊れてるせいかもしれないって、そう思いたかった。

 でも違った。あの人に導かれて、確信した。

 歪んでるのは私以外の全てだ。


 だから、私は壊す。

 誰も救えないこの仕組みを、根っこから全部ぶっ壊してやる。

 それが、私にとっての“正義”。


 たとえ、誰かに「悪」だと言われたとしても。


 * * *


 ──風間圭介。


 本屋の棚の前で、偶然手が触れた。その一冊の小説を取ろうとして。

 私は、誰にも見えていないはずだった。この“呪い”の力で、今までずっとそうだった。

 それでも彼は、あっさりと私の名も知らない顔を見据えて、「普通に見えるけど」なんて言ってみせた。


 ……私が見えてる?


 驚いた。怖かった。

 そして、懐かしさのようなものを覚えた。


「あなたで二人目よ」


 それは本当。

 一人目は――西蓮さいれん


 でも、あいつの目と、この少年の目は違った。

 あいつの目は、私の中の何かを見抜いたような目。

 この少年の目は、まるで「私なんて普通にそこにいるのが当然」だというような、そんな目だった。


 それが、妙に心地よくて──怖かった。誰かの視線の中にいるという感覚は、私の輪郭を肯定されるようで。でも同時に、それは私の“仮面”を剥がしてしまう。だから──それが一番、厄介だった。


 * * *


 カフェでは、平凡な会話ばかりだった。


 好きな小説、苦手な食べ物、通ってる学校の話。

 彼はまっすぐだった。

 損な役回りを買って出そうな真面目さが、全身から滲んでいた。


 どうしてだろう、と思う。

 どうして、あの時の私が、こんなに素直に話せていたんだろう。

 どうして、ただ座って、くだらない話をしているだけなのに、

 こんなに──懐かしいような、心地いいような。


 まるで、普通の女の子みたいに。


 ……ちがう。私はもう、そうじゃない。

 なりたいと願ってはいけない。

 こんな一瞬に心を許してはいけない。


 私の選んだ道は、もう後戻りのできない場所なのだから。


 * * *


「あんたが一人目だったら、私ももう少しマシな人生だったのかな」


 口から滑り出た言葉に、自分で驚く。

 ああ、私、そんな風に思ってたんだ。

 ……ほんと、やっかい。


「どういう意味だよ」


 彼の声が追いかけてくる。


 でも私は、もう振り返らない。

 黒いレースの日傘を開いて、陽の光をさえぎる。

 心まで、見えないように。


 * * *


 胸の奥が、微かに痛んだ。

 淡いものが生まれそうだった。

 たった今、それを強く、強く押し潰す。


 これは“恋”じゃない。そんなものじゃない。

 そう思い込む。

 これは一時の錯覚。情けのようなもの。甘えだ。弱さだ。


 私は“正義”を貫くって決めた。

 それは独りよがりの、誰にも祝福されない正義だ。

 でも、それでもいい。


 世界を変えるために、私は“悪い女”になるって、決めたんだから。


 それでも、優しい目の少年のことが、胸の奥に焼き付いてしまっている。

 彼を背に、私は人ごみの中に紛れていく。

 ふり返ることはない。

 戻らない。戻らない。戻らない──。


 それでも、


 あの優しさが、胸の奥で小さく灯ったまま、消えてくれない。


 ……ほんと、最悪。


 ──さよなら、風間圭介。


 ここまで読んでくださりありがとうございます。

 ずっと描きたかったシーンを書けて嬉しいです。ここまで来れたのもいつも読んでくださっている皆様のおかげです。


 少しでも心に波が起きたら、感想やリアクションで教えてください。

 あなたの“言葉”が、物語を進める“力”になります。

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過去編はこちらから読めます

氷川たちの出会いと「第八班」創設の物語――
『GIFT・はじまりの物語』をぜひお読みください。

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