表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《GIFT》―異能力、それは呪いか祝福か―  作者: 甲斐田 笑美
第4章 風も凪ぎ、砕けし声は光の中へ
40/69

4-9 人類最強の宣告

 夕陽が傾きかけた空を赤く染めていた。焼け焦げた鉄骨の街に、斜光が長い影を落とす。風は静かに吹き抜け、そこかしこに残る瓦礫の間を撫で、埃と鉄錆のにおいを運んでいく。


「次元移動の能力者よ——お前に問う」


 その声が発された瞬間、場の空気が一変した。熱でもなく、冷気でもない。言葉だけで、空間そのものが引き絞られたような緊張が張り詰めた。


 圧倒的な“存在感”だった。


 光はその男の全身から溢れていた。輪郭を滲ませるほどの強い輝き。それは神々しさというよりも、むしろ現実離れした恐怖を与える異形のもの。名を、白坂光輝という。


 その名が、空気中に“格”として染み渡るように感じられた。


「我と共に来るか……あるいは、ここで雑魚どもと共に滅ぶか。選べ」


 その口調は命令ではなかった。明確な“選択”だった。拒絶すれば、何が起きるのか。誰もが理解できる言葉の重みだった。


 その言葉の重みを、誰よりも敏感に受け止めたのは——拓夢だった。


 彼は一歩、無意識に後ずさった。心臓が跳ねる。反射的に喉の奥に小さな息を詰まらせる。それほどまでに、この男——白坂の“何か”が、根源的な恐怖を呼び起こした。


 だが、白坂は彼の動揺など歯牙にもかけない。


「我と来れば……お前は新たな世界の創造を、その目で見届けられよう」


 その目は、ただ拓夢一人に向けられていた。他の誰にも、視線すら与えていない。人ではなく物を見るように。他の者たちは、最初から“舞台装置”にすぎないという態度だった。


 拓夢は唇を噛みしめ、小さく息を吐く。そして——真正面から、その光の男を見返した。


「……行かない。お前となんか、絶対に」


 静かだが、はっきりとした拒絶だった。震えていた膝を、強引に押し止めるように声を出した。だが、その瞬間——白坂の口元がわずかに動いた。


 笑った。


 それは冷笑でも、侮蔑でもない。まぎれもない、戦意。血の一滴も通わぬ戦慄の光をたたえた表情。


「ならば、無理矢理にでも来てもらおう」


 白坂の周囲に、再び光が集まり始めた。その輝きは波紋のように空気を揺らし、風向きをねじ曲げる。


「拓夢を頼む!」


 玲次の声に応え、空西は一直線に拓夢のもとへ滑空する。以前の戦いで負った傷はまだ完全ではないが、動きに支障はなさそうだ。残骸のトラックをかすめ、加速していく。


「白坂の飛行速度からは逃げ切れない。……拓夢に閉じ込めさせる」


 玲次が低く言い、前方を睨んだ。


「時間を稼ぐぞ」


 五人が横一列に並ぶ。風間圭介、音無恭子、氷川玲次、栗原春香、有栖祐希。背後には拓夢と空西。陣形はすでに整っていた。


 白坂がゆっくりと歩を進める。足音はしない。それが余計に不気味だった。


「まとめてかかってこい。人類最強を前にして、滅びを震えて待つが良い」


 両腕を広げる仕草。白く発光するその身体が、まるで夜を拒む灯台のように輝く。だがその光に、救いの温度はなかった。あるのはただ、圧殺する力の象徴。


(……演出だ)


 圭介は即座にそう確信した。


 その態度はあまりに堂々としている。自信ではない。“確信”だ。敵を敵と思っていない眼差し。まるで……虫を見下ろすような目。


「数はこちらが多い。勝機を捉えるまで持久戦だ」


 玲次が静かに言った。その計算には、すでに拓夢と空西の動きも組み込まれている。


「……くだらん。虫けらども」


 白坂が一同を一瞥した。その目には、終始一貫して“価値のなさ”しか映っていない。


 玲次のこめかみに汗が浮いた。その焦りが、逆に圭介の中で静かな怒りへと変わる。


「戯れは終わりだ。闘う気がないなら……ここで、終われ」


 白坂が一歩を踏み込んだ瞬間、全身が閃光に包まれる。反射的に腕で目元を覆った。


 そして。


 空気が急激に冷えた。


 バチン——と、空気が弾けるような音が響く。玲次が足元に掌を叩きつけた瞬間、彼の体から冷気が奔った。白い霧のようなそれは地を這い、ひび割れたアスファルトの隙間や瓦礫の影に入り込み、凍結を始める。


 音が変わった。


 不気味な音とともに、氷が爆発的に成長していく。まるで地面が息を吹き返したかのように、氷柱が隆起し始めた。


 目の前の地面が、壁のように盛り上がる。コンクリートに染み込んだ水分すら凍らせながら、氷はビルの三階に届かんとする高さまで一気に伸び上がった。


「っ……でかっ」


 圭介が息を呑む。


 玲次の冷気は、空気中の湿気をも凝縮し、密度と厚みを持つ“防壁”へと姿を変えていた。凶暴なまでの速度で育ち、視界を、空気を、すべてを遮断する。


 陽を遮ったそれは、背後に長い影を落とす。地面はわずかに震え、足元からも“質量”が伝わってくる。


 それはもはや壁ではなかった。断絶そのものだった。


 その裏側に——白坂がいる。


 氷の壁は、確かにその一瞬を防いだ。


 けれど。


(……なんで、飛ばない?)


 圭介の視線が自然と壁の上空へと滑った。白坂は飛べる。玲次もそう言っていた。逃げ切れないほどの速度で飛べるのに。


 ——だというのに。


 白坂は、飛ばない。


 氷壁の向こうからは何の気配もない。無音。まるでこの世から消えたかのような沈黙。


 それが逆に、圭介の神経を研ぎ澄ませた。


(違う……飛ばないんじゃない。飛べるのに、飛び越えてこない)


 ぞわり、と背筋に異質な冷気が走る。氷の寒さではない。もっと根本的な、“悪意”そのもののような感触。


 警戒が、確信に変わる。


 白坂は飛ばない。手間だからでも、警戒しているからでもない。


 ——ただ、遊んでいるのだ。


 戦力差を誇示するために。


 圭介は拳を握りしめた。目の前の氷壁は、確かに巨大だ。けれど、それは「時間を稼ぐため」の壁だった。


 白坂は、その“時間”すら奪おうとしていない。


 ——奪う価値もない、と。


「……なめられてるな、完全に」


 そう口に出した瞬間、自分の中の火が一層燃え上がった気がした。


 玲次も、おそらく気づいている。春香も、恭子も。誰もが黙して、氷壁の“その時”に備えていた。


 氷の向こう側。


 見えない圧力が、着実に満ちていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

過去編はこちらから読めます

氷川たちの出会いと「第八班」創設の物語――
『GIFT・はじまりの物語』をぜひお読みください。

▶ 過去編を読む
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ