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《GIFT》―異能力、それは呪いか祝福か―  作者: 甲斐田 笑美
第3章 絵は揺らめき、夢は焦がれり
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3-4 三者三様、訓練開始

 午後の陽射しが、傾きかけた空に長い影を伸ばしていた。淡い橙色の光がコンクリートの地表を撫で、まるでそこにかつてあった喧騒の名残を優しく包むようだった。


 旧・国道沿い配送センター第7倉庫――通称「セクション・セブン」。

 郊外のさらに外れ、地図の端にようやく記されるような場所に、それはあった。


 全盛期には数十台の大型トラックが行き交い、労働者たちの声が飛び交っていたであろうこの地も、今や時の流れに忘れられ、朽ちるだけの静寂に支配されていた。


 広大な敷地には、ひび割れたアスファルトが蜘蛛の巣のように走り、風化した倉庫の残骸が点在している。鉄骨は錆び、骨組みだけになった屋根が空を透かしていた。

 焦げ跡の残る壁面には、かつてここで何かが起きたことを思わせる記憶の断片が刻まれている。雑草さえ根を張ることを拒むような無機質な地表――それでも、その無骨さには、どこか研ぎ澄まされた孤独があった。


「……久しぶりだな、ここ」


 瓦礫を踏みしめた赤いスニーカーが、乾いた音を立てた。

 春香が肩を回しながらそう呟いた。かすかに鼻をすするような仕草を見せたのは、懐かしさか、それとも昔の汗の匂いを思い出したのか。


「ここ、昔ちょっと使ってたんだよね。訓練用に。誰にも邪魔されないし、好きに使えてさ。壊しても、怒る人もいないって最高じゃん?」


「訓練って……能力の?」


 圭介が尋ねると、春香はイタズラっぽく笑った。


「そ。ま、最初は単なる体力づくりだったけど。あたし、じっとしてるの苦手なんだよね。だから、自分なりに“やれること”をここで探してた」


 ふと、風が吹き抜けた。倒れた鉄柵が軋み、近くの看板が微かに揺れる音がした。そこに暮らしていた何かが、息を潜めて様子を伺っているかのように感じられた。


 少し遅れて歩いていた恭子が、足を止める。

 彼女のすぐ隣に、小柄な少女――アリスがぴたりと並んでいた。


 アイボリーのシャツワンピースに黒のレギンス。動きやすさと機能性を重視した服装に、ただ一つだけ、彼女らしさを象徴する大きな髪飾りが揺れている。黄色い花弁が、まるでおまじないのように陽の光を受けて輝いていた。


「……私だって、好きで来たわけじゃないんだからね」


 と、ぼそり。


 恭子が眉を上げて振り向くと、アリスはちらりと目線を返し、むすっとしたまま続けた。


「インドア派の私が、わざわざこんな荒野みたいなとこまで付き合ってあげてるんだから。ちゃんと成長してもらわなきゃ困るよ?」


 言葉の裏には、恭子への信頼と、仲間としての想いが滲んでいた。

 恭子は柔らかく微笑むと、小さくうなずいた。


「……ありがとう。がんばる」


 場の空気が少し和らぐ中、玲次が時計をちらと見た。


「よし、じゃあそろそろ始めるぞ。時間、無駄にするな」


 それだけの言葉に、誰も異を唱える者はいなかった。

 春香が両手を腰に当てて、軽く身体を前に傾けた。


「圭介、ついてきな。まずは基礎から、びっちり鍛えてやるから」


 その後ろで、アリスが髪飾りを直しつつ、恭子をじっと見据える。


「まずは、共鳴の範囲と精度を確認する。焦らないでね。あくまで、今のあなたを知るのが目的だから」


 そして、玲次は少し距離を取りながら、拓夢をじっと見つめた。


「お前は……好きにやってみろ。何ができて何ができないのか見極める」


 三者三様の声が、静かに交差する。


 昼下がりの空の下、セクション・セブンにそれぞれの想いが交錯する。

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過去編はこちらから読めます

氷川たちの出会いと「第八班」創設の物語――
『GIFT・はじまりの物語』をぜひお読みください。

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