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《GIFT》―異能力、それは呪いか祝福か―  作者: 甲斐田 笑満
第2章 銃声は遠く、絆は近く
18/22

2-6

 リビングには、沈黙に似た静けさが流れていた。

 俺たち――圭介と恭子、そして俺の父さんと母さん、それに玲次さん春香さんアリスが、ソファやテーブルを囲むように座っている。


 ここは廃ビルの最上階。外観はボロボロでも、中は綺麗に整えられていて、今はこの中だけが、現実から切り離された安全圏みたいに思える。


 俺と恭子が置かれている現状を、父さんと母さんにきちんと説明するため。そして、父さんの抱えている事情を聞くためにも、落ち着いて話せる場所が必要だった。そこで、春香さんの提案もあって、こうして拠点に戻ってきたというわけだ。


 ソファの隣に座った恭子が、小さくため息をついた。


「……ほんとに。無事だったのが、奇跡みたい」


 その声に振り向くと、彼女は安堵と疲労が入り混じったような表情で俺を見ていた。

 恭子はずっと、俺のことを心配してくれていた。表には出さなくても、その目が物語っていた。


「ああ。なんとか、な」


 小さく笑って返すと、彼女もふっと笑った。少しだけ、肩の力が抜けた気がした。


 だけど――この空間で一番緊張しているのは、母さんだ。

 無理もない。知らない場所で、知らない人たちに囲まれて、しかもさっきまで自分や息子の命が狙われていたなんて――。


 その空気を読み取ったように、玲次さんが口を開いた。


「まずは……落ち着いて聞いてください。俺たちは、ある“組織”に対抗するために活動している“GIFT HOLDERS”という勢力に属しています」


 玲次さんは父さんと母さん、特に母さんに向けるようにして、丁寧な口調を選んでいた。


「その組織は、能力者を探し出し、利用しようとしている。その対象に――圭介たちが含まれているんです」


「……能力者?」


 母さんの声がかすかに震えた。隣で父さんは目を伏せている。


 玲次さんはテーブルの上に置かれていたティーカップを手に取り、それをそっと自分の前へと置いた。

 そして、指先をそのカップの外側に添える。


「信じられないかもしれませんが、目で見てもらった方が早い」


 その言葉のあと、カップが白く霜を帯びはじめた。音もなく広がっていく冷気。やがて中の紅茶が凍り、カランと音を立てて固形の紅茶が転がり出る。


「……っ」


 母さんが息を呑むのが聞こえた。驚きと、信じがたいものを見たという表情が浮かんでいた。


「これが、俺の“能力”です。冷気を発する力。この世界にはこうした“能力者”が存在するんです」


 玲次さんは、カップから視線を上げて続ける。


「俺たちGIFT HOLDERSの役目は三つあります」


 彼は指を折りながら、はっきりとした声で言った。


「一つ、能力を持つ者たちの保護。

 二つ、能力の制御を学ぶための訓練推進。

 そして三つ、能力を使った犯罪行為の抑止。――これが、俺たちの基本方針です」


 静かで、だけど一点の曇りもない口調だった。

 信じたくない現実に戸惑いながらも、母さんはもう、それを否定できなくなっていた――そんな顔に見えた。


「……圭介と音無さん。君たちも今、能力が芽生えつつある段階にあると考えています」


 玲次さんは、俺と恭子を見た。


「今後は訓練と観察を通じて、君たち自身が“何者なのか”を見極めていく。力は、放っておけば暴走します。だからこそ――制御する術が必要なんです」


 その言葉に、俺は迷わず立ち上がった。

 橘の襲撃、次いで家族を巻き込んだ黒田の襲撃。これらを経験した事で自分の中で、はっきりしているものがあった。


「……俺は、玲次さんたちを信じてる。自分の力がどんなものか、ここで知りたい。何ができるのか、見極めたいんだ」


 父さんと母さんに向けて、その言葉を届けた。俺の覚悟として。


「力があるなら、それを誰かのために使いたい。奪うためじゃなく、守るために」


 隣の恭子が、同じように立ち上がる。


「私も、同じです。圭介と一緒にここにいさせてもらおうと思ってます」


 玲次さんがわずかに目を細め、笑った。


「……心強い言葉だな。ありがとう」


 そして彼は、ゆっくりと視線を移す。

 父さん――風間和久に。


「さて。次は、あなたの話を聞かせてもらいたい。……“能力者”としての、あなた自身の事情を」


 その瞬間、部屋の空気が静かに変わった。

 言葉を飲み込むようにして、父さんは顔を上げた――。

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