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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

新たな成長期

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 みんな、人間の成長期はおよそどれくらいまでか、というのは聞いたことあるかな?

 ……おやあ、どうした? いきなり何人か顔が暗くなったな。

 そう悲観しなくても、みんなには無限の可能性がある。望むのなら、きっと理想通りの成長が遂げられるはずさ。意志あるところに道はある。

 ……むう? また何人かの顔が険しくなったな。「無責任なこと、いってんじゃねえ!」とでも言いたげだな。

 ははは、どうやらこちらに問われるでもなく、成長期の存在は知っているというところか。

 思春期、第二次性徴のころが人間の人生の中でも最後の成長期と考えられている。男子は11歳ごろから、女子は10歳ごろから始まり20歳になる前には、終わってしまう。

 骨ががっしりしてしまうと、それ以上の大きな変更というのは行いづらくなり、そのまま身長のストップへつながるというわけだ。で、その時点での身長を今生の天命と思い、付き合っていくよりなくなる。


 と、いうのが現段階の人間の「自然」ななりゆきだ。

 だが、無限の可能性というのも嘘じゃない。科学、医療の技術は日進月歩だからな。いまこうしている間にも画期的な手法に認可がおり、その生物としての運命が変えられる可能性もゼロじゃないからね。

 まあ、薄っぺらな論を並べられてもそうそう納得できはしまい。

 ひとつ、先生が味わった「可能性」の話。聞いてみないか?


 さて、こうしてみんなの前に立つ先生だが、身長はどれほどかというのは覚えているかい? 自己紹介のときにちらっと話をしたと思うんだが。

 おお、よく出てきた188センチメートルだな。

 ま、この身長そのものは低いとは言い難いが、超でかいというわけでもない。環境が環境なら特に注目されることもないだろうさ。

 だが、実は成人する直前の身長、150センチしかなかった……といったら、信じるかい?

 ま、口では信じないだろうから……じゃ~ん、お写真を持ってきたのだ。

 ほら、家の近くにあったコンビニの入り口が150から190センチまで高さの測れるラインが引いてある。

 一緒に写っているのは、先生の兄だ。兄は父親似、先生は母親似というがよその人から見るとどうなんだろうね。

 とまあ、それはともかく。兄は、174はあろうかというところで、弟の先生は150にようやく届くあたりだろう? のびのび育ちやすい下の子のほうが身長は伸びやすい傾向にあると聞いたことがあるものの、我が家には当てはまらなかったらしい。


 低い背、というのをそこまで気にするつもりはなかったのだが、まわりと比べるとどうもな。男としての沽券にかかわってくるというのが。

 さすがに、ホレた女よりも背が低いというのは、当時の先生にとってかっこのつかない話であったのだ。

 彼女自身の好みはしらんよ。ひょっとしたら低身長好きだったかもしれないが、少なくとも先生はひとりの男として背が低いままでいたくなかったのだ。しかし、すでに20歳を迎えんとするこの身をあと30センチも伸ばすとなれば、どうなるか。

 お医者さんか? その手のホルモン治療は年齢が若いうちでなくては、効果が出づらいと聞く。大枚はたいて効果がまるで出ませんでしたなどと、素直に受け入れられるほど人ができているものは多くあるまい?

 たとえ堂々と陽の下歩ける正道でなかったとしても、結果がこの手にほしいとき。ハードルはどんどんと下がっていくものだ。


「背を伸ばしたいなら、これを飲むといいよ」


 そういって、ガラス瓶に入ったドロップを友達が進めてくれたのは、成人になる少し前だった。

 高校時代の友達は先生と大差ない背丈だったが、この1年で20センチ近くは身長を伸ばして、軽く見上げるほどになっていたんだ。正直、ショックがでかかった。

 厚底の靴でも履いてんのかという邪推も、一緒に温泉へ入るときには、その手のごまかしがきかない。確かに友達は、私の背丈を凌駕していた。

 特徴的なのが、その背骨だ。隆々と皮膚の表面に浮き上がるそれは、まるで凶器としてそのまま使えそうな、荒々しくもはっきりとしたフォルム。他の男の裸など多く見たわけでもないが、十分に異様さを感じられたな。

 鍛えているのか? と突っ込んだら、その例のドロップを風呂上がりにすすめられたわけだ。


「こいつを、日に3回食べる。一回と一回の間は少なくとも4時間空けたほうがいい。向いているなら、個人差はあるだろうがそのうち効果が出るはず……いや、いま試したほうがいいかな。試しに一個、舐めてみ?」


 こんな得体のしれないもの、普通なら拒んだろうけどね。あっさり受け入れるあたり、先に話したハードルが下がっていたのにくわえ、友達の言という後押しもあったのだと思う。


 苦かった。

 タラの芽やふきのとうといった、苦みを感じる山菜をいくつも混ぜ合わせて、そのエグいところだけ抜き出したような、実に特徴のある味だ。舌に乗せただけで、思わずむせて涙が出そうだったよ。

 が、良薬は口に苦しとは先人の言葉。

 なまじ甘くして飲みやすさを重視したものより、苦くて飲みやすいもののほうが効果をもらえそうな気がする。ひとえに、苦労をしたからには報われるという希望が根っこにあるからだろうか。


「その反応、どうやら期待できそうだな。喜ぶといい……そら、受け取れ」


 その声に反応して友達のほうを向いたとき、いつの間に買ったのか、友達がフルーツ牛乳をこちらへ投げていた。

 ビンではなく、パックであったということは、風情がない点をのぞけば安心安全ではある。

 が、投げる方向が見当違いだ。声をかけるタイミングも遅く、すでにパックは先生の真横をすり抜けんばかり。「てめえ、ノーコンすぎるぞ」となじりたくなった、その一秒足らずの間で。


 くくっと、パックが軌道を変えた。

 磁石に引き寄せられる形で、先生のほうへ向き直りその手のひらへおさまるフルーツ牛乳。変化球なんてレベルじゃない、と友達を見るけれどニヤニヤするばかり。タネはいっさい明かしてもらえなかったし、先生も目の錯覚かと思って追及しなかったよ。

 ただ、これでドロップを食することで背を伸ばす効果を得られる適性がある、というのははっきりしたらしい。そうして、先生はドロップを摂取し続けてこのような身長に至るわけだが……友達が見せた、やっかいな性質も身に着けてしまった。


 話を聞いていて、うすうすみんなも予想できたかもしれないが、ここは実演して見せようか。

 ちょうど、先ほどからこの教室に蚊が飛んでいる。音が聞こえているだろう? すでにとらえている人はいるかな?

 ああ、いやいや言わなくていい。先生も見えていないが、このチョークで十分。窓に向けて投げてみるよ。じゃあ、いくよ――。


 ふ、どうだい? 先生のスーパー魔球ならぬスーパー魔チョークは。170度ターンくらいしたかな?

 蚊が見えていた人には、はっきりとチョークが蚊をとらえたの確認したようだけど、そこに落ちて砕けたチョークには、蚊の血も身体もついちゃあいまい?

 ありていにいえば、先生がどうやら「ぱっくんちょ」しているようなんだよ。先生がものを投げたり渡したりするとき、念を込めた相手から少しずつ少しずつ、構成するものをいただいている。それがこの成長に作用するのだと。

 まさに念力というかな。本気で狙えばこれをかわせる者はいない。仮に物陰へ隠れても、あり得ない軌道でもって追っていくと思うよ。試していないけれどね。

 でも、こいつはもう多用はしていない。友達はすでに亡くなってしまったからね。210センチだかに到達したその日に、先生へ連絡をよこしてきたんだ。「もう、死にそうだ」とね。

 駆けつけた家の中で、友達はあのぶっとい背骨だけを残して、いなくなっていたんだ。着ていたと思しき、服は転がっていたけれどね。


 あのドロップ、背骨に新たな成長期を与えるのではあろう。

 ただし、どこまでも背骨が主人公で、それを取り巻く身体や臓器はすべて脇役にされ、消化されつくしてしまうのだろう。

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