10 クラスメイトの追い払い方
街は俺の噂で溢れていた。たった一発の銃弾で六匹のゴブリンを打倒した魔弾の使い手――だとか。
尾ひれってこうやってついていくんだろうなって思う。実際は六発の弾丸で倒しただけなのに。
『やっとご主人の苦労が報われたよね! ……媚を売りたい連中もうろつきだしてるけど』
「今だけだろ。その内みんな慣れて何も言わなくなるさ」
『ご主人、まだこの街にいるの?』
俺はコルトの整備をしながら答える。シリンダを取り外し、溶剤を浸した布を細い棒につけて銃身の煤を取り除いていく。その後はブラシで残った細かい汚れを掻き出す。シリンダも同様の手順で清掃し、元に組み立て直すだけだ。
コルトはリボルバータイプの中でもパーツが少なく、バラしやすいのも強みらしい。メンテ動画を見るだけで大体分かってしまった。
「本当は遠くの国に行くつもりだったけど、暫くここに滞在するのも良いかなって思うんだ。知らない場所に行くのにはリスクもある」
クラスメイトや王女ともあれっきり全く音沙汰がない。
最初から連中は俺のことなど眼中になかっただけで、こっちが必要以上に警戒していただけなのかもしれない。
『それもそうだね』
その時、ドアがノックされる。
また噂を聞き付けた奴らか? めんどくさいので無視しようとしたが……。
「ヤマト君? いるよね? お願いだから開けて」
俺はその声に対し、警戒感を跳ね上げた。リアをポケットに押し込み、コルトはホルスターに収める。
「……今更、何しに来たんだよ」
俺は扉に近づかず、そのまま話しかけた。
「伊藤に言われたのか?」
そう、こいつは伊藤の取り巻きの一人の北村。クラスではマドンナだとかミス・高校生だとか言われてるが、知ったことじゃない。
今は俺の敵でしかない。
「そうじゃないの! お願いだから開けてくれる?」
「………」
コルトのグリップに手を添えたまま、ドアに近づいて開けてやる。
魔法使いのコスプレみたいな恰好をした北村が立っていた。こいつのタレントは魔導士だったな。
つまりサルティナと一番相性がいいわけだ。戦闘力もトップレベルかもしれない。
「………」
俺は無言で顎で入るよう示す。一応ドアを閉める前に周囲を確認するが、他のクラスメイトの姿は無かった。どこかで見張ってるのか。
「変わったね、ヤマト君。凄くカッコよくなったよ」
「……お前らが誠心誠意、俺を馬鹿にしてくれたからな。だからここまで来れた」
俺は棘を隠さずに告げる。正直、今すぐに帰って欲しい。
「それまでの事は謝るよ! 本当にごめんなさい! でも、後はもうヤマト君にしか頼れないの……だから……」
「……何があった?」
「コバセンがね、ある日から突然、私たちの前で凄い怖くなったの。男子たちは抵抗したけど、コバセン、王女と仲を深めたみたいで……凄く強くなってた。みんなボコボコにされて、男子は全員奴隷みたいになって、私たち女子は……」
「………」
俺は何も言わず、彼女に背を向ける。
確かにあの先公ならやりかねないだろうなぁ。
「だからね、ヤマト君を連れてこようと思ったの。あなたがいれば――またサンドバッグに出来るから!!」
振り返ると、北村は杖を振り上げ魔法陣を展開していた。
「……どうせ、そうだと思ったよ」
対し、俺は冷静にコルトを抜き、一瞬で彼女の手から杖を吹き飛ばす。
「……え?」
魔法陣が消滅しカラン、と転がる杖。呆けて棒立ちする北村。
「お前って勉強も運動も出来るのに、バカだよな」
「なっ!?」
「そんな見え透いた嘘、流石に信じねぇって。それとも伊藤の入れ知恵? あいつスポーツ馬鹿だもんな」
「く、少し瘦せたくらいで調子に乗んなブタが! 伊藤君を馬鹿にしないで!」
「はいはい、あー怖いですねぇ」
俺は杖を更に遠くに蹴飛ばし、ゴリッとコルトの銃身を北村の脳天に押し付ける。
「で? どうして俺の居場所が分かったの?」
「……それは……いうわけないでしょ、デブ」
パアン! と俺は彼女の耳元に一発見舞う。
「言わないなら良いけどな。お前らが俺を何とも思わないように、俺もお前らの事は心底どうでも良い。虫けらを殺しても何も感じないだろ?」
「っっ!」
北村の顔が青ざめた。ゲロるかな?
「……清川っているでしょ。アンタと同類のキモオタ。あいつのタレントが、人探しに使えるくらいに進化したのよ。一睡もさせずにシバいて訓練させても、こんなに時間かかったけどね」
あいつか。同類でも別に仲良くないから、ああそうですかとしか感じない。問題は場所がバレたって事だろう。
この一か月何ともなかったのは、ただ単に俺を探していただけか。困ったな。この街、結構好きだったのに。
「ねえ、ちゃんと知ってること全部話したからいいでしょ? 見逃してよ」
「……良いよ」
俺は北村を解放する。彼女は杖を拾い上げ、去り際こちらを振り向く。
「でもアンタももう終わりよ。すぐに伊藤君たちがやってくるから。ボコボコにされなさいよ。泣いても謝っても許されないけどね!」
捨て台詞を吐いて逃げていった。
『ご主人、見逃してよかったの?』
「流石に街中で事を起こすわけにもいかんだろ」
でもまあ、覚悟は決まったかな。
「リア、迎え撃つぞ」
『――アハハ、そうだね。やっちゃおうか』